第9話 お風呂

 アシスタントの帰り、もう少しで家に着こうとした時、急に雨に降られた。

ゲリラ豪雨というやつか。


「雨降る何て聞いてないよぉ。ただいまー」


 ずぶ濡れになりながら、私は部屋の玄関を開けた。


「おかえり! かおる」


 つい先日まで、一人暮らしだった我が家に幽霊の女の子が住み始めていた。


「ほっかほっかだよ!」


 奥の部屋からバタバタっと走って来て

クロは両手でタオルを差し出してくれた。


「んふぅー」


 その目はキラキラと輝いている。

どうやら、褒められたいらしい。

可愛いかよ。


「ありがとう。でも、先にお風呂入るね」

「わかしてない。クロ、使えない子……」


 クロは涙目になっていた。

泣き虫の優しい子。

それが、クロだ。


「お風呂、沸かそうか。クロ、一緒に入る?」

「クロ、お風呂入る!」


 クロは元気よく頷いた。

私はお風呂に入るべく、脱衣所で服を脱ぎ、濡れた服はそのまま洗濯機に放り込んだ。


「おぉー」


 クロはお風呂を見て、目をキラキラさせて言った。

幽霊とお風呂、なんとも不思議な状況である。


「お風呂は入った事あるの?」

「クロ、初めて……」


 まぁ、飲み物を飲めたりするぐらいだから、普通に入れるだろう。


「おぉ、アヒルさん」


 クロはお風呂場の中にあった、ゴム製のアヒルさんを手に取っていた。


「それって、他の人から見たら、そのアヒルはどう見えるの?」


 私は、興味本位で聞いてみた。


「霊感が無い人がみたら、浮いて、見える……」

「怖っ!?」


 薄々感づいてはいたが、実際に想像すると怖いものがある。


「前に住んでいた人は、お人形の頭を片付けてたら、頭が浮いてるって驚いていたよ!」


 おそらく、カットウィッグのことだろう。


「それは、退去したくもなるわ……」


 私は唖然としてしまった。


「でも、見えなくすることもできるよ!」


 小さいものなら見えなくする事もできたらしい。

少し、疑わしい所があるが。

クロはドヤ顔で言った。


「何でもありなんだ……ひょっとしてクロは、浮いたり、透けたりもできるの?」


 これまた、興味本位だった。


「クロ、できるよ……!!」


 今日1番のドヤ顔で言うクロ。


「心配だ……」

「いくよー」


 そう言うと、頭から浴槽の壁へと突っ込んだ。


「おぉー! 本当にできるんだ」


 頭から突っ込んだと思ったら、今度は、頭を浴槽の壁からむくっと出した。


「そっちから!!」


 すると、クロは手をバタバタとさせて、少し焦ったような表情をしていた。

下半身は壁に埋まっており、出ている上半身は裸なのだ。

どう見ても、エロ同人にありそうなシーンである。


「クロ、もしかして……」

「こういうのも、出来る……!!」


 エッエン!とばかりに言ったが、その目は明らかに泳いでいる。


「嘘下手かよ!!」


 恐らく、抜けなくなってしまったのだろう。


「クロ、このままここで、死んじゃう……?」

「だっ大丈夫だから、落ち着いてっ!!」


 果たして幽霊は死ぬのかなど、言っている場合じゃない。


「かおるー」

「にしても、絵面がひどい……」


 その後、私がクロの手を持って引っ張ってみたら抜けた。

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