第38話 クロの母親
その翌日、私はクロを連れて例の病院へと向かった。
病院に入り、クロが眠っていた病室へと向かう。
「あなたは、おとといの……」
病室の前で、一昨日会ったクロの母親と思われる女性と出会った。
「斉田薫と申します」
私は自分の名前を名乗った。
その時、ふと病室の前にあるネームプレートが目に入った。
『
そう、書かれていた。
これが、クロの本当の名前だったのだ。
「白愛ちゃんのことで、少しお話がしたくて参りました」
「お話、ですか?」
私は、母親の女性にそう言うと、鞄の中に手を入れた。
そこから、クロがいつも大切に持ち歩いていたくまのぬいぐるみを取り出した。
「これに、見覚えはありませんか?」
そのぬいぐるみを白愛の母親に見せた。
「それって……」
白愛の母親は表情を変えた。
「それって、何ですか? 何か持っているのですか?」
そうか、これは幽霊であるクロの持ち物だ。
この白愛の母親には、私の持つくまのぬいぐるみの姿は見えていないらしい。
「くまなのかイヌなのかよくわからなくて、片目が、取れかけていて汚れていて、そんなぬいぐるみが大好きな、」
私は、一言ひとこと言葉を紡いでいく。
「黒いワンピースが特徴的の、四つ葉荘203号室に住んでいた寂しがり屋の幽霊の話をしたくて来ました」
私は、白愛の母親に真剣な面持ちで訴え掛けた。
「黒いワンピースに片目のぬいぐるみ……あのときと、一緒ですね……」
白愛の母親はボソッと呟くような声で言った。
「え?」
私は、思わず聞き返した。
「斉田さんのおっしゃるぬいぐるみは、もしかしてこれですか?」
そう言うと、白愛の母親は白愛に掛かっていた布団をそっとめくって見せた。
そこには、今私が持っているぬいぐるみと全く同じものが存在した。
「はい、同じものが、ここにもあるんです」
見えないかもしれない。
信じてもらえないかもしれない。
それでも……
話さなくちゃいけない!
「2年前に住んでいたアパートを覚えていますか?」
私は、白愛の母親に尋ねた。
「ええ」
「私は、今そこに住んでいます。そこで、クロっ」
いや、この場合は違うだろう。
「白愛ちゃんに会いました」
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