最終章
最終話 事故物件の幽霊ちゃん
クロが消えてから一ヶ月が経過しようとしていた。
「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」
あれから、アオイは毎日電話をしてきてくれる。
私は、なんとなく外を歩きながら通話していた。
「アオイも仕事あるんだから、そんなに毎日電話しなくてもいいんだよ」
そう言って、しばらくすると通話を終了した。
そして、また歩みを進めようとした。
クロと歩いた光景が蘇り、なんとなく寂しい気持ちになったりする。
その時、前方から中野さんと白愛の姿があった。
「斉田さん……」
中野さんが私に気づいて話しかけてきてくれた。
「ご無沙汰しています! 今日、白愛が退院したんです。ようやく普通に歩けるようにもなって」
「それは、退院おめでとうございます。……白愛ちゃんこんにちは」
私は、白愛に目線を合わせると、話しかけた。
「誰……?」
白愛から出た言葉に私は、悲しくなる。
「あー、この前病院に来てくれたお姉さんね。行こ、お母さん。早くケーキ食べたい」
白愛は思い出したように言った。
♢
クロが消えた日の夜、私は白愛が入院している病院へと走った。
「斉田さん。白愛が……白愛がっ!」
中野さんが私に興奮気味に言った。
「クロ……」
そう、白愛の意識が戻っていたのだ。
「お姉さん、誰?」
意識が戻った白愛にクロの記憶は無かった。
♢
「ここが今日から二人で住む新しいお部屋よ」
中野家は新しい部屋に引っ越すことにしていた。
「前より古い……」
白愛はそう口にした。
「でもね、白愛の部屋もあるのよ! ほら、早くみて」
白愛は早速部屋に入ると、自分の部屋を覗いた。
「いいの!?」
「うん!」
白愛は自分の部屋をみて嬉しそうに言った。
『ムズムズする……どうして? 新しい家だから?』
白愛はベッドに寝転びながらそう感じた。
『クロっ』
脳裏に何かが浮かぶ。
何かを忘れている。誰かを忘れている。
一体、誰を……
「クロ……?」
白愛は部屋の片隅にクロと書かれた箱を見つけた。
それをそっと持ち上げて箱を開ける。
そには何枚もの絵が入っていた。
すると、不思議な事に今まで忘れていた記憶が一気に流れ込んでくる。
顔が涙で濡れる。
白愛はそのまま部屋を飛び出した。
♢
私は、部屋の押し入れを開ける。
そこには、クロの布団が入っている。
枕を取るとそっと抱きしめる。
クロの匂いがする。
時間が解決してくれると思っていた。
いつか、またクロと出会う前の私に戻れると。
これは、一時の夢で感情と共に忘れて行くって思っていた。
しかし、現実は違う。
部屋の至る所にはクロの面影が残っている。
「忘れられるわけないよぉ!! クロぉぉ!!」
私は、目に涙を浮かべながら叫んだ。
誰も居ない部屋に私の声だけがこだまする。
ーーーーピンポーン
来客を知らせるチャイムが鳴った。
「はい」
私はインターホンの受話器を取って言った。
『泣いてるの?』
「うん……」
『さみしいの?』
「……うん」
それは、何度も聞いたことのある声だった。
『そっかぁー。じゃあ……』
そこまで聞くと、私は玄関に走った。
そして、勢いよく扉を開け放つ。
「うち、来る?」
そこには、満面の笑みを浮かべて、きれいな黒髪を風に靡かせるクロの姿があった。
お互いの目には涙が浮かぶ。
「うん! クロ……」
「なーに?」
「とーりついた!」
私はクロの頬を両手で優しく包み込んだ。
「んふぅー」
太陽の光に照らされ、クロは最高の微笑みと共にドヤ顔を浮かべていた。
ここから、クロと私の日常が再び動き出すのであった。
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