第5話 おやすみ

 幽霊も寝るということに衝撃を受けた、私だったが、自分の布団を準備し終えていた。

ちなみに、布団は私がいつも使っているもの一つしかない。


「あっ、あのね……あの」


 幽霊の女の子モジモジとしていた。

そして、私と布団を交互に見つめてくる。

その時、この女の子が何を求めて居るかは、おおよその察しがついた。


「……一緒に、寝る?」


 上目遣いで見ていた、女の子のそう告げた。

すると、女の子の表情が、パーっと明るくなった。


「うん! 寝たい」

 

 女の子はよほど嬉しかったのか、持っていたぬいぐるみに顔をうずめ、目を細めて微笑んだ。

そう、素直に喜ばれると、提案したこっちまで照れてしまう。


「電気、消すよ」


 照れ隠しのように私は電気を消すために手を伸ばす。

電気を消すと、女の子と一緒に布団に入る。


「スースー」


 布団に入り、目を閉じるとすぐに女の子は私の隣で寝息をたてていた。


「本当に、寝たよ……」


 その寝顔を見ると、やっぱり生きているのではないかと疑ってしまう。

ポルターガイストを発動させるのも、物理的だったし。


「んっんん。……明るい」


 ボソッと、寝言で呟いた。

その目には、一筋の涙が流れていた。


「寝言、か……」


 この女の子は、誰にも気づかれず、一人でずっと真っ暗の部屋で過ごしていたのだ。

怖いと感じ、寂しいと感じるのは当然だろう。

この子は、この家に来て少しでも明るくなれたのだろうか。

いい影響を与えてあげているのだろうか。

寂しいのは、私も一緒。

私も寂しかったから女の子を招き入れた。

要は、自分の感情でもあったのだ。


「頑張ったね。もう、大丈夫だよ」


 寝息をたてている、女の子の綺麗に伸ばされた黒髪を撫でながら言った。


「おやすみ」


 女の子の顔を見て、頭を撫でながらそう言った。

女の子の表情は、少し明るいものになったのではないかと感じた。

目には涙を浮かべていたが、安心したような表情をしていた。

これは、きっと私の勘違いではないだろう。


 そこまで言うと、私も目を閉じた。

やがて、意識を手放すのであった。


 今日の布団はいつもより暖かく感じた。

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