幕間 池袋お買い物編

 今日はクロとの初めてのお出かけ。

色々あったが、無事に目的地へと到着した。


「おぉー! これがフルフル……」


 私たちは、フルフルが売っているカフェへと来ていた。

注文したフルフルを受け取ると、クロは目を輝かせていた。


「優しく振るんだよ。ふたが外れないように」


 私は、対面に座っているクロに言った。


「フルフル」


 クロは頷くと、私の忠告通り優しく振っていたが……


「フル! フル!!」


 どんどん物凄い勢いで振り始めた。

どうやら、我慢できなかった様子である。


「もう、飲めると思うよ」

「おぉ」


 私の言葉に、クロはフルのをやめると、ストローを口にくわえた。

ストローを吸い、一口飲む。


「クロうまだぁぁ! クロ、ほっぺたおちおちだよ」


 クロは、表情を緩ませて両手で両頬を覆った。

凄く、幸せそうな表情である。

560円でその表情を引き出せるなら安いもんだ。


「電車では普通に話したけど、騒ぎになるとめんどくさいからお店で物を浮かせたりしちゃダメだよ」


 私は、夢中でストローを吸うクロに向かって言った。


「まかせて!」


 ストローから口を離すと、幸せそうな表情で言った。

心配だ……!!


「ちゃんとフラペっちゅ、フラペちゅーのフラッペッ……」


 言えていない。


「フラペさんを透明してる!!」


 クロはドヤ顔で言った。

ちなみに、フラペチーノをいうことは諦めたらしい。


「まあ、それならいいけど……」



 クロがフルフルを飲み終わると、百貨店へと移動した。

クロの服を買う為である。


「おぉー! 服がいっぱいあるー!!」


 クロは目をきらきらとさせていた。


「クロ、たんけんしてくるー!!」

「走るなよー!」


 クロは、陳列されている服の間を走っていった。

まあ、迷子にならなければいいが。


「大人服にも色々あるんだなぁ」


 私は、普段なら絶対に着ないような服に目を落として思った。

今まで、服にこだわりなどは特にない生活を送っていた。


 私は、その女性らしい服を自分が着ている姿を想像してみる。


「あ、無いわ。自分でも引く」


 やはり、私にはこういう服は似合わないのだろうか。


「……でも、案外にあったりなーんちゃって」


 私は、恥ずかしさから周囲に誰も居ないことを確認すると、見ていた服を手に取って鏡の前で合わせてみた。


「おぉ!!」


 後ろからクロの声が飛んできた。

私は、マズい所を見られたと思いながら振り返る。


「い、いつからそこに!?」

「かおる……可愛い!!」


 クロがくりくりとした可愛らしい目を向けてきていた。


「えっ!? お世辞とかじゃなくて……?」


 私は、少し驚いてクロに聞いた。


「うん!! かおるはおしゃれさんだぁ!!」


 クロは感心した様子で言った。


「で、クロが持っているものは何?」


 クロは、1枚の服を手に抱えていた。


「クロは最高の服を見つけてしまったよ。みてて!!」


 クロはドヤ顔で言った。

どうやら、いますぐに着替えるようである。


「クロクマだよー! たべちゃうぞぉ!!」


 くまの着ぐるみの服を着たクロが試着室から出てきた。

両手を上げてくまの物まねをしていた。


「いいね! 可愛い可愛い!」


 子供というのは、本当に何を着ても似合うものだ。

クロは得意げな表情を浮かべている。


「じゃあ、それをねまきにして、普段着も何着か買おうか」

「がおー!」


 よほど気に入ったのだろう。

クロはがおーと返事をした。


「お買い上げありがとうございましたー」


 私は、クロの服の他に自分の分も合わせていた服を買ってしまった。

果たして、着る機会は来るのだろうか?


 服を買い終えると、私はたちは百貨店の中を歩いていた。

クロは買ってすぐにくまの着ぐるみに着替えていた。


「おぉ! でっかいかおだ!!」


 クロはプリクラのポスターに反応していた。


「あれは、なに? なに?」

「ああ、懐かしいな。プリクラ機だよ。かわいく写真とるの」


 これでも、学生の頃はよく撮ったものだ。


「クロ、これ以上かわいくなるのか」


 そうだけど、自分で言うなよ。


「コスプレか……クロはもうしているようなものか」


 プリクラ機の所には『コスプレしてプリをとろう!』と書かれていた。

ご丁寧に試着室まで用意されているようである。


「かおるも、さっき買ったやつあるよ!!」


 コスプレと言われるとしょげるからやめてくれ。


「んー、別にこの服でも……」


 そこまで言うとクロの方を向いた。

クロは期待に満ちた目を向けてきていた。


 あ、駄目だ。

そんなまぶしい目で見つめられたら着るしかないだろう。


『指定のポーズをしてね!! いくよー」


 プリクラ機から音声が流れる。

私は、さっき買った服に着替えていた。

まさか、こんなに早く着る機会がくるとは!!


『指でハートをつくってね! 5、4』


 ハートとかマジかよ。


「クロ、出来るよ!!」


 クロはノリにのっている。

楽しそうだ。

どうにでもなれ!!


『次は変顔だよ! 5、4』


 どうしよう、この機械嫌いになりそう。


「クロ、全然浮かばないよ……むずかしい……」


 クロはワタワタとしている。

よし、私も軽いものを。


「かおるはきっと凄いんだろうなぁ」


 クロは期待の目を向けている。

やめて、そのキラキラした目。

 私は、今の自分に出来る全力の変顔をした。

何か色々失った気がするが。


「となりでお絵かきしようか」

「おぉ!!」


 私とクロはお絵かきをする画面をのぞき込んだ。


「あっ!! クロがいない!!」


 クロは画面に映っておらず、私一人が映っていた。

クロが幽霊ということをすっかり忘れていた。


「クロはプリクラに嫌われているの!?」


 涙目になりながらクロはショックを受けていた。


「ここは任せろ!」


 そう言って私はペンを取った。

漫画家を舐めるなよ。



 ♢



 家に帰って、印刷されたプリクラを足をばたつかせ、嬉しそうに眺めていた。

そこには、私が描いたクロと私の楽しそうな様子があった。

クロは言った。


「クロの、宝物!」

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