第18話 ベルナデッタ危機一髪 4

マリーさんからの突然の頼み事で作った思い出の品は、ベルナデッタ危機一髪というゲームになった。渡された人たちは、それぞれの思いを抱えていた。


ベルナデッタ危機一髪が完成してすぐ、マリオさんが手に取った。

「こいつは、俺にとっちゃ自分の力不足を痛感する良い教訓として大事にするよ」

マリオさんにとっては、自分の力不足を痛感する日になったらしい。

あの日マリオさんが出かけた理由は、ボーリングのレーンの不調を直すためだった。かなり時間がかかって作業が終わり、やっと帰ってこれたと思ったら、今度はベルナデッタをゴミ箱から救出する作業が待っていた。それぞれの問題の原因はこうだ。ボーリングのレーンの構造上の問題だった。他のレーンは問題なかったが、一つの問題のレーンだけは微妙なズレがあった。なかなか気づかない細かい事がうまくいかない事もある。酒樽のゴミ箱は、ゴミ箱だからまあ全部に穴を空けなくても使えりゃ良いだろうという中途半端な穴を空けた手抜きが原因だった。穴をもっと大きく開けていればよかった。まさか人が入って抜けなくなってしまい、大変なことになる可能性なんて考えてなかった。道具にはいろいろな用途があるが、安全面を最も大事に考えければならない。人のために作った道具で、人の安全が脅かされるような事になってはいけない。腕の良い職人のマリオさんにとっても、まだまだ学ぶ事が多いと感じる一日だった。この日の出来事がきっかけとなり、後の未来にマリオ基準と呼ばれる道具の安全基準が設けられる事になる始まりの出来事だった。


次に見せたのが、ベルナデッタ危機一髪を依頼した張本人であるマリーさんだ。

「あははははは……か、かわいい!!かわいすぎる!!あははははは。最高……!!あははははは」

もう大爆笑だった。

依頼した本人が一番喜んでくれた。


「でも飛ばしちゃったら負けってルールじゃなくて、飛ばしたら勝ちにしない?その方が絶対良いよ!ベルちゃんにもそう言っておいてね!落ち込んじゃったらかわいそうだから。あはははは……くくっ……あははははは」

マリーさんの強い要望で、ベルナデッタ人形を飛ばしたら勝ちというルールになった。まあどっちでも遊べるからどっちでもいいよ。


「気に入ってもらえてよかったです。マリオさんと作った甲斐がありました」

「ねぇねぇ。ヒカルさん。これからそれ皆に配るんだよね?配り終わったら、また来てくれない?私のわがままを聞いてくれたお礼に、友達の結婚式の面白かった話を聞かせてあげたいんだー。ケインに聞かれたくない笑える話なの。2人でこっそり笑わない?くっ……ふふっ……あははっ……。どうかなぁ?」

「ああ、あの参加した友達の結婚式の話ですね。ケインに聞かせたくない話ですか。へぇ、面白そうだなー。ぜひ聞かせてください。分かりました。皆に配り終わったらまた来ます」


次にレインさんに渡した。

「まあかわいい人形ね。焦ったけど、まあなんとかなるものね。皆でやればなんとかなるわ。前向きに頑張らないとね」

レインさんは、大切な料理道具を失った。明日から店の仕事ができそうになくて焦っていた。明日は店を閉めて料理道具を買いに走り回らなければならない。料理の仕込みもしたいのにどうしようと焦っていた。しかしケインから妹の失態のせいで迷惑をかけたからと、その日のうちに急いで新しい道具一式を使用人達に言って買いそろえてくれた。まあなんとかなった。なんとかなるもんだよ。


ケインにとっては、迷惑な一日だった。ケインは、ため息をついていた。

「これを見ると、僕には馬鹿な妹がいる事を思い知らされる……」

ケインは使用人達を招集し、急いでレインさんの希望する道具を買いそろえるように指示を出した。人手も費用もかけて、被害者に対してきちんと家族として責任を取った。お兄様も大変だな。


アリスにとっては、新鮮な一日だと感じたようだ。

「これを見たら、ベルが師匠の服を着てる姿を思い出します。貴重な光景でした」


油まみれでぐちゃぐちゃになったベルをシャワールームに連れていき、着替えの服として男性用のぶかぶかの服を貸してあげた。恥ずかしそうで、でも喜しそうにも見えるベルナデッタを見て、良い機会だし、お詫びとして一着もらっちゃいなよと提案した。それでベルナデッタが、男性用のぶかぶかの服を返さずにもらっちゃう事にしたんだとか。


アルトにとっては、特別な日の特別な遊びとして印象に残ったみたいだ。

「かくれんぼ、面白かった。またやりたい!」


アルトにとっては、特別なお客さんと特別な遊びができた事が何よりも楽しかった。

ベルナデッタを見かける度に、またかくれんぼしようねと笑顔で話しかけるようになった。ちょっと人見知りな時もあるけど、ベルナデッタとは、もっと仲良くなりたいみたいだ。


ベルナデッタにとっては、言うまでもなく最悪な日の思い出となった。

「ううっ……これを見ると……小さな怖い鬼を思い出しますわ……」

最初のかくれんぼでは、偶然隠れたクローゼットの中で好きな人の服を見つけて、ちょっとだけ匂いを嗅いでしまった最悪なタイミングで見つかった。

酒樽に入って首と頭が出ている姿を小さな鬼に見つけられ、目が合ってじーっと見つめられた後、無言でどこかへ行ってしまった。好きな人を目の前に連れてきたと思ったら、いろいろな道具を彼に手渡して、自分の手を一切汚さずにいじめられる。その様子をただ、じーっと見ている。次はどんな道具を持ってきて、彼を操って何をさせるのか。あの小さな鬼と目が合ってから、ずっと恐怖を感じていた。


「それでマリーさんからの伝言なんだけどね。ベルナデッタ危機一髪は、飛び出したら勝ちだよって。まあそうだよね。身動きが取れないから困ってるんだし、飛び出せたらホッとするよね。自由になれるし」


「ううっ……わかりました。励ましていただいてありがとうございます……」

ベルは落ち込んでいた。


そして俺は、全員に配り終わったので、再びマリーさんの元を訪ねた。

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