第34話 ギプスとさよなら
翌日、よく晴れた昼下がり。
私はクロと共に、病院へと向かっていた。
「ギプス、ギプス! ギプスを外すクロ!」
クロが上機嫌に歌いながら、私の隣を歩いている。
そう、今日は私の右腕についたギプスを外す日だった。
「今日でそのカチカチさんとお別れなんだね」
クロが私の顔を見上げるようにしながら言った。
「ようやくね。これで、お風呂の時、クロに洗ってもらわなくても済むよ」
お風呂も、一人では中々入りずらくてクロに洗うのを手伝ってもらっていたのだ。
「クロはごしごしするの好きだよー!」
クロは右手でごしごしとジェスチャーをしていた。
「お駄賃はアイスでいい?」
「クロはぜいたくだなぁ」
クロがだらだらとよだれを垂らしながら言った。
いや、アイス好きすぎやしないだろうか。
「クロ、ごしごし頑張る!! 寝てるときもやってあげるね」
「それはやめてくれ」
そんなことを話しながら、私は病院へと入って行った。
♢
「では、ギプスを外していきますね」
対面に座る私の主治医が言った。
レントゲンも撮影したが、問題無かったそうだ。
ようやく、このギプス生活ともおさらばである。
「お願いします」
そう言うと、私は右腕を差し出した。
そこからは大変だった。
主治医と看護師さんが3人がかかりで外す作業に入ってくれる。
電動のクルクル回るカッターのようなものでギプスの外側に切れ込みを入れていく。
そして、それが終わると、今度ははさみの進化版みたいなやつが出てきた。
「もう少し頑張って下さいね」
「はい」
主治医がそう言うと、そのハサミの化け物みたいなやつでじょきじょきと切って行く。
根本までギプスが切られた時、すぽっとギプスが抜けた。
ここまでの所要時間は体感で30分と少しくらいだろうか。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
主治医が外したギプスを台の上に置いた。
「くんくん」
クロがギプスの匂いを嗅いでいる。
嗅ぐな嗅ぐな、そんなもん。
「くさーい!!」
クロが鼻をつまんで言った。
うるさい……!
「それで、これからのリハビリの事ですが、」
「あっ、はい」
主治医が今後のリハビリについての話をしてくれる。
その時、急にクロが後ろを向いた。
『クロを呼んでいる……?』
クロはスーッと扉を抜けて行った。
「ありがとうございました」
主治医の話が終わると私は立ち上がった。
辺りを見回すが、そこにはクロの姿がどこにも無かった。
「クロ……」
診察室を出ると、私は辺りを見回した。
大丈夫……
待っていればきっとすぐに現れるに決まって……
そう思ったその時、階段を登るクロの姿が見えた。
『クロ! 一体どこに……一人で勝手に!!』
クロは階段を登ると病室の方に歩いて行った。
「この階って……」
そして、クロは一つの病室の前で止まった。
「クロ!!」
「だれ、なの?」
クロは呟くようにそう言うと、その病院へと吸い込まれるようにスーッと入って行った。
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