第32話 薫の不安

「先輩、事情ってなんすか? わざわざ外にまで出て」


 私は、アオイを外に連れ出すと、深刻な面持ちになっていた。

これは、クロの居ない、聞かれていない所でしか話せない内容だった為、私はこのような手段を取ることにした。



「正直、私もまだ理解できていないけど、実は、クロがね……」



 私は、クロが最近消える現象が頻発していることを伝えた。


「クロちゃんが、消える……?」


 アオイはいつもの調子に乗った表情ではなく、深刻そうな表情を浮べていた。

ここでは、逆にいつものように振舞われたら、怒っていたかもしれない。

これも、アオイなりの気遣いなのだろう。


「さっき、服が落ちたのもクロちゃんが消えたからだったんですね」


 何故、クロの服が急に落ちたのか、アオイは理解したといった様子であった。

まあ、クロの本体を見えていないのだから、何が起こったかの理解はしずらかったのだろう。


「うん、急に消えては現れたり、その繰り返し」


 私は、いつにも無く暗い表情を浮べていた。

毎日、不安になるのだ。

このまま、再びクロが姿を現すことが無かったらって。


「それとさっき、大家さんにこの部屋の事聞いたの……」


 ここは、事故物件ではない事。

過去に、誰もここで死んでない事。

大家さんから聞いて判明した事を私はアオイに話した。


 話していて自身の不安の気持ちが更に煽られる。

私は、一気に暗い表情にまで落ちていたと思う。


「先輩っ!!!!」


 アオイにいきなり肩を掴まれた。

それも、結構な強さでだ。


「うちはもう、クロちゃんとマブダチっす! うちにも手伝えることあったら、いつでも呼んでくださいっす!」


 アオイは、私の目を見て真剣な表情で訴えてきた。

その言葉で、私は少し救われた気がした。


 もう、こういう時に限って空気読まないでよね……


「ありがとう」


 これが、私から出たアオイへ精一杯の言葉だった。


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