第6話 あなたの名前は?

 翌朝、私が目覚めると、女の子はまだ隣で眠っていた。

どうやら、昨日の出来事は夢では無かったらしい。


「んー、おはよう」


 私は、布団から起き上がる。

幽霊の女の子は、薄目を開けていた。


「……うん」


 女の子は、ぼーっとこちらを眺めてきた。

幽霊なのに、寝ぼけている。

人間と幽霊の差はいったい何なのだろうか。

こうして見ると、幽霊というよりも人間という印象を強く感じる。


「あっ、名前、なんて言うの?」


 女の子に朝ご飯を食べるか尋ねようとした時、私はこの子の名前を聞き忘れていたことに気づいた。

昨夜は、それより衝撃的な事が多すぎて、すっかり頭から抜けていた。


「んっ……あ、名前、わからない……」


 女の子は、眠い目をこすりながら言った。


「えっ!?」


 私は、驚いた表情をした。


「気づいたら、あそこにいて、何も記憶がない……」


 幽霊の女の子は、どこか悲し気で、遠くを見るような目をしていた。


「マジか」


 幽霊でも、記憶喪失になるのであろうか。


「……決める?」

「ん?」


 女の子は、不思議そうな表情を浮かべた。


「名前、決める……?」

「うん!!」


 幽霊の女の子は、すぐに笑顔に戻り力強く頷いた。


「ネット検索で適当に言うから、気に入ったのがあったら言ってね」


 そう言うと、私はスマホを取り出し、検索を始めた。


「わかった!!」


 女の子は、意気込んでいた。


「アリア、アミ、こころ、ことり、さくら、さら、スイ、チノ、ニノ、ほたる、マミ、よつば、……」


 私は、スマホで検索した結果を読み上げていく。

その間、女の子は、コクコクと頷いていた。


「んふぅー。覚えられなかった!」


 女の子は、何故か得意げに言った。


「なぜ、そんなに、自信ありげに……?」

「名前……」


 女の子が呟くような声で言った。


「え?」

「名前、なんて言うの?」


 女の子は、私の顔を一直線に見つめてきた。


「ああ、私の名前か!」


 そう言えば、まだ自分の名前も名乗っていなかった。

これでは、社会人として失格である。


「薫だよ。斉田薫さいだかおる


 私は、女の子に自分の名前を教えた。


「かおる……かおるに、決めて欲しい」


 女の子に上目遣いで見つめられた。


「私に!?」


 正直、自信は無かった。

私は、まだ27歳で子供も居ない。

もちろん、人に名前を付けてあげたことなんて無かった。


「私は無理だよ。したことないし。それこそ、命名師に頼むとか……」

「いいっ……かおるが、いい……!」


 女の子は、甘えたような目で、見つめてきた。

そんな目をされたら、嫌だとは言えない。

私は、真剣に悩んだ。


「んー。変なのでも、怒んないでね……」


 そう言うと、女の子の表情は、ぱーっと明るいものになった。

その期待された表情に、私の不安は高まるばかりであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る