第7話 名前を決めよう
まさか、こどもの名前を決める日が来るとは思わなかった。
自分の子供もまだなのにだ。
その予定も無いが。
これ、自分で言っていて悲しくなってくるな。
やめよう。
初めて名前を付けるのは、幽霊の女の子。
責任重大で凄く緊張していた。
「おぉー」
幽霊の女の子は、期待した目で、こちらを見つめてきた。
「じゃ、じゃあ……」
私は、床にチョコンと座っている幽霊の女の子を、ジッと見つめた。
黒い髪に黒いワンピースを着た女の子。
ずっと暗い部屋に居た女の子の幽霊。
「クロ」
私は、ボソッと呟くように言った。
女の子は、まだ、私をジッと見つめていた。
「って! これじゃあ、安直すぎるか!! ごめん、今のやっぱ無し!!」
私は、両手で髪の毛をくしゃくしゃっとし、ワチャワチャとしてしまっていた。
「いいっ……」
女の子は俯くと、私のTシャツの袖を摘まんできた。
「クロが、いい!」
女の子は顔を上げると、凄く明るく、優しい表情を浮かべていた。
「ほんと? まだ、たくさん候補だすよ!」
私は、慌ててそう言った。
いくら何でも、クロは安直すぎやしないか。
我ながら、ネーミングセンスは無い事を思い知った。
「いいの」
女の子は優しい声で言った。
「クロがいい。ふふ、クロ……クロクロだよ。クロだって、クロクロクロ」
よほど、名前が気に入ったのか、名前を付けてもらったのが嬉しかったのか、持っていたぬいぐるみをギュッと抱きしめ、クロと自分の名前を連呼していた。
その表情は、すごく幸せそうな優しいものだった。
「クロは、クロだよっ。クロなんだよっ」
そう言う、女の子の表情は、どこか儚げだが、嬉しそうな、そんな表情だった。
「かおる」
クロは私の方を指さした。
「クロ」
次に、自分を指さし、自分の名前を言った。
にたぁと笑い、自分の名前を誇らしげに言った。
「えへへ」
そんなクロの表情に、私の口角も自然と上がっていた。
「クロ、眠気覚ましにコーヒー飲む?」
「クロ、コーヒー飲む!!」
こうして、幽霊の女の子の名前は、『クロ』に決まったのであった。
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