3.告白練習
「先輩は多分は自分に自信がないんだと思います。だから練習でもいいから告白してみて、成功体験を積んだ方がいいと思うんですよ。バスケのシュートと同じですよ。練習しないとシュートも入らないじゃないですか」
突然狂ったことをいいだした涼風ちゃんに、俺は問いただすとこう説明された。確かにもっともである。俺の座右の銘である「人事を尽くして天命を待つ」という言葉の様に、できる事はやっておいて損はないかもしれない。それにあいつへの想いを口にすることによって、勇気もわくかもしれないしな。
「わかった、じゃあ、ちょっと試しにやってみるか」
「はい、私を赤城先輩だと思って想いを伝えてみてください」
涼風ちゃんを前に俺は言葉を考える。あいつの場合ぐだぐだ理由をつけても無駄だろう。俺は目の前の涼風ちゃんを里香だと想定して、伝えることにする。なんだこれ、練習なのに無茶苦茶緊張するんだが……
「そ、その……里香さん今日はいい天気ですね」
「先輩……いつもと呼び方違いますし、ここは体育館ですよ。そんなんじゃ赤城先輩に馬鹿にされますよ」
「わかってるってば。あいつってば『ふん、天気ならグーグルに聞くから大丈夫だよ。大和より正確だしね』とかいいそうだな……」
「あーなんか想像つきますね……赤城先輩って、緑屋先輩にだけはざっくりいきますよね。それだけ心を許してるんでしょうけど……」
てんぱりまくって変な事を言っている俺に涼風ちゃんが苦笑している。俺は深呼吸をしてからルーティーンを使って心を落ち着かせる。冷静になれば簡単な事だ。今まで思っていたことをまっすぐ自分の言葉で伝えればいいだけである。
「里香、お前は俺をただの幼馴染だと思っているかもしれないけどさ、ずっと前から好きだったんだ。俺はお前のすべてが好きなんだ。付き合って欲しい」
「ふぐぅ……なんていう破壊力……こんなに想われて里香さんうらやましいなぁ……」
俺が精一杯の言葉を大声で伝えると涼風ちゃんは、なぜか、顔を真っ赤にして呻き始めた。大丈夫だろうか? なんか情緒不安定なんだけど……
「涼風ちゃん、今すごい声だしてたけど大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ただ、緑屋先輩にこんな風にあつい視線を向けられたのがはじめただったもので……でも、おかげで私も色々と踏ん切りつきそうです。それにしても幼馴染同士の恋愛っていいですね。少女漫画みたいで萌えカップリングです!! いつも死んだ目の緑屋先輩があんな熱い目をできるなんてびっくりしました!!」
そういうと涼風ちゃんはガッツポーズをして。俺にエールを送ってくれた。てかなんか変なスイッチ入ってない? あと俺って死んだ目とか思われてんの? ちょっと傷ついたんだけど……
「あ、ありがとう、ちょっとがんばれそうな気がしてきたぞ!」
「いえいえ、私としてもちょっと複雑ですが、緑屋先輩の意外な一面が見えたのでオッケーです!! じゃあもう一回やってみましょう」
「え? 無茶苦茶はずかしいんだが」
「練習一回でうまくいくようなら苦労はしませんよ。シュートもそうじゃないですか、さあさあ言ってみてください」
何やら楽しくなってきたのか涼風ちゃんが煽ってきた。まあ、どうせ練習だし、このたまりにたまった思いのたけをぶつけてしまうのもありだろう。
「里香はさ、引くかもしれないけど、俺はさ……お前と一緒にいたかったからこの学校を受けたんだよ。その意味がわかるよな? 俺はお前が好きだーーー!! 付き合ってくれ!!」
「ごめん、大和……気持ちはうれしいけど、私は自分より頭が良い人じゃないと無理なんだ……その…そんな風に思っていたのか……」
「なん……だと……練習で失恋したんだがーー!? 涼風ちゃん成功体験どうのうこうの言ってたよな? なんで振られてるんだ? しかも、声色まで真似しなくていいから、無駄にクオリティ高いし、まじで言ってきそうなんだが……てかフラれるのきっついな!! 涙が出てきたぞ!!」
