第47話 大好きだよ
クロはケーキが食べたいとリクエストをした。
「わかったよ! とびきり甘くていちごがたくさん乗っているのを買おう!」
「ほんと? うれしい」
クロは優しい声でそう言った。
「じゃあ、今から買いにいくよ」
「ううん、クロ待ってる」
クロはどこか暗い表情を浮かべていた。
よほど体調が辛いのだろうか。
「だめだよ。一緒じゃなきゃ」
正直、いつ消えるか分からないクロを一人で残すのはかなり不安である。
「おねがいっ……」
クロは涙を浮かべながらそう私に頼んだ。
その表情を見て、私は全力で走る。
出会いがあるから別れもある。
もし、私があの時クロに声を掛けていなかったら……
クロは今もあの誰も居ない部屋で泣いていたかも知れない。
だとしたら、私はクロと出会えて幸せだった。
「一番大きくて、いちごがたくさん乗っているケーキください!!」
私は息を切らしながらもケーキ屋に到着して言った。
ケーキを購入した私はまた全力で走る。
家に到着すると、勢いよく玄関の扉を開けた。
「クロ!!」
「おー、待ってたよ……」
クロはまだ布団の中で横になっていた。
どうやら、間に合ったみたいである。
「ケーキだよ。食べよ」
私は、フォークを使ってケーキを一口サイズに取った。
「はい、あーん」
クロの上半身を私が支えて起こす。
そのままクロの口へとケーキを運んでいく。
「おいしい……やっぱり甘いの大好きだなぁ」
クロがケーキを一口味わって言った。
「じゃあ、明日はフルーツパーティーしよう! メロンとかいちご、マンゴーにパイナップル」
私は思いつく限りの美味しいフルーツを並べていく。
「クロ、ほっぺたなくなっちゃうよ」
優しい微笑みを浮かべながら、クロは言った。
「クロ、ワガママ言っていい?」
絞り出すような声でそう言った。
「うん、いいよ」
「ぎゅうして……」
そう言うと、クロは両手を私の前に差し出してきた。
「ぎゅっ」
私はクロを優しく、そしてきつく抱きしめる。
「あたたかい」
クロが言った。
私にも、クロの体温は伝わって来る。
「もっと、かおると一緒に居たかったな……」
クロはどこか遠くを見るような視線を送っていた。
美味しいものをたくさん食べて、背中流して、頭をワシャワシャされて……
「こうやって、ぎゅーしてもらって。もっと、もっとね……」
クロは私に抱きつく手に力を込めた。
「死にだぐないよぉ……」
クロは両目に大粒の涙をボロボロの流していた。
「もっと、遊びたいよぉ」
そのクロの言葉に、私も涙が溢れてきた。
「死ぬんじゃない……生き返るの」
そう、クロは死んだりしないのだ。
元に戻るだけだ。
「クロは、消えたりしない」
私はクロに言う。
「でもクロ、覚えてなかった……」
「私が覚えている!! クロが覚えていなくても私が覚えている!」
私は、必死にクロに訴えかける。
忘れない、絶対に忘れるもんか。
クロは、ここに居る。
「一人で寂しくて泣いていたクロを見つけたのは誰!?」
「かおるだ」
「そうだよ。だからまた、私が見つけるから! あの時みたいにまた会いに行く!」
クロとの日々がまるで走馬灯のように浮かび上がって来る。
「大好きだよクロ」
私の目からはたくさんんの涙が溢れ出し、止まることが無い。
「ほんと……?」
「うん、だから先に行ってて」
「そっか。よかった。クロ、もう寂しくないよ……かおる?」
力なき声で私を呼ぶ。
「ん?」
「とりついた……」
クロは優しく私の頬に手を触れると、精一杯の笑みを浮かべて言った。
そして……
クロは、消えた。
今までの日々が、より鮮やかな走馬灯になって蘇ってくる。
ずっと、続くと思っていたクロとの日常が。
「やだよぉ。消えないでよぉ!!」
声にもならない声で言う。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
満月の夜、その月明かりは滲んでしまっていた。
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