第19話 クロと映画を

 クロは相変わらず、リビングの床でゴロンと寝っ転がって天井を見つめている。

今日はあいにくの雨模様。

外には出かけたくない天候だ。


「かおるー! これなに?」


 クロは、何かを見つけたのか、仕事をしている私の元に近づいてきた。


「ああ、DVDだよ。しらない?」


 クロの手には映画のDVDが握られていた。

テレビ台の下に置いておいたのを見つけたのだろう。


「でぃーぶいでぃ……?」


 クロは、首をかしげていた。


「そう、映画が入っているんだよ。見てみる?」


 私は、仕事をしている手を止めるとクロに聞いた。


「クロ、見る!!」


 クロは新しいものを発見したと言わんばかりに、目を輝かせて言った。


「SF映画だから、クロには難しいかもだけど」


 クロからDVDを受け取ると私はDVDプレイヤーを操作していた。


「クロ、お菓子持ってくる!!」


 クロはキッチンの方に走っていった。


「走ると危ないよ」


 ドター!


 どうやら転んだようだ。

ほら、言わんこっちゃない。


「大丈夫?」


 私は、転んだクロに手を差し伸べた。


「クロ、幽霊だから大丈夫!!」


 クロはすぐに立ち上がると、なんともなさそうな顔をしていた。

どうやら、本当になんとも無いようだ。


「大丈夫ならよかった……気を付けてよ」

「えへへ、ごめんなさい」


 そう言いながらも、クロの手にはポテチの袋が握られていた。


「飲み物、オレンジジュースでいい?」

「クロ、それがいい!!」

「はいよー」


 私は、ペットボトルのオレンジジュースとグラスを二つ持ってリビングの方へ戻って行く。


「じゃあ、再生するよ」


 私はテレビのリモコンを手に取った。


「お菓子よし! 飲み物よし! お布団よし!」


 クロは指さし確認をしていた。

いや、最後の布団は要らないだろ。

そう思いながらも、私は映画を再生した。


「二時間くらいあるよ」

「うん……!」


 クロはテレビの画面をジッと見つめていた。

この作品は二つの世界が舞台となっており、一方の世界で起きたことと反対のことがもう一方の世界で起こって行くというテーマを軸にした物語だ。

子どもには少し難しい内容かとも思ったが、クロも楽しそうに見ている。


「おぉ!」

「んん……」

「はっ!」


 色々表情を変えながら見ているクロはとても愛おしい。


 そして、二時間の映画は終盤に差し掛かる。

エンドロールが流れると、クロはテレビの画面から目を離した。


「どうだった?」


 私はクロに尋ねた。


「クロ、ポテトチップス美味しかった!!」


 クロはキラキラさせた目で言った。

いや、映画の感想言わんかい!


「もう、お菓子食べすぎちゃったからご飯は要らないよね?」

「クロ、食べる!!」


 一体、その小さな体の中のどこに入っているのだろうか。

 

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