第42話 もう一度あなたと
お昼休憩の時間になった。
私はお弁当を食べる為に、持ってきた鞄の中を覗いた。
「あれ? お弁当、忘れちゃった……」
お弁当を家のキッチンに置いてきてしまった事に気が付いた。
♢
白愛は、キッチンに置かれたままになったお弁当箱を見付けた。
それを見て、不思議と涙が出てきた。
全部、嘘なの……
ママにぬいぐるみを買って貰えて、白愛の誕生日を祝ってくれて……
「本当は、凄く嬉しかった……」
白愛は買ってもらったぬいぐるみを抱きかかえ、ボロボロと大粒の涙を流して言った。
この部屋には白愛一人しか居ない。
ママ、ごめんなさい……
白愛もママが大好きだよ。
白愛は母が忘れたお弁当箱を持って家を飛びだした。
母のパート先は知っていたため、そこに向かって走る。
ママ……
するとその時、道路を挟んで向かい側に母の姿が映った。
きっと、このお弁当を取りにきたのだろう。
「白愛……」
「ママ!!」
白愛は横断歩道を渡ろうした。
止まること無かった車はそのまま白愛と衝突した。
歩行者用の信号は確かに青だった。
これは完全に車の運転手側の過失となる。
「ダメェェェ!!」
私は全力で叫び声を上げた。
車が、スピードをを緩める事無く、突っ込んできたのだ。
「ママ……ケーキ、食べたいな」
白愛が涙をいっぱいに溜めて言った。
しかし、これが白愛の最初で最後のワガママであった。
しかし、そんな事を言っても仕方がない。
白愛は、目を覚まさなかったのだ。
「何で白愛が、自分の娘が……」
私は何度もそう思った。
後悔もした。
あの日、私がお弁当を忘れなかったら。
もっと早く歩いていたら、白愛と出会う所が変わっていたかもしれない。
しかし、それは後だしジャンケンのようなもので、後悔したからといって白愛が目を覚す訳ではない。
運転手を恨んだこともあった。
誰かを恨むことで心を保とうとしていたのかもしれない。
しかし、それも解決にはならなかった。
もう、白愛の笑顔は見られないのかもしれない。
そんな思いが私の中によぎった。
「もう一度、白愛とケーキが食べさせてあげたい」
私の中であの時から時間は止まったままである。
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