第16話 ベルナデッタ危機一髪 2
アルトは数字を100まで数えた。
それでも声が聞こえない。制限時間、いっぱいなので強制的にスタート。
ベル、どうやら本気で隠れたみたいだな。
アルトが俺の近くにやってきた。
キョロキョロと周りを見渡して探している。
アルトの足がさっきは見えていたので、俺も同じように発見されやすいように柱のところから足が見えるようにわざと足を出してみる。
「あっ!!ヒカル、見つけたっ!!」
「見つかっちゃっ・・・た」
俺は柱から出てきた。
自分で言った瞬間にふと思い出したんだけど、昔、アニメでこんなシーンを見た事があるような気がする。すごく感動したっけ。あれは良いアニメだった。
でもあれは、確か柱じゃなくて木から出てくるんだったような。
「ヒカル、隠れるの下手くそー。足が見えてたよー」
「あー、そうなのか。でもアルトも足が見えてたんだぞー。だから俺、アルトを見つけられたんだ」
「えー、ほんとー!?」
「ああ、そうだよ。俺もアルトもまだまだ隠れる修行しないとな。でもアルトは、見つけるのうまいじゃないか。この調子でベルも見つけてくるんだ。頑張れよ」
「うん!」
さてと俺は、座って待ってるかな。
椅子に座って数分で、アルトが走ってきた。
「ヒカル」
「おっ?どうした?見つからないの?あきらめる?」
「ううん。お姉ちゃん、見つけた。ちょっと来て」
「うん?」
座ってる俺はアルトに手を引かれ、そのまま調理室の方に連れていかれた。
「・・・えっ?ベル、何やってるの?」
「ヒカル様・・・。ううっ・・・抜けられないのです・・・」
目の前には、樽の中に入り、首と顔だけが外に出たベルナデッタの姿があった。
「いやいやいやいや。ないない。それはないって」
「ほ、本当です!!あっ、あの・・・助けてください・・・」
「ええ?自分で入ったんだから出れるでしょ?冗談なんでしょ?」
「私も信じられなくて、さっきから・・・ショックで大きな声が出ないのです・・・」
本当に泣きそうな顔をしたベルナデッタを見て、冗談じゃないことを理解した。
「えっ・・・と、ほんとに?」
「助けて下さい・・・」
「動ける?」
「全く動けません」
「じゃあ引っ張るよ。いくよ」
ベルナデッタの首を掴んで引っ張るが、全く動かない。
何これ。ガッチガチにはまってる・・・。
動かす方向を変えてみる。
それでもだめ。
「うぉおおおおおおお!!!!」
もっと力を入れて引っ張ってみる。
「痛いっ!痛いっ!!痛いです!!首が取れてしまいます!優しくしてください!!」
「あああ・・・ごめん・・・。ええー・・・あー・・・どうしよう」
「ヒカルー、これー」
アルトが俺に、レインさんが料理で使う麺棒を手渡した。
「棒を隙間に入れて空間を作ってみるって事か。やってみるか」
ベルナデッタの首に麺棒が突き刺さる。
「痛いっ!!痛いっ!!首に当たってます!!」
「ああ・・・ごめん。んー・・・」
ぐるりと樽の周りを一周、見渡してからわずかな隙間を探す。
「ここだ・・・!!」
狭いわずかな隙間をピンポイントで突いたが入らない。
「まだだ!!」
ぐりぐりこねくり回して、強引に樽の中に麺棒をねじ込む。
少しずつ中に入っている。
「よし、いける!!もっとだ!!」
「ひゃん!!くっくすぐったいです!!ちょ、ちょっとヒカル様。そんなところ・・・触らないでください・・・やっ・・・ああっ・・・」
「角度、変わったかも。ベル、動ける?」
「動けません!!!!」
「だめか・・・。仕方ない。麺棒、抜くか」
麺棒を抜こうとする。
「あ、あれ・・・。と、取れない・・・。動かない・・・」
麺棒も樽の中に挟まったまま、動かなくなってしまった。
「まずいぞ・・・。麺棒を出さないと明日、レインさんが困ってしまう」
「わ、私より麺棒の心配ですか!?」
「ああ・・・いや・・・どっちもまずいぞ・・・」
「ヒカルー。これー」
アルトが俺に、レインさんが揚げたこ焼きを作る時に使ってる油のボトルを持ってきた。
「アルト!それは良いアイデアだ!!そうだ、油を使って滑りをよくすれば・・・」
「ううっ・・・お願いします・・・」
「じゃあ塗るよ」
