5.催眠術からはじまるラブコメ2
俺は目の前の彼女が何を言っているのか、一瞬わからなかった。いや、脳が拒否をしていたというべきか。だって。催眠術だぞ。そんなん雑なエロ漫画の導入かよって感じだ。仮にも天才少女と呼ばれる里香の冗談だろう。バカと天才は紙一重とはいうけれどさすがにバカすぎるよな。
「それ、俺が中学の時にあげたやつじゃないか。まだ大事に持っていたのかよ。そんなに俺からもらったのが嬉しかったのか? 里香も可愛いところあるな」
俺はあえて挑発するように皮肉っぽく言った。照れ隠しなんだけどな!! だって、俺がくれたものをまだ持っていてくれるとか嬉しすぎるだろう。すると彼女はいつもの飄々とした顔ではなく顔を真っ赤にしてまるで乙女のように言ったのだ。
「ああ、そうだよ。大和にもらったんだ。なんでも嬉しいに決まっているだろう」
「え? どうしたんだ。お前そんなキャラだっけ?」
「ほら、大和は絶対そういうと思ったよ。まあ、素直にならなかった私も悪いんだしね。でも、今はいいんだ、いいからこれをみつめるんだ」
彼女は一瞬傷ついた顔をしたが、恥ずかしそうに俺をみつめながらそういった。俺は何年も彼女と一緒にいた。こいつのいろんな姿を知ってるつもりだった、でもこんな姿を俺は知らない。まるで恋する乙女のような姿の彼女を知らない。そして、俺は彼女が一瞬傷ついた顔をしたことを忘れるわけにはいかないのだ。
彼女は五円玉を俺の目の前で振りながら俺に言い聞かせるようにいった。好きな女の子が俺を見つめているというせっかくの萌えシーンなのに絵面が最悪ではないか。だいたいいまどき五円玉っておかしいだろう。普通スマホのアプリとかじゃないか? 少なくとも昨日読んだエロ漫画はそうだった。だが、勢いに任せてか俺はつい五円玉を見てしまう。こいつ本当に天才少女なんだよな?
「撫子ちゃんで、持続時間、及び可能な行動の考察はすんでいる。ふふ、こんなことをしないと素直になれない私が憎い……ごめんな。大和……」
撫子が犠牲になっているーー!! 催眠術何てアホなことしてるくせになんでここは天才っぷりを発揮してんだよ!! まあ、里香の事だ。撫子が本当にやりたくないことはさせてはいないだろう。てかなんで謝っているのだこいつは? 俺は何をさせられるんだ!? というか、どんどん目が離せなくなってくる。え、本当に効果があるのか、これ……?
想定外だーーーー!! 本当に五円玉から目が離せなくなって、力が抜けていく。これはまずい……俺が最後の力を振り絞ってルーティーンをすると、途端に視界がクリアになって心が落ち着いてくる。
ふははは、愚かな女め、俺に催眠術何ぞ聞くはずがないだろうが!! 俺がこの女をからかってやろうとするより、彼女が動く方が早かった。
「君は今から私の言う事だけを聞くんだ。そしてこの部屋に入った時の事を忘れたまえ。大和いつも素直じゃなくてごめんよ。いつのまにか大きくなってたんだなぁ……」
「いや、俺は……」
催眠術にかかってないって言う前に抱き着いてきた。やばい、こんなことされたら冷静でいられるか!! 童貞だぞ。男子高校生なんだぞ。しかも想い人が抱き着いてきているんだぞ。彼女の柔らかい感覚と甘い匂いが俺を支配する。俺が彼女をみてみると、今までみたことのないくらい甘えた笑顔で俺の胸に顔を擦り付けてくる。これは夢だろうか? ナンダコノカワイイイキモノハ?
「いい匂いだなぁ……癒される。なあ、大和も抱きしめてくれないか?」
「え……」
俺は彼女の命令の前に一瞬固まる。いいのか? 本当にいいのか? てかこれじゃあ、本当にエロ漫画の導入みたい……じゃなかった。恋人みたいだ。これドッキリだったりしないだろうか? 実はカメラが仕掛けられてて訴えられるとかないよな? 撫子が隠れていて盗撮しており、飯をたかられるとかじゃないだろうな?
