28.結果発表
すべてのテストが終わり、通常の授業も終わった。普段ならこのまま部活なのだが今日ばかりはそうはいかない。俺が意を決して教室から出ると、走って教室にやってきた里香とぶつかりそうになった。一体どうしたというのだろう。彼女は肩で息をしている。
「全くこんなところで何をやっているんだよ? 早く行こう。自信はあるんだろ?」
「今行くところだったんだよ。そんなに走って心配しなくても大丈夫だぞ」
「心配何てしてないさ、大和と一緒に勝利を味わいたかったんだよ。迷惑だったかな」
「いや、嬉しいさ、ありがとう」
ちょっと不安そうに上目遣いで聞いてくる里香に俺は答える。わざわざ俺を教室まで迎えに来てくれたのは素直に嬉しいし、彼女もこうは言っているが心配してくれているんだろうなというのがわかる。俺達は一緒にテストの結果が貼ってある掲示板の前にたどりついた。
進学校とはいえ意識の違いがあるのだろう、特進クラスの連中で溢れている中俺は自分の名前を探す。一番上に見慣れた名前があった。
一位 赤城 里香 299点
さすが里香だ。でも、珍しいな、一点逃すなんて……などとおもって里香を見ると彼女は唇を尖らせていった。
「私だって冷静だったわけじゃないんだよ。大和が私のためにたたかってくれているし、勝負がどうなるかずっと気になっていたんだからな」
「里香……」
「あとさ、大和がパシリになるくらいなら、私があいつとデートくらいするからな」
「お前聞いて……」
里香の言葉に俺は驚いた顔をしていると拗ねたように顔を逸らされた。朝別れた後につけられていたのか。あの時見た人影は里香だったのだろう。
「ふん、いつもかっこつけてさ……そんなことをしなくても君がかっこいいってことを私はとっくに知ってるんだよ」
「ありがとう、でもさ、俺はお前の前ではかっこつけたいんだよ、他の誰でもない里香の前でだけはかっこつけたいんだ。頭のいい里香ならこの意味わかるだろ?」
「え……それって……大和、そういう事はちゃんと言葉で言ってくれなきゃわからないんだけど……」
俺は彼女にお礼を言って、自分の名前を探す。自分でも恥ずかしい事を言った覚えがあるので、里香の顔をみることはできなかった。不安で震えている俺の手に暖かい感触に包まれる。里香が手をにぎってくれてたのだ。俺は勇気を出して掲示板にある自分の名前をみつけるのだった。
俺の順位は52位、他はどうだ……青木が65位だと……? なにがあった? 俺が困惑していると聞き覚えがある声が聞こえた。
「俺が負けただと……ありえない……」
声のした方をみると灰崎が絶望した表情で呻いた。彼の順位は69位だった。点数を見てみると英語と数学はあいつが少し上だったが、国語で大きく点数を落としていた。
「あれー、灰崎どうしたのー? まさか、緑屋に負けたのか? 特進のくせに情けないなぁ。それにしても国語だけやたら低いね。なんかあったのかい?」
「青木……まさか、お前わざと俺にみせて……?」
青木の言葉に動揺してつかみかかる灰崎に彼は軽薄そうな笑みを浮かべて、へらへらと答える。その表情は笑っているけれど目は一切笑っていない。青木は普段はあほだが、いざとなった時の機転はすごいのだ。まさかあいつ……
「おいおい、どうしたんだよ? まさかお前、俺の答案をみたのか? 悪いな。後半全然わからないから適当に書いちゃったんだよね」
「くそが!! はめやがったな」
「というかさ、堂々とカンニングしたっていってるんだけどわかってる?」
詰め寄る灰崎に青木は相も変わらずへらへらと笑いながら答える。助けにいこうとすると、目があった青木が首をふった。やがて、二人の騒動に教師が何事かとやってきて、青木が手を挙げて、灰崎と一緒に連れて行かれた。すれ違いざまに青木が俺に対してウインクをしていった。それで俺は確信をする。あいつ……俺を助けてくれたのか。
「大和やったな、君ならできると思っていたよ」
騒動が落ち着いたのタイミングで、里香が嬉しそうにいってくれた。俺が答えようとすると、体が暖かいものに包まれるっていうか里香が抱き着いてきた。彼女はそのまま小さい声でつぶやく。
「よかったぁ……大和はやっぱり私のライバルだな。君なら絶対勝つと思っていたよ」
「いや-、でもあいつが里香に謝る前に先生に連れて行かれちゃったしな……てか、みんな見てるぞ」
「う……ごめん…つい、嬉しくてさ……もしかして嫌だったかな?」
「いや、無茶苦茶嬉しいけど……」
「じゃあ、もうちょっとこうさせろ。私だって落ち着かなかったんだからな」
そうして里香は顔を真っ赤にして俺の胸に顔をうずめていている。自意識過剰かもしれないが、周囲がざわざわしていたので、月曜日からこわくなりそうだ。そりゃあいきなり、男女が抱き合ってたら目立つよなぁ……でも、俺達の関係が進んだみたいで嬉しかった。
この後はテスト明けの部活である。里香とは部活が終わったら合流するという話をしていったん別れた。ちなみに、青木から連絡もあり、灰崎は厳重注意をされて、青木は無罪放免という形をとって解決したらしい。部活にきたら青木にはお礼を言わないと、そしてその後は里香と祝勝会だ。
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