第22話 漫画家を目指す訳
「れんさい会議ってのが終わったら、かおるはプロの漫画家さんになれるの?」
原稿を手にする私にクロが聞いてきた。
「そうだよ。来週末にね。そこまでにネーム終わらせなきゃ」
もう、二回ほど連載会議に落ちている。
今回こそは絶対に通して見せる。
そんな思いで私は連載会議に向けてネームを描いていた。
「ということで、集中するから今日は遊べないよ」
「え!?」
私の言葉に、クロは驚いたような表情を浮かべていた。
「クロの応援は?」
クロはまた、自分の髪の毛をポンポンに見立てるように持っていた。
「ごめん、無音でやりたい……」
凄く、嬉しいけど。
「テレビは?」
クロはテレビの横まで行くと、両手でテレビを指した。
「イヤホン使って」
私は、いつも使っているイヤホンを取り出すと、クロに差し出した。
「ふぅー。なら、よし!」
クロは額を手の甲で拭うような仕草をした。
いいんだ……
「テレビは命だからね!」
クロはドヤ顔を浮かべていた。
なぜドヤ顔何だろうか。
『ふわっふわっです。このスフレ』
テレビには、スフレパンケーキが特集されていた。
「おぉ! ふわっふわかぁ」
クロはよだれを垂らしながら、画面を見ていた。
「かおるかおる! これ見て!! ふわっ……」
クロはテレビから目を離して、私に話しかけてきた。
しかし、その声は集中している私の耳には届かなかった。
私は、真剣な表情でネームを進める。
そんな私を、クロもまた真剣な表情で見つめた。
「クロックロックロックロ」
クロは変な動きと共に、そっとクロの歌を歌い始めた。
その声も、真剣に描く私には届いていなかった。
その表情にクロは少し寂しそうだが、私を本気で応援する。
そう、決心したよう表情だった。
♢
「なんでかおるは、漫画家さんになりたいの?」
ネームが一段落したころにはもう夜遅かった。
クロが、一緒の布団に入る私に向かって聞いてきた。
「んー、割と難しい質問だなぁ。夢、になったからかな」
「夢?」
クロが尋ねる。
「うん」
「私は、兄妹は居ないし、人付き合いも差し当たって得意という方ではなかったし、ゲームなどを買う余裕も無かったんだ」
私は過去の自分を振り返るように話し始める。
「だから、捨てられた漫画を探しては拾って読んでいたんだ。今思えば、これに支えられていたんだと思うの。別に、大した青春を送っていた訳じゃないけど、嫌な記憶にはならなかった。それで、私もいつか誰かの人生に色をつけられたって、私の物語で誰かの心を動かせたらって……」
「……そっかぁ!」
クロが言った。
あ、これは理解してない顔だな。
「つまり、本気で好きになっちゃったんだよ。漫画が」
♢
次の日も、私は朝からネームを描く。
少し、小腹が空いてきた。
「あぁー、ひとまず休憩っと……」
そう言って、私はネームから顔を上げる。
「あれ? クロが居ない!?」
キョロキョロと周りを見回すがどこにもいない。
もしかして、相手しなかったからまたどっかで泣いているんじゃ……
「後はバスルームしかない!」
私は、部屋を一通り探したが、クロの姿はどこにも無かった。
「クロ!!」
勢いよくバスルームに扉を開けた。
「んっんん。あ、かおるだぁ」
クロは、浴槽の中で布団に包まると、すやすやと寝息をたてていたのだ。
「何、してるの? こんなところで……」
「おぉ! そうだ! クロね」
クロは何か思い出したような様子であった。
「かおるのじゃましないようにしてた! かおるの好きなことはクロも大好きだから」
クロは微笑みを浮かべながら言った。
その言葉を聞いて、私は心が温かくなったのを感じた。
「お昼食べたらもう少し頑張るから、クロ応援してくれる?
「いいの!? じゃあ、クロの歌にする!」
クロの表情に花が咲いた。
普通のヤツでお願いしたいがね。
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