第21話 おやつの時間
幽霊に取り憑かれてから、不幸になってきている。
「イタッ!」
木片が足の裏に刺さった。
「まだ、築6年なんだけどな……」
1時間前には鳥のフンに見舞われた。
最初の頃は、不注意で納得していたが、日に日に頻度も多くなり、ごまかしが効かなくなってきた。
しかし、不幸になっていることがバレたら、クロが悲しむと思い、気付かれないように心掛けてきた。
クロはまだ子供だから、大人の私が守らなきゃいけない。
「幽霊なのにグルメ好きって……」
クロはデザート特集の本を眺めながら鼻歌を歌っている。
凄く上機嫌だ。
クロは絵本よりグルメ本派らしい。
「シュークリームだって! シューだ! クロ、よだれ出ちゃうよぉ」
いた、出てる出てる。
ありゃ、本物見たら感動して泣くんじゃないか?
「来週、か……」
そんなことを思いながら、私はカレンダーを見てふと気が付いた。
週刊コミックの連載会議。
半年間直しに直しをかけて練った企画。
担当さんにも褒めてもらえてるし、今度こそ……!!
『ピピピ! ピピピ!』
時計のアラームが鳴った。
「おぉ! クロのおやつの時間だ!」
クロは勢いよく立ち上がった。
3時にアラームが鳴るようにクロは設定しているのだ。
「来たかー、クロの時代!」
クロは口元が緩んでいた。
よほど楽しみにしていたんだろう。
「アラーム止めてからね」
私の言葉で鳴り続けるアラームをクロは止めた。
「かおる! 今日のおやつは何? シュー? クロ、手伝う? シューもいいけどクロはケーキがいいなぁ?」
クロが一気に畳みかけてくる。
私は聖徳太子か!
「んー、ホットケーキはどう?」
「おぉ!!」
私は、悩んだ結果キッチンの収納からホットケーキミックスを取り出した。
「ホイップクリームもあるからデコレーション出来るよ」
「おぉ!! 生クリームだっ!!」
クロは目をこれでもかと輝かせていた。
「ホットケーキにクリーム……かおるは神様だぁ!!」
いや、神安いな。
「生地は、これでいいかな」
私は、ボウルに入れたホットケーキミックスに牛乳と卵を入れて混ぜ終えていた。
「おぉ! 見せてみせて!!」
クロがぴょんぴょんと小さく跳ねていた。
「はいはい、これだよ!」
子供ってこういうの好きだよね。
私もつまみ食いしてたっけ。
「あっ!」
クロにボウルの中身を見せようとしたその時、私はつまずいてしまった。
『ヤバっ!』
もにゅ……
痛みを覚悟したが、私の感覚は違った。
「あれ? 痛く、ない……」
「クロクッション!! だよ!!」
クロが私の下敷きになってくれた。
「かおる大丈夫?」
「クロのおかげで」
クロが下敷きになってくれたおかげで私は怪我を免れた。
クロは幽霊だから怪我しないし、痛くも無いらしい。
「ありがとう。でも、ドロドロになっちゃったね」
クロは生地の入ったボウルを頭からかぶってしまっていた。
「生地、美味しい!!」
クロはドロッとしたものを舌なめずりをするように舐めとった。
何か、絵面エロイな。
「あんまり、生で食べないの。シャワー浴びよっか」
「クロ、大丈夫だよ」
クロは立ち上がった。
「へ?」
「透ければ全部落ちる!!」
クロは両手を上げると、自分を透けさせ、生地を全部床に落とした。
ドヤ顔を浮かべている。
いや、便利だな!
片付け増えたけど!!
この後、私たちは床に落ちた生地を掃除するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます