【ノベライズ版】事故物件の幽霊ちゃん〜隣の部屋は事故物件かと思ったら可愛い女の子の幽霊が寂しそうだったので一緒に暮らすことにした件について〜
津ヶ谷
第1章
第1話 隣の部屋は事故物件?
私の隣の部屋は、事故物件だ。
夜な夜な、声が聞こえたり、食器が割れたり、水がひとりでに出たり。
いわゆる、ポルターガイストが絶えなかったらしい。
しかし、私は漫画家志望で、女の一人暮らし。
引っ越す余裕なんて無く、この部屋を離れるつもりは無かった。
「打ち合わせ後のビールは染みるなぁ。さて、ネーム書くか」
部屋で一人、ビールを片手に座っていた。
ちなみに、隣の部屋は、住居者が退去してから、ここ数年空き部屋になっていたが、未だにポルターガイストは続いている。
『ガタッ』
隣の部屋からなにやら、音が聞こえてくる。
「集中集中……」
ペンを右手に、私は机に向かい、ネームを描く。
『タッタッタッ』
『ぎぃー」
「集中……」
極力、ポルターガイストは、気にしないようにして机に向かう。
『ガタッ』
「うっさいわ!」
机を叩いて立ち上がった。
そのまま、隣の部屋に面する壁を、ジッと見つめる。
少しの間、部屋には静寂が流れる。
『バタッ』
「続くんかい!!」
思わず、突っ込んでしまった。
「うん……? 何か、声が聞こえたような……」
私は、隣の部屋に面する壁に耳を近づけた。
そのまま、耳を傾ける。
『寂しいよ……一人怖いよ……この前はごめんなさい。人が来て、嬉しくて、つい、はしゃいだだけなんです……』
「やっぱり、聞こえる」
私の耳には確かにそう聞こえた。
『ぐすっ……一人は、怖いです……』
そこまで聞くと、自分の部屋の玄関を開け、隣の部屋の玄関へと回った。
不思議と、体勝手に動いた。
「はぁ……聞こえているかどうか知らんけど、ウチ、来る?」
自然と、その言葉が紡がれた。
きっと、私も寂しかったのだろう。
漫画家を目指して早27歳。
周りは結婚をして、幸せのお裾分けをしてくるや否や『独身』は悪というマジョリティに乗っかって、『優しさ』という暴力をふるってくる。
いくら雑草でも、毎回立ち上がるのには、それなりの精神と力が必要なものであり、もう、心身共に限界だった。
その時、ガチャっと音を立て、となりの部屋の玄関が開いた。
「いい……の?」
そこには、綺麗に切りそろえられた黒髪を、腰の位置まで伸ばし、黒のワンピースを着て、ボロボロになったぬいぐるみを抱えた、可愛らしい女の子が、目に涙をいっぱいに溜めて立っていた。
「はぁー」
喉を鳴らすような可愛らしい声を上げ、女の子は私を見上げてきた。
その目は、どこか虚ろで儚げだった。
「お皿、割らないでね」
「うん……」
そう言って、女の子は抱き着いてきた。
「一人、寂しかったよね。その気持ちは分かるよ。私も、ずっと一人だったから」
私は、思いを馳せるように宙を眺めた。
一人の寂しさは、私も、十分なほどに知っている。
誰だって、一人は寂しいのだ。
仕事、学校、社会の荒波に揉まれ、現代社会はストレスだらけだ。
その、寂しさ、虚しさを、誰かで埋めたいと思うのも自然な事ではないだろうか。
幽霊の女の子は、まだ、目に涙を溜めていた。
こうして、隣部屋の幽霊の女の子と同居することになるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます