第46話 死ぬのは寂しよ

 その翌日、私たちは遊園地を訪れていた。

遊園地に来るのはいつぶりだろうか。

そんなことを考えながらも、私は入場券を購入して中に入った。


「ぐあああああ!!!!」


 お化け屋敷からは、恐怖を煽るような声が聞こえて来る。


「クロ、おまもり隊!!」


 そう言って、クロは私の前に立った。


「ヴァァー!」


 再びおばけ屋敷から呪怨のような声が響いた。


「やっぱり、クロこわいー!!」


 クロはあまりの怖さに浮いていた。

どうやら、幽霊でもお化け屋敷は怖いらしい。


 お化け屋敷を出ると、クロはソフトクリームに興味を示していたので、買ってあげた。

クロが食べる姿も、私はスケッチしていく。


 そうやって、今日も思い出を紡いでいった。


「あ、クロあれ乗りたい」


 クロは観覧車を指差して言った。


「うん、乗ろうか」


 空は茜色に染まり始め、景色もいいことだろう。


「わぁぁ」


 観覧車が頂点に差し掛かった時、クロが感動に声を上げた。


 観覧車から見える都会の赤く染まった地平線はとても美しかった。



 ♢



 そこから、私たちは映画を見た。

その次の日は公園でサッカーをした。


 そういう、思い出の一つひとつを私はスケッチブックに描いていく。

この光景をいつまでも忘れないために。


 しかし、思い出を紡いでいくにつれて、クロの消える時間は長くなった。


「朝ごはんはホットケーキでいい?」


 私はクロにたずねる。

しかし、クロからの返答が無い。


「ハァハァ……」


 クロは、だんだん寝込むことが増えていった。


「クロ、もう夕方だよ」


 私は寝込むクロに声をかける。


「明日は、どっか行く?」


「うーん。クロ、ぬくぬくしたい。なんか、体が重いの……」


 クロは元気の無い声で言う。

顔色もいつもより悪い気がする。


「またあの夢、見たんだ……」


 クロの言うあの夢とは、私の居ない夢。

クロの顔はどこか寂しそうだった。


「クロ、こんなにかおるのこと大好きなのに、夢の中じゃ大好きで居られないんだ」


 寝込んだクロは覇気のない声で言った。


「クロ、もっと遊びたいなー」


「ねぇ、クロ。わがまま聞いてくれる?」


 私は、声にもならない声で言う。


「なーに? ママクロだよー」


 そう言う声にもクロの元気な感情は乗って居なかった。


「私も、そっちに行ったら幸せかな……」


 そっちというのはクロの居る世界。

つまりは死の世界のことを意味して居た。


「かおる、死んじゃ、だめっ!!」


 クロは勢い良く布団から起き上がった。

そして、真剣な目で訴えかけてくる。


「どうして? これからもずっとこうやって楽しいことできるんだよ。二人で一緒に……」


「さみしい、よ」


 クロは少し暗いトーンの声で言った。


「死ぬのは真っ暗で寂しいんだよ……」


 その言葉は一度『死』というものを経験しているからこその言葉だったのだろう。


「クロね、たぶん消えちゃう……」


 クロは何かを悟ったように言った。


「え、今なんて?」


 どうやら、クロ本人にも分かる時が来たらしい。


「エヘヘ……クロ、居なくなっちゃうかぁ」


 そのクロの表情はいつものドヤ顔の面影はなかった。


「かおる。最後に、ケーキ食べたいなぁ……」


 クロは目に沢山の涙を浮かべながら言った。

しかし、その表情は優しい涙とは対照的なものであった。

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