43.告白
俺達はゆっくりと歩く、夕日が沈んであたりはもっと暗くなってきた。俺は里香の手を痛くならない程度に握りしめる。すると彼女は顔を赤らめながらも嬉しそうに笑みを浮かべて握り返してくれる。素直に自分の想いを示してくれている。ああ、わかってるよ。ここでここまで気持ちを示されて逃げるなんてことは許されない。そんなのヘタレではない、ただのクズだ。だから俺はライバルから恋人になるための会話をする。
「実は俺さ、好きな人がいるんだよ」
「ふーん、そうなのか。どんな人なんだ? いや、当ててやるよ、学年一頭が良くて、綺麗でクールな美少女だろ?」
「自分で言ってて恥ずかしくないか?」
「なんのことだろうな? 話はそれで終わりじゃないんだろ?」
俺の言葉ににやにやとでも嬉しそうに意地の悪い笑みを浮かべる里香、その瞳は俺をじっと見つめている。まるで次の言葉を早く言えと急かしているようだ。
「俺の好きな人はさ、不器用でいつもクールぶっているくせに、いざイレギュラーがおきるとすぐテンパるへっぽこな奴なんだよ」
「なんだと……」
俺の言葉に里香が唇を尖らせて抗議をしてくる。だけど、俺はそのまま言葉をつなげる。
「でも、天才なんだけどすごい努力家でさ、興味のあることにはすごい一生懸命で、俺のためにノートを作ったりもしてくれたりして、口は悪いけど、すごい優しい女の子なんだ。俺はそんなその子に惚れたんだ。ずっと好きなんだよ」
「……」
いつの間にか周囲からは人がいなくなっている。もちろん偶然ではない。元々人の少ないところに誘導していたからな。事前に下見をして人もいないし、雰囲気もいい。だからここに決めたのだ。
そして俺達は見つめあう。こうしてじっくりと見る彼女は慣れない化粧をしているせいかいつもとは違って見える。いや、それだけじゃないな。俺はこんな潤んだ目の彼女を知らない。少し不安そうだけど何かを期待している彼女の目を知らなかった。でも、こうして俺は彼女の色々な新しいところを知っていくのだろう。それを想うととてもワクワクするし胸が暖かくなるのだ。
「赤城里香さん、小学校の頃から好きでした。俺と付き合ってください」
「仕方ないな。付き合ってやるよ」
この女ぁぁぁぁぁ!! かぐや様でも言っていたけど、告白した方が立場弱いな!! 俺はなぜか顔をうつむいている里香を前にそんなことを思い出していた。え……でも、オッケーってことは、これで告白は成功なのか?
「ごめん……今の無しで……大和が勇気を出してくれたのにこれじゃあだめだ……」
「え、俺フラれるのか?」
「違う……こっちに来い!!」
そういうと彼女は俺の手を引っ張り体を寄せる。柔らかい感触と共に甘い匂いが俺の鼻腔を刺激する。やばい。催眠術の時に抱き着かれたりはしていたがこれは予想外だった。そして彼女は俺の耳元で囁くように言った。
「素直に言えなくてごめん……私もずっと好きだったんだ。だから、無茶苦茶嬉しい。私はね、大和のいつも私が困ってると助けてくれるところが好き。私と一緒にいるために同じ高校に来てくれて泣くほどうれしかったし、大和に彼女ができたらって思うと死にたくなったんだ……あのさ、大和こそいいんだよな。私は結構めんどくさい女だぞ」
「そういうところもすきって言ってるんだよ、俺は」
「ふーん、でも言葉だけじゃ信用できないな。だから行動でしめして欲しいかな」
そういうと彼女は満足そうな笑みを浮かべて、目をつぶり唇を突き出した。流石の俺だってそこまでされたらわかるさ。俺は勇気をだして彼女を抱きしめて、そして……ファーストキスはキャラメルの味がした。そうして俺たちは恋人になったのだった。
月曜日の朝、俺はなぜか里香の家にいた。いただいたパンを食べていると、ジャージに、髪の毛がぼさぼさで寝ぼけまなこの里香がやってきた。
「おはようー、母さんまだいたんだね、冷蔵庫の中身は食べてないよな? 昨日大和のために一生懸命作ったんだから、減ってたら怒るからね!!」
俺を自分のお母さんと勘違いしているらしい里香が声をかけてきた。ラインでは昨日の残り物だけどお弁当を作ったから一緒に食べようっていってったんだが? 可愛すぎないか? などと思っていると里香と目が合い彼女は信じられないという顔で俺を見つめる。
「その……おはよう」
「……おはようって、なんで大和がいるんだよ!!」
「いや、一緒に登校するのが楽しみすぎて早起きしちゃったから、里香の家の前でまってたんだけど、たまたま里香のお母さんに会ってせっかくだから上がっていけっていわれてさ……」
「あー、もう、余計な事を……ちょっと顔洗って髪の毛ととのえてくるから待ってろ」
「そのままでも可愛いぞ」
「うっさい、そういうのはいいんだよ」
俺は慌てて洗面台の方へと走っていく里香を見送りながら思う。ああ、なんか新鮮だなぁとか、学校ではどう接するべきかな、イチャイチャしたらまずいのかなまど色々とかんがえていると里香が帰ってきた。
「うう……寝起きを見られた……もうお嫁に行けない」
「俺がもらうから安心しろって」
「昨日つきあったばかりのやつのそんなセリフなんて信用できるか、くっそ母さんには注意しておかないと……」
そうぶつぶつと言っている里香をみながら俺は幸せな未来を想像するのだった。一緒に朝ご飯ってさ、なんか新婚みたいじゃない?
「なんだよ、にやにやして気持ち悪いなぁ……」
「俺の彼女は可愛いなって思ってさ」
「うう……朝からこいつは……」
そういいながらもまんざらでもない顔をする里香を見つめながら、俺は一緒に朝ご飯をいただくのであった。
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