「まさか……催眠術にかかってないんじゃ……」
「里香愛してる」
うおおおおおお、一瞬里香が感情の無い目で見てきたので、焦ってつい本音を言ってしまった。ルーティーンをやって落ち着かないと……だめだぁぁぁ。里香を抱きしめてるからルーティーンができない!! てか、こいつ俺の言葉を聞いて顔をうずめて震えているんだけどどうしたのだろうか? やはり、きもかったのだろうか? 俺達はただの幼馴染だもんな。というか、俺の潜在意識かなんかだと思われた? 明日からどんな顔をすりゃあいいんだよぉぉぉぉ!!
「くっ、大和……今の不意打ちはずるいぞ。私を萌え死させる気か……」
むっちゃにやけてるぅぅぅぅ!! え、これってまさか両想いだったのか? それならば、実は催眠術にかかってないって言って、そのまま告白すればいいのじゃないだろうか。てか、デレてるとこいつ無茶苦茶可愛いな。まるで天使みたいだ。
「なあ、里香……」
「しかし、予想外にやばい効果だったな……もしも、大和が正気だったら私は命を絶っているところだった。こんな私は、こいつにはとてもじゃないからみせられないからね」
あ、だめっぽい。だめっぽいな。実は催眠術かかってませんとか言ったらこいつマジで自害するか、一生あってくれなくなりそうである。ドラマみたいにいきなり転校とかしそうな勢いだ。
「大和、私の質問に答えてほしい。いいかな」
「何だい、マイエンジェル」
天使みたいとか思っていたから、つい変な呼び方をしてしまった。案の定里香は怪訝な顔をしていたが、催眠術の効果だと思ったのか深くはつっこんでこなかった。
「エンジェル? そんな呼び方は指定していないと思うんだけどな……まあ、いいや。その……君が告白をしようとしているのはどんなタイプなのかな? やはり、巨乳で優しい子がタイプだったりするんだろうか? いや……だめだろ……これを聞くのは卑怯な気がする……でも、私は……うう……」
里香は俺の上で何やら、不安そうな顔でぶつぶつと言いながら悩んでいる。普段の飄々とした顔ではなく、まるでか弱い女性のようだ。違うな、これも里香なんだ。俺はいつも、飄々しているなってからかっていて、彼女も俺が望んだポーズを取っていたのかもしれない。いろんな里香がいて当たり前なのだ。だから俺は精いっぱい答える。いつか言おうと思った言葉を伝える。
「告白はあくまで、練習で、特定の相手はいないぞ。涼風ちゃんと冗談で練習しようって話をしていたんだ。ちなみに俺の好きなタイプはいつも一生懸命で、ひねくれているけれど、実はポンコツなところもあるが、ちゃんとした自分を持った子だな」
「ふーん、私とはぜんぜんちがうなぁ……ポンコツじゃないし……でも、そうか……大和には特定の相手はいないのか……よかった」
想定外だー!! 全然通じてない、あと、お前結構ポンコツだからな。なんでそうなったかわからんが普通幼馴染に催眠術とか使わないからな!! というか今の告白遠回しすぎただろうか? なんなら名前言った方がよかった? でもさ、こんな形での告白はだめだと思うんだよな。俺は俺の上で唸っている彼女に脳内でツッコミを入れた。
「でも、もしも、私が一生懸命に見えるとしたらどんなときでも、私を追いかけてくれる馬鹿がいるからだな」
そう言って彼女は優しい目で俺を見つめるのであった。もちろん、俺も見つめ返す。すると、彼女の唇が徐々に近づいてきて……
コンコン
「ひぇっ」
「ぐぇ……」
その時ドアにノックがされた。里香が慌てたように俺を突き飛ばす。ちょっとひどくないか? 頭うったんだが。脳細胞が死滅した気がする。
里香が扉を開けると寝ぼけ眼の撫子がいた。そして、撫子のお腹がぐーっとなる。ああ、そろそろ夕食だから空腹で目が覚めたのか。俺はドキドキした胸を押さえながらそんな事を思うのであった。
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