第13話 クロの呪怨
空気を読まない後輩が、空気を読まずに、クロと同居している家に泊りに来ている。
「先輩!! ペンが浮いてますよ!!」
クロが紙にペンを走らせている。
幽霊が見えないアオイには、ペンが勝手に浮いているように見えているのだろう。
「いや、馴染んでるし」
私は、ここまで受け入れられるアオイに驚愕していた。
『クロっていうんだよ』
クロは似顔絵付きで、スケッチブックに書いたものを、アオイに見せた。
きっと、この姿もアオイには見えていない。
「ほえー。クロって言うんすか。私は、アオイっす」
アオイが、スケッチブックの方に向かって言った。
「なんか、ペットみたいな名前っすね」
「悪かったな!!」
アオイの発言に私は思わず、声を上げた。
クロは、アオイの発言にショックを受けている様子だ。
「かおせんが付けたんすか!? ダサいっすね」
アオイが追い打ちでとどめを刺してくる。
『ダサクロだよ ごめんね』
クロが自分のダサいイラスト付きで、スケッチブックに書いた。
その表情は、どよーんとした落ち込んでいるようだった。
「いや、ちょいダサっす。かわいい! かわいいっすよ!」
アオイが慌てた様子で訂正を入れた。
『どうも、カワクロです』
「ふぅーん!!」
クロが可愛い自分のイラストと共に、スケッチブックに書いた。
今のクロはドヤ顔を浮かべている。
いや、単純かよ。
しかし、クロは絵がうまいな。
『アオイとゲームする』
クロがスケッチブックに書いた。
「いいっすね。やりましょう。やりましょう!」
「じゃあ、私は仕事しているから」
そう言うと、私は机の上に仕事道具を広げた。
「クロちゃん、何のゲームするんすか?」
『これだよ』
クロがスケッチブックにそう書き、アオイにコントローラーを渡す。
今からやるのは、マ〇オカートのようなレースゲームだ。
最近、クロはこれにハマっているらしい。
「んふぅ!!」
ゲームはクロの勝利だった。
クロはドヤ顔を浮かべている。
「クロちゃんつよ! 今度は本気でやるっすよ!!」
アオイもアオイで負けず嫌いなところがある。
クロとアオイはゲームに熱中していた。
気づけは、もう日が暮れてきていた。
「そろそろ、ご飯にしようか」
お腹も空いてくる時間である。
「「「いただきます」」」
今日は三人でご飯。
クロ以外とご飯を食べるの、思い返せば久々である。
「ぷはぁ。ごちそうさまっす」
アオイが満足げに言った。
「お風呂沸いてるから、先入っていいよ」
「あざーす」
私の言葉で、アオイがお風呂の方に向かっていく。
「ほら、また口が汚れてる」
そう言って、クロの口元をティッシュで拭く。
「おいしかった証拠!!」
クロは何故かドヤっている。
いや、それでは誤魔化せない。
「ほら、動かないの」
てか、自分で拭けよ。
「私も、クロちゃん見てみたかったっす」
アオイが、おもむろに言った。
その言葉に、私とクロは思わず、アオイを見つめた。
「お先、頂きますね」
アオイは笑顔に戻って言った。
「アオイ、クロを見たいの?」
クロが私に尋ねてきた。
「うん。やっぱり、見えないものを信じのは難しいのかもね……」
アオイがいくら信じると言っても、クロの姿は見えていないのだ。
「アオイ、クロの友達。アオイの願い叶えてあげる」
クロは得意げに言った。
* * *
「いやぁいい湯っす。きもちいぃ」
その頃、アオイは風呂を堪能していた。
すると、クロがいきなりお風呂場の電気を消した。
「あえ? 停電すか!?」
アオイは驚いている。
「おぉぉぉ!」
そう、呪怨のような声が聞こえてきた。
「何か聞こえるっす」
その時、パッと電気を付いた。
「クロが一緒にお風呂入っちゃうぞー」
そこには、服を脱ぎ、裸になったクロが手を幽霊のポーズにしてアオイの目の前で浮いていた。
アオイは、目を見開いて、人生においてみたことのない存在が見えたような表情を浮かべていた。
* * *
「うわぁ! 先輩ヤバいっす!!」
バスタオル一枚のアオイが私の元に駆け込んできた。
どうやら、上手くいったらしい。
霊感が無い人でも、恐怖を感じると幽霊が見えるようになるらしい。
「何か、黒と肌色のどろどろとした何かが!! 他にも幽霊が!?」
ああ、そう言えば、アオイはホラー系は得意だったような……
怖さが足りず、中途半端なクロが見えたのだろう。
いや、どろどろの方が怖いだろ。
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