第36話 アオイが空気を読まない訳
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り響く。
この家をこうも定期的に尋ねてくるのはもう、一人しかいないであろう。
「先輩!! 腕復活おめでとうございまーす!!」
玄関を開けると、アオイが居た。
まあ、分かっていたが。
「うん……」
「元気ないっすね! 連載落ちました?」
アオイがいきなりぶっこんで来る。
「実際に落ちてたらどうするつもりだ?」
相変わらずの空気の読めなさである。
「それで、どうしたんすか? 力になるって言ったはずっすよ」
そう言うアオイに、私は昨日見てきてことを話した。
クロが実は、生きていていたということを。
「クロちゃんが生きてた……そうすか……」
クロは今、お昼寝タイムだった。
今なら小声で話す分には大丈夫だろう。
「私、もう分かんないよ……どうしたらいいんだろう……」
私は、思わず弱音をこぼしてしまっていた。
「とりあえず、喜ぶとこじゃないすか?」
アオイは簡単に言い切ってしまった。
そんな単純な事なのだろうか。
「だって、ウチからしたら幽霊は居るって時点で驚愕なんすよ。今更生きてるって言われても変わらないっすよ」
ファンタジーの世界にファンタジーをぶち込んでも、結局はファンタジーに染まってしまうということだろう。
「だから今は、生きてた事を喜ぶしかないっすよ!!」
アオイは微笑みを浮かべながら言った。
「ほんと、空気読めないな……」
「何言ってんすか! それを教えてくれたのは先輩じゃないっすか!」
♢
それは、遡ること数年前。
私が専門学校時代のことであった。
嫌われるのが怖くて、空気ばかり読んでいた私を変えてくれたのは、他でもない薫だった。
「ねぇアオイ、これから合コン行かなない?」
「いや、ウチ今日、6コマまであるんすよ」
誘われた合コンをアオイは断ろうとしていた。
「え、何それ。いつからそんなにまじめちゃんになったわけ?」
「遊ぶのが学生の本分だよ」
友人と呼べるのかもどうかも分からない人達からそそのかされる。
「そっそうっすよね。ウチもそう思うっす」
私は何となく周りの空気を読んで合わせていた。
「ていうか、そんなバカみたいに空気読んでいたら、誰かさんみたいにはぶられるよ」
「ちょっと実力があるからって」
そんの連中は、私の方に視線を向けて言った。
「その空気、美味しい……?」
薫は、その連中に聞こえるような声で言った。
「は?」
その連中は、私が何を言ったのか分からないといったような表情を浮べていた。
「私は、自分の空気を吸いたい」
作業の手を止める事なく、私は言った。
「他人の空気なんて、美味しくないでしょ」
♢
いつだって、私は空気を読まないで生きてき来ていた。
「ウチは、そんな先輩に憧れたんすよ。だから、一生空気なんて読まないっす!」
アオイは昔を懐かしむ様な表情を浮べて言った。
「先輩が好きな空気は、どれですか?」
私は、そのアオイの言葉に考えさせられた。
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