第41話 バカじゃないの? お金ないくせに!

 これは、まだクロが白愛の時のお話である。


「そんなのいらない!!」


 白愛は再び声を荒げて言った。


 もしかして、白愛の欲しい物はこれでは無かったのだろうか。

そんな思いが私の中によぎった。


「ごめんね。欲しい物これじゃ無かった? 今から白愛の欲しい物を買いに……」


 私がそう言おうとした時、白愛の声が私の声を遮った。


「そーゆーことじゃない!!!!」


 白愛が声を荒げた。

目には涙を浮かべていた。


「バカじゃないの! お金ないくせに! 貧乏なくせに!!」


 確かに、うちに余裕があるかと聞かれたら、余裕はないだろう。

それでも、子供を育てられるくらいには稼いでいるはずであった。


「いつも白愛を一人にするくらい働いているくせに!! 疲れているくせに!」


 白愛が続けて声を荒げている。


「嫌い……甘い物なんて、大っ嫌い!!」


 白愛が涙を目にいっぱい溜めて言った。

これは、今になって思うと白愛なりの優しさだったのかもしれない。

しかし、この時はそんなことに気づくほどの心の余裕はなかった。


「ごめんね、白愛……」


 私にはこの言葉しか出て来なかった。



 ♢



 翌日、私は仕事に行く。

しかし、今日は一つ決めていたことがあった。


 私は、置手紙を残して仕事に出た。



* * * *


ハクアへ


今日はいつものお弁当屋さんに行ってきます。

夕方には戻るから待っててね!!

昨日はごめんね。

お母さん、白愛のこと大好きだよ!!

お誕生日おめでとう☆

夜は二人でケーキ食べようね!!



* * * *



 一からやり直そう。

もう、幸せを履き違えたりはしないように。


 白愛に、少しでもいい思いをさせたくて、仕事にいそしんできた。

父親が居ないということを、白愛の負い目にしないように。


 しかし、その結果がどうだ?

ワガママの一つも言わせてあげられなかったんじゃないのか。


 まずは、仕事を減らすことから。

もう少し小さなアパートでもいい。

二人で、時間をかけて……



『普通の親子になろう』



「ママ……ごめんなさい……」


 誰も居ない部屋で一人。

白愛は買ってもらったぬいぐるみを胸に抱えて、そう口にした。

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