油を少し手に取って、ベルナデッタの首と樽の間の辺りに塗り込む。
「ひっ・・・うっ・・・ヒカル様。くすぐったいです・・・」
「我慢して。ぐるりと全体を塗って・・・。よし、引っ張るぞ!うおおおおおお!」
大きな声を出して引っ張り出すが、全く動かない。
「油が足りないか。もっと量を増やさないと」
「こ、これ以上・・・!?ふ、増やすのですか!?」
油をさらにたくさん入れた。
「ひゃっ!!冷たいっ!!なっ・・・中に入ってきて・・・ふっ・・・あっ・・・ふぁ・・・!ふぇっ・・・。ヌ、ヌルヌルして・・・だめっ・・・ああっ・・・」
「ベル、変な声、出さないで・・・。真面目にやってるんだから」
「こ、こんなの初めてです・・・。し、仕方ないじゃないですか!!」
「よし、もう決めた。全部流し込むぞ!!こうなったら仕方ない。油は後で買ってくればいいんだ」
「油の心配ではなくて私の心配をしてください!!」
全ての油を注ぎこんだ。
「ベル?どう?下の方、濡れてきた?」
「ううっ・・・濡れてます・・・。恥ずかしいです・・・」
「もっと濡らしてやるからな」
「ふぇっ!?ええっ!?えっ!?あああああ」
ベルナデッタ、顔が真っ赤になる。
「だめだ・・・。俺、ドキドキしてきた・・・。今から俺がベルに何をしようとするのか知ったら・・・ベルは・・・俺の事、嫌いになるかもしれない・・・でも・・・」
「ヒカル様・・・。私、ヒカル様になら・・・そのっ・・・いいですっ・・・。どんな事でも受け入れます・・・」
ベルナデッタの顔が更に真っ赤になる。
「大丈夫。良いんだよ。初めてだし、分からないし。だから怖いんだよな?」
「あああ・・・・は、はい・・・。は、初めてです・・・」
「大丈夫。ちょっと荒いかもしれない。でも・・・ちゃんと優しくするから・・・」
「うううっ・・・あ、荒いって!?・・・ううっ・・・や、優しく・・・」
「うん。俺も初めての経験だから・・・その・・・うまくいくか自信がないけど・・・」
「はうっ・・・あう・・あうっ・・・あうぅ・・・・」
「俺を信じて」
「はい・・・」
ベルナデッタは、何か覚悟を決めたかのように目を閉じた。
「いくよ?」
ベルナデッタの耳元でそっとささやく。
「はい・・・」
俺は樽を手に持って傾けていった。
「あっ・・・えっ・・・ヒ、ヒカル様?ちょ、ちょっちょっと!!わあああ!!!」
ベルナデッタの入った樽をゆっくり横に倒した。
「まずは、全身に油を行きわたらせるんだ。上半身の濡れてない部分まで油を行きわたらせる」
そう言って横になった樽を転がしていく。
視界がぐるぐる回っていくベルナデッタ。
そのまま引っ張り出してみるが、全然動かない。
「だめか・・・」
「うっ・・・ううっ・・・ひどい。・・・ひどいですわ・・・。ううっ・・・」
「ああ、そっか。横向きより立てた方が楽だよね。戻すね。ごめんね」
「だからそうじゃなくてえ!!」
俺は樽を再び立てた。
「ヒカルー。これー」
アルトが俺に、レインさんが料理で使う計量スプーンを持ってきた。
そうだ、アルトもベルを助けようと必死でいろいろ考えてる。
アルトの気持ちも背負ってるんだ。
俺がなんとかしないと。
でも・・・これは・・・どう使うんだろう。
そうか!!わかった!!わかったぞ、アルト。
伝わったぞ。おまえは、優しい子だ。
「ベル・・・。疲れたか?」
「疲れました・・・」
「少し、休もう。休憩だ。これで水飲みな」
計量スプーンに一杯分の水をベルナデッタの口に入れてあげた。
「あの・・・」
「あっ、ああ。おかわりだね?ちょっと待ってね」
更に計量スプーンに一杯分の水を入れ、ベルナデッタの口に入れてあげた。
「あの・・・」
「ああ、これがアルトの優しさだよ。ほんと良い子だ」
「・・・・・・・えっ・・・ええ・・・」
何か言いたそうな顔をしていたベルナデッタだったが、何も言えなかった。
皆、疲れて消耗してぐったりしていると、店の入り口のドアを開く音が聞こえた。
「ただいまー。アルト、帰ったわよー」
「母さんだー!」
アルトは入り口の方に走っていった。
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