「えへへ、あまりに本気な緑屋先輩につい意地悪したくなってしまって……ごめんなさい」
想定外だーーー!! 練習でフラれて俺がてんぱっていると、涼風ちゃんは少し申し訳なさそうにはにかみながら頭を下げてきた。その姿はとても可愛らしい、今流行りの小悪魔系後輩ってやつだろうか? こんなん許すしかないじゃないか。
「おーい、二人とももうあがってしまったかな?」
俺達がぎゃーぎゃー会話をしていると、外から里香の声が聞こえてきた。ご飯を食べて暇になったので見に来たのかもしれない。てか、さっきの聞かれてないよな。聞かれたら死ぬしかなくなるんだけど。
「おっと、お邪魔になってしまいますね、それでは私は行くので、がんばってくださいね、先輩。二人っきりですしチャンスですよ」
「ちょっと涼風ちゃん!?」
俺はそう言って耳元でささやく涼風ちゃんに驚く。てか、体を寄せたせいか一瞬おっぱい当たったんだけど……なにこれ、むっちゃ柔らかい。落ち着け俺!! 思わずにへらとわらいそうになるがルーティーンで心を落ち着かせる。おっぱいおっぱい。よし冷静になったぞ。
「お疲れ様です、赤城先輩。私はもう行くので、緑屋先輩をよろしくお願いしますね」
「君もゆっくりしてればいいのに……、大和に変な事されなかったかな?」
「そうですね……胸を凝視されたくらいでしょうか? まあ、先輩も男の子ですからね……」
「クソだな、こいつ。死ねばいいのに」
「風評被害ーーー!!」
いや、確かにチラチラみたけど!! なんならさっき触れてニヤッとしたけれど!! 胸も好きだけど、俺は脚派なんだが!! 道端のごみを見るような目でみている里香になんと言い訳をしようか考えていると、さっさと弁当箱を片付けた涼風ちゃんは去り際に俺にがんばってくださいねとウインクをして去っていった。俺は苦笑しながら見送った。なんだかんだサポートはしてくれるようだ。
「なんかイヤらしい顔をしてるなぁ、それにしても、ずいぶん仲良さそうだね。何を話してたのかな?」
「バスケの話だよ。練習をしていたんだから当たり前だろう」
「ふーん、バスケの話でさっきみたいに内緒話をするように、耳打ちまでするんだな」
外を出ていく涼風ちゃんを怪訝な顔で見ていた里香の質問に、さすがに里香への告白の練習をしていたとは言えずに言葉を濁すと彼女は、不機嫌そうに唇を尖らせた。そして、ジト目で俺を睨む。まずいぞ、速攻で誤魔かしたのがばれたっぽい。こいつのこの顔はこれから攻めるぞっていう合図のようなものである。
「なんか好きですとか聞こえた気がするんだけど、私の気のせいだったかな」
「気のせいじゃないか、あーあれだ。バスケ好きかみたいな……」
「そうなのか、まるで告白みたいな感じだったけどね、まあ、ただの幼馴染の私には関係ない事なんだけどな」
そういって唇を尖らせている里香の前にこれ以上はごまかせないと確信してしまった。変に誤魔化すとマジで厄介なことになりそうである。というか、こいつ聞こえてないだろうな? あんな形で気持ちがばれるとか絶対に嫌なんだが……仮にフラれるにしてもちゃんと告白してフラれたいものだ。
「まじで、どこまで聞いてたんだよ。だーもういい。告白の練習をしていたんだよ」
「告白の練習だって……?」
俺が白状すると驚きのあまり、目を見開いた彼女の手にもっていた袋が落ちてアイスが床に舞う。三人分のアイスだ。俺と里香の好物でもある。もしかしてコンビニでもいっていたのだろうか? 運動して疲れた俺におごってくれるつもりだったのか。口は悪いけどいいやつなんだよなぁ。まあ、そんなところも好きなんだけど。
