35.作戦会議

お昼を一緒に食べて大和と別れた私はチェーン店のハンバーガー屋さんで待ち合わせをしていた。大和には今日は家に行けないと伝えてある。寂しそうな顔をしていたが、その分明日ずっと二人でいるのだから勘弁してもらおうと思う。



「里香さん、遅くなってすいません。それとおめでとうございます」

「ありがとう、撫子ちゃんのおかげだよ」



 顔をあげると撫子ちゃんが嬉しそうにニコニコと笑いながら私を見ていた。そう、ずっと彼女に大和の事を相談していた私は、大和が部室にもどっている間にさっそくデートに誘われたことを報告をしていたのである。本当に長い戦いだった。幼馴染だから一緒にいたけれど、彼が私の事をどう思っているか不安な時など撫子ちゃんが色々と話を聞いてくれていたのだ。彼女がいなければと思うと私はゾッとする。



「これは里香さんをお姉ちゃんって呼ぶ日が楽しみですね」

「いや、色々調べたんだけど、高校生のカップルが結婚に至る可能性は極めて稀らしいよ。むしろここからが本番じゃないかな。それにまだ告白とかはされてないし……」

「あ、そこは意外と冷静なんですね、もっと浮かれているものだと思ってました」



 私の言葉に撫子ちゃんは少し驚いたように目を見開いた。別に浮かれてなんか……ああ、でも大和がデートにさそってくれたんだよなぁ……あの時の幸福感とかやばかったなぁ……ああ、早く明日のデートがこないかな……



「里香さーん、にやにやしながら妄想の世界に行かないでください、私をおいてかないでください!!」

「べ、べつに、にやにやなんかしてないさ。話を戻すけど、明日のデートで大和に完全に惚れてもらいたいんだよね。それこそあいつが他の女の子に現を抜かさないようにね。それに……あいつに可愛いって言って欲しいし……」

「想像以上にべたぼれだった!! 里香さん可愛いですね……というかそれを素直に言えば大和の事だから、余計惚れると思いますが……」

「そんな事いったら絶対あいつ調子に乗るぞ!! 『里香は俺の事が大好きなんだなぁ』ってむかつく笑みでからかってくる姿が目に浮かぶ!!」



 私が大声で叫ぶとなぜか、撫子ちゃんは大きなため息をついた。なんだろう、こいつどうしょうもないなって顔で見られてる気がする……



「それじゃあ、里香さんはどうしようと思っているんですか?」

「ああ、それはね、デートと言ってもパンケーキを食べて映画を観に行くだけなんだけど……オシャレをして驚かせたいなって思って……」

「あー、確かに里香さんの私服は……」

「そんなに変かなぁ?」



 そう言って彼女はしまったとばかりに目を逸らす。うう……自分でもファッションセンスがないのはわかっているのだ。以前も撫子ちゃんにダメだしされたんだよなぁ……胸元に大きく「愛」って書かれたTシャツとか可愛らしくないだろうか? だって愛だよ。愛って大切じゃないだろうか? それとなくアピールもできるとおもったんだけどな。



「あ、でも、この前の映画の時の服はよかったですよ、あれじゃだめだなんですか?」

「あれは店員さんが選んでくれたものだからね、やはり人は新鮮なものの方が印象に残りやすいんだ。それに……あいつは私の私服を見た時より、涼風ちゃんの私服の方が反応よかったし」



 思い出してちょっとむかむかしてきた。私だって一生懸命おしゃれをしたのにあいつは適当な言葉で褒めやがって……私の顔をみて何を思ったのか撫子ちゃんが何か微笑ましい笑みを浮かべている。



「フフ、里香さんは本当に大和の事が好きなんですよね。よかったら、兄のパソコンファイルでもみましょうか? 好みの女性の服とかわかるかもしれませんし……ちなみに暗証番号は0912ですよ。何の数字かわかります?」

「え……」




 撫子ちゃんの言葉で私は顔が真っ赤になるのを自覚する。その日は私とあいつの関係が変わった日である。



「あれだ……あいつが初めて私のうちに来てライバル宣言した日だ……まったく、あいつ私の事すきすぎだろ。しょうがない奴だなぁ、えへへ」

「あの……私はこれからもずっと里香さんののろけ話に付き合わなきゃいけないんでしょうか……?」

「別にのろけてなんか……いないよね?」



 不安になって聞いてみると撫子ちゃんはやれやれとばかりに溜息をついた。待って、今の私はそんなにやばいのだろうか?



「じゃあ、私が大和に好きな服装を調べておくので明日の午前中のデート前にショッピングしましょう。大和が好きそうな服を見繕いますよ」

「うん、撫子ちゃんありがとう」



 持つべきものは想い人の妹である。でもさ、改めてデートに誘われるっていう事はあいつも私の子事が好きって言う事で……もしかしたら告白をされるかもしれないんだよな。私は思わず顔がにやけてしまいそれを撫子ちゃん見られて溜息をつかれるのであった。

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