40.映画デート
パンケーキを食べて店を出ると、ちょうどいい時間になっていた。冬という事もあり、肌寒く、吐いた息が白い。この後は映画を観に行くことになっているのだ。俺が里香に声をかけようとすると彼女はなぜかどよーんとした効果音がしそうな感じでうつむきながら俺の少し後ろを歩いていた。
「なにへこんでるんだよ。別に俺は気にしてないっていっただろ」
「うう……だって、てんぱってやらかしたんだぞ……大和だってはずかしかっただろ?」
「まあ、そりゃあな……」
確かにいきなり靴を脱ぎだしたときはこいつやべーなっておもったけれど、里香は里香なりにがんばってくれたんだよなと思うと別に怒ったりはしていない。店員さんも初デートなんですと伝えたら微笑ましいものを見るような目になったしな。
「くっそ……こうなったら催眠術で今日の記憶を消して……ああ、でも、そうしたら初デートの記憶も消えちゃうのか……やだな……どうしよう……」
「おーい、帰ってこーい」
なにやらぶつぶつとつぶやいている里香に俺はため息交じりに声をかける。なんか物騒な言葉も聞こえたような気がするけど気のせいだよな……俺は立ち止まって、里香を真正面から見る。すると彼女は少し焦ったように目を逸らす。
「あのな、俺と里香の付き合いはどれくらいだと思っているんだよ。今さら少しばかり変な事をしたくらいで嫌いになったりしないって」
「本当か……? でも、私はこれからもやらかすかもしれないんだぞ……」
「そんなのとっくに覚悟しているんだよ。だいたい俺がちょっとくらい変な事をして里香は俺の事を嫌いになるのか?」
「なるはずないだろ!! ああ……そうだな……そういう事か……私は大和がメイド好きの変態でも嫌いにならなかったしな。フフ……大和は私の事が大好きだもんな」
こいつすぐ調子に乗るなぁ。俺はさっきまでの陰鬱な雰囲気から一転して、意地の悪い笑みを浮かべている里香をみて思う。でも、そんな彼女の事がたまらなく好きなんだよな……
「なあ、大和。さっきはカップルっぽい事っていうの結局やらなかったけど、大和はしたいのか?」
「え? そりゃあしたいけど……」
「そっか、そういうことしたいなら、今は機嫌がいいからな。特別にしてやるよ」
「つめたっ!!」
そういうと彼女は俺の手を握った。手の冷たさと柔らかい感触に俺は思わず悲鳴を上げて彼女を見る。いつものように意地の悪い笑みを浮かべているけれど、彼女の顔は真っ赤で、その姿がとても愛おしいと思ってしまった。これはただの幼馴染では見れなかった表情だ。
「なんか言えよ……」
「その……ムチャクチャ嬉しいです、今死んでもいいくらいに……」
「ふーん、大和は私に手を握られただけで死にたくなるのか? ちょろいな。でも死ぬのは許さないからな。大和は私とずっと一緒にいるんだよ」
そう言ってむちゃくちゃ嬉しそうに笑っている彼女に俺はあえてつっ込まない。そりゃあさ、嬉しいに決まっているだろ。ずっと好きだった女の子と手を繋いでいるんだからさ。てか、もう告白したくなるんだけど……
しばらく、幸せな時間を過ごしていた俺だったが映画館が近づくにつれて人が多くなったこともあり、恥ずかしがった里香によって手は離されてしまった。無茶苦茶残念だがカフェの時のように学校の人に会ったりもするかもしれないしな。気持ちはわかる。
「で、どんな映画を観るんだ? 鬼を斬るやつか? 円卓と戦うやつかな? 村正を当たらなかった大和は何をみたいんだ?」
「うるせえな、キャスターリンボみたいに呻くくせに。これだよ」
「え、これって……」
軽口を叩いていたが俺が示したもので彼女の態度がかわった。それは彼女と俺の想い出の作品で……なんと10周年という事で続編が上映しているのだった。
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