第29話 事故物件……?

 ――ピンポーン


 部屋のチャイムが鳴り響いた。

誰がきたのかは、おおよその察しが付く。


「はーい!」


 私はそう言いながら、私は玄関の扉を開けた。


「お引越しそばー!!」


 玄関を開けると、そう言いながらアオイが立っていた。

アオイは、専門学校時代の後輩である。


「いや、近所じゃないでしょ」


 私は、思わずそう突っ込んでやった。


「何言ってんすか、心はいつも隣っすよ」


 相変わらず調子のいい奴である。


「今から、そば作るからクロと遊んでてー」


 私はそう言うと、アオイをリビングの方へと促した。


「あ、クロちゃんにペンキかけていいっすか!?」


 アオイが思い出したかのように行った。

いや、何でだよ!!


「そしたら、私でもクロちゃんが見えるかなって」


 アオイがニコッと笑いながら言った。

その顔は笑っていたが、目はどことなく寂しそうな印象を受けた。


「あ……」


 そうだった。

アオイにはクロの姿は見えていないのである。

私は、当然のように見えているため、これが当たり前になっていたのだ。

しかし、これが当たあり前ではない人間の方が多いのである。

まあ、見たい気持ちは分からなくもない。


「おぉ!!!!」


 アオイはリビングへと入るや否や、そう叫んだ。


「服が浮いてるっす!!」


 クロは、体に触れているものなら、透明にすることも、不透明にすることも出来るのである。

その浮いている服を見て、アオイの表情は明るいものへと変わった。


「よーし! クロちゃんゲームやろっか!!」


 アオイがクロに向かって話しかけた。

アオイからしたら、クロの服に話しかけたという方が正解なのだろうか?


「おおー! クロつよいよー!」


 クロは、ゲームをするという意思表所を見せた。


「クロ、やるって」


 クロの意思を私はアオイに通訳してやる。

こうして見ると、まるで姉妹のようである


「本当に隣の部屋に引っ越したんすねー」


 アオイはゲームをやりながら、私に話しかけてくる。

そんな余裕ぶっているとまたクロに負けるぞ。


「まあ、色々あってね」


 色々あったで間違ってはいないだろう。


「当たり前ですけど、間取りって変わんないっすねー! そういや、家賃っていくらっすか?」


 アオイは、デリバリーの無い事をぶっこんで来る。


「ん? 前と同じだけど」


 私は、別に隠すことでもないのでそう答えた。

同じアパートであるし、間取りも変わらないのだから、家賃は同じでも当然であろう。


「えっ……ここ、事故物件ですよね」


 アオイは、ゲームの画面から視線を外すと、不思議そうに私に疑問をぶつけてきた。


「いや、まあ、だってあれでしょ。値段下げていたら公表しているようなもんだし……だから」

「先輩?」


 この時、私にはここが事故物件であると信じたい理由があったのかもしれない。

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