第43話 母の想い
「ケーキ、食べたいな」
白愛の母親に言ったそのワガママは叶わぬまま、意識不明になった。
「結局、最後の会話も置手紙でした」
白愛の母親が涙を流しながら言った。
「マ、ママなの……?」
クロが白愛の母親の手を手を軽く握って言った。
それに、何かを感じ取ったのか、白愛の母親は少しハッとした表情を見せた。
「クロちゃんは、ここに居るんですか……?」
そう、私に尋ねてくる。
確かに、そこにクロは居る。
「はい、います」
私はそう、白愛の母に答えた。
「元気に、笑っています」
クロがどういう状況でそこにいるのか、私は説明した。
見えないものを信じるのは難しい。
しかし、白愛の母親は何かを感じ取ったような様子であった。
見えていなくても、声が聞こえなくても、感じ取れる何かがあったのだろう。
「ママ、泣いているの? クロが元気あげるよ!!」
クロが白愛母親の顔を見上げて言った。
そのクロの笑顔は優しかった。
「ごめんね……」
白愛の母親は絞り出すような声でそう言った。
「ごめんね。一人にして、寂しくさせて」
目を伏せてそう、言葉を続けた。
その目にはまだ涙が浮かべられていた。
「いい子いい子」
クロは白愛の母の頭を胸に抱えた。
そして、その頭をゆっくりと撫でた。
きっと、この感覚も白愛の母には伝わらないかもしれない。
それでも、何かを感じ取ってくれているような表情を浮べていた。
「クロね、寂しくないよ」
クロはその小さい体で白愛の母の背中に手を回した。
そして、少し力を加えて優しく抱きしめた。
「だってね、今はすっごく……」
クロは白愛の母から離れると、柔和な表情を浮かべていた。
「楽しいから!」
満面の笑みを浮かべるとクロはそう言った。
その言葉に私は思わず、薄っすらと涙を浮べてしまった。
そして、思う。
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