第11章
第45話 やりたい事を何個でも
中野さんの家にお邪魔してから数日が経過した。
「ガオォ!! クロだぞー!!」
クロは前に池袋で買ったクマの着ぐるみパジャマを着て言った。
そして、クロは着ぐるみを脱ぐ。
「正義のヒーロー! クロマンだ! 倒してやる!!」
クロはドヤ顔を浮かべている。
「キャー助けてー!! クロマーン」
私は、クロの姿をスケッチブックに描きながら言った。
これが、今日の私ったちの日常だった。
いつか、この光景を忘れないために。
一秒一秒を切り取るように、その光景を描いて行く。
「ねえ、かおる!! クロにも描いて!!」
クロが笑みを浮かべて言った。
「クロを描いているよ」
「ううん、クロとかおるの絵を描いて」
クロは目をキラキラと輝かせて言った。
「紙、ちゃんと支えてね」
「おー!!」
私は鏡に前にあぐらで座ると、その上にクロを座らせた。
そして、クロの後ろからスケッチブックにペンを走らせる。
しっかりこの目に焼きつけよう……
クロが、いつ消えるか分からない。
まばたきしたら、次の瞬間には居なくなっているかも知れない。
「ずっと、こうしていたいね!」
クロが振り返り、微笑みを浮かべながら言った。
「かおる……?」
私は、思わず暗い表情をしてしまっていた。
「なんでもない……続き描こうか!」
私は頑張って笑顔を作った。
その時、クロが消えた……
大丈夫、待つんだ。
待てばきっと現れる。
「はい、そうですか」
私は、白愛の母親である中野さんに電話していた。
白愛ちゃんの意識はまだ戻って無いらしい。
『白愛の意識が戻ったら連絡します』
「はい……」
そこまで言うと、私は通話を終了した。
あれから、数時間が経過しようとしていた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
私は何度も自分に言い聞かせるように言った。
「クロ!!」
私は目に涙を浮かべながら叫んだ。
「あれ? かおる……お外もう真っ暗だ」
その時、クロが現れた。
クロは周りをキョロキョロと眺めながらそう言った。
「そうだよ、ねぼうだよ。ほら、続きするよ」
私は声を絞り出した。
「うん」
「クロ?」
クロはそう言うと私に抱きついてきた。
「クロね、夢をみていたの。真っ黒な夢。何もなくてね。怖くて寂しくて、ママママ! って叫んでた」
私の耳元でクロは言った。
「かおるじゃ、なかった。クロ、かおるのこと忘れてたっ!!」
クロは目に涙を浮かべながら叫ぶように言った。
「夢の話だよ。なんてことない」
私は、クロを優しく抱きしめた。
「今は、しっかり覚えているでしょ?」
「うん、覚えてる」
「ねぇ、クロ。明日は何しよっか?」
私はクロの頭を撫でながらそう言った。
何十個でも、何百個でもクロのやりたいことを全部やるつもりだ。
忘れたくても、忘れられないように……
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