「だって、君はあれじゃないか!! 高校デビューだかなんだか知らないけど、髪の毛を緑色に染めて、「〇〇なのだよ」とか言いながらひたすら部活で、スリーポイントシュートを撃っていたじゃないか!! しかも、その後、校則違反で生徒指導室に呼ばれて坊主にされてさ。そんなやつを好きになるやつ何て人生で一人くらいしか現れないだろうよ!! そんな大和が誰に告白をするって言うんだ。傷つく前にやめたほうがいい!!」
「俺の黒歴史ーー!! あれは若気の至りなんだよ。もう思い出させないでくれ。まじでそれでいじられるのは辛いんだよ。俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかったぞ。あと後輩ならセーフだから、先輩と同級生にはドン引かれたけど後輩ならみてないから!! あと、年がら年中白衣を着ているお前にだけは格好の事はいわれたくねぇ!!」
そう、俺は中学の時にバスケ部ということもあり、黒子のバスケという漫画にはまっていて高校デビューでついやらかしてしまったのだ。だって、どこからでも3ポイント撃つのかっこよくない? 憧れるよな。
幸い高校の部活でも、あほなやつって感じで笑われるだけで済み、部内でも浮くことはなかったし、無駄にスリーポイントの練習をしていたから、成功率は上がったのでレギュラーにはなれた。てか、俺のことを好きな人一人いるのかよ。物好きにもほどが無い?
それにしても、彼女は意外と想定外の事に弱いなと思う。俺が誰かに告白をするというのは彼女の予想外だったようだ。なにやらすごい動揺している里香を見て思う。よほどヘタレだと思われていたのか……まあ、実際のところ、ずっと一緒にいても告白どころか、好意のあるふりも見せてないしね。今回だって涼風ちゃんが言ってくれなければ、告白という選択肢はうまれなかっただろう。
「それで……どうするんだい?」
「どうするって……?」
「決まっているだろう、いつ告白をするのかって話だよ」
待って、それを本人に話すのかよ? これって遠回しにからかわれてんのかな? 俺が黙っていると彼女は俺の言葉を待つかのように沈黙を続けていた。これって、告白しろアピールなの? いや、あいつは体育館の外にいた。全ては聞かれていないのかもしれない。もしかしたら彼女は、俺が誰かに告白をするのかと勘違いしているのだろうか? 親しい女の子なんて、お前と涼風ちゃんと妹の撫子くらいしかいないんだけど……想定外の事態に俺が冷や汗をだらだらと流していると里香が口を開いた。
「まあいいさ、大和も成長したね、まさか女子に告白する勇気があったなんてさ。君の事だ、いいなぁって子がいても、今の関係を崩したくないとか言って、なんだかんだ理由をつけて遠回しにするヘタレだと思ってたよ」
流石幼馴染ー!! まさに俺の思考ではないか。ビニール袋を拾うためかがんでいるため表情はみえないもののその口調はいつもと同じようで、もう、普段通りなようだ。その雰囲気で俺は察してしまう。やっぱりこいつは俺の事を家族としか思っていないんだろうな。俺はこいつが告白されるたびにマジかよって動揺しているって言うのにさ。もう動揺から立ち直ってやがる。
「まあ、こういう時は一人で考えた方がいいと思うよ。糖分は頭の回転をよくするからね」
「おい、食べ物を投げるなって」
彼女は何かをつぶやくと俺にはなぜか表情をみせないように、後ろを向きながらアイスを投げて渡してきやがった。腐ってもバスケ部の俺はそれをキャッチする。俺の言葉にも振り向くことなく彼女は手を振って、そのままどこかへと行ってしまった。まったく変わらない彼女に俺は考える。このまま告白してもだめじゃない?
「まずい……予想外だ……こういう時はどうすればいいんだ……?」
色々と考えていたこともあり、彼女の困惑に満ちたつぶやきは俺の耳に届くことはなかった。
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