第15話 ベルナデッタ危機一髪 1
このメンバーがそろうというのは、なかなか珍しい事だろう。
今、店の1階にいるのは、俺、アルト、そしてベルナデッタの3人だけなのだ。
今日は店を臨時休業にしている。お客さんは誰もいない。静まり返っている。
マリオさんは、ボーリング場のレーンで調子が悪いところがあって、直すのになかなか大変な作業になりそうなので手伝ってほしいという依頼を受けて、一人でボーリング場へ向かった。ケインとマリーさんは、マリーさんの実家であるモルフォード家に関係が深い友人貴族の結婚式に出席している。レインさんとアリスは、その貴族の要望で結婚式の料理に揚げたこ焼きを初めとした珍しい料理を出したいので、その料理人として来てもらえないだろうかと依頼を受けて、ケイン達と同じ結婚式に行った。
俺は、アルトと二人で留守番だ。久しぶりに二人でオセロでもして遊ぶか。次はアルトに勝つぞなんて話していた。
ところが当日になり、予想外な事が起きた。ケインが、ベルも暇してるから今日一日一緒に過ごしてやってくれと、ベルナデッタを連れてきたのだ。
俺は、ベルナデッタもケイン達と結婚式に行くとばかり思っていた。
静まり返った店の椅子に三人で座っていた。
「ベルナデ……あっ……。ベ、ベルは、結婚式に出なくていいの?」
ケインの結婚式が終わった夜。ベルナデッタと二人きりになった時に、ベルナデッタさんと呼ばずにベルと呼ぶ事。敬語をやめるように言われた時の事を思い出して訂正した。そういえばあれから会ってなかったから実際に言うのは、これが初めてだ。
ベルナデッタの頭を俺の肩に預けられた事、頭を撫でてと言われて撫でた事、抱きつかれた事、やっと匂いを嗅げたと言われた事、ベッドへ連れて行ってと言われた事、好きですと言われた時の事を後から一気に畳みかけるように思い出して、物凄く恥ずかしくなった。
やばい。心臓の音が早くなってる。
いや、でもあれはキル酒を飲み過ぎて酔ってしまった事なのだから気のせいだ。
後からそんな考えがよぎったが、それはそれでまた恥ずかしくなった。
「お、お兄様とマ、マリー様にとっては、お友達の方ですけど、私とは関わりのない方ですので……。お兄様が出席するなら何も問題ないですわ」
ベルナデッタも顔が赤くなっているが、敬語を使わなくても怒られなかった。
いつもどおりだった。
「そ、そ、そうなんだね……。そ、そっか……」
「は、はい……」
「………………」
「…………………………」
二人で真っ赤になって下を向いていて沈黙が続いた。
「ねぇ、ヒカル。何かして遊ぼうよー」
アルトが俺の服を引っ張りながら言う。
「あっ……ああ……そ、そうだな。……よし!!遊ぶか」
「うん!」
アルトのおかげで、沈黙して何を話せばいいのか分からない状態を脱する事ができた。
「オセロ、やるか?」
「違うのがいい」
「えっ?違うのがいい?オセロをするって約束してたのに。じゃあトランプ?」
「んー、他のがいい。お姉ちゃんと三人で遊べる新しいの」
と言って、アルトがベルナデッタの方を見る。
「ああ、そうだなー。んー……三人で遊べて新しいやつか……」
俺は考えた。
まあこの三人で遊ぶなんて事、なかなかないからな。
どうせだったら何か特別な事をしたいな。
今日は店も閉まってるし、お客さんも誰もいない。
「そうだ!!じゃあかくれんぼだ。かくれんぼしよう。絶対面白いぞ」
「かくれんぼ……?それは何ですか……?」
「それなあに?」
「まず最初に、一人鬼を決めるんだ」
「鬼?鬼とは何ですか?」
「えっと……どう説明すればいいかな……。んー、悪魔とか?魔物とか?怪物とか?えー、まあ……この世の者とは思えない、物凄く怖い存在だよ」
「えっ……」
ベルナデッタが言葉を失う。顔が青ざめている。
「そんな怖い存在の鬼が、自分を探し回ってたらどうする?」
「嫌です!逃げます!隠れます!」
「そう。隠れるんだ。鬼に見つからないように隠れる。それがかくれんぼ。今日家の中、2階も1階の店もどこでも全部使える。俺たち以外、誰もいない。どうかな?」
「かくれんぼ、やるー!かくれんぼがいいー!」
「ベルはそれでいい?」
「わ、わかりました」
「よし、じゃあルールを教えるよ。まずはじゃんけんして負けた人が鬼ね」
「じゃんけん?」
「ああ、そっか。じゃんけんから説明だよね。えーと、これがグー、チョキ、パー。じゃんけんぽんの合図でどれかを出して、グーはチョキに、チョキはパーに、パーはグーに勝つ。同じのはあいこだからもう一回。これで平等に決めるよ」
「わかったー」
「じゃあいくよー。せーのー!じゃんけんぽん!」
俺はグーを出した。ベルナデッタとアルトがパーを出した。
「あ、じゃあ俺が鬼ね。俺がここでこうやって壁に向かって目を閉じて、声に出して10まで数える。数え終わったら、もーいいーかーい?って聞く。それで二人は、隠れたらもーいいーよー。まだ隠れてなかったら、まーだだよーって大きく声に出す。鬼の人にもちゃんとヒントを出さなきゃだめ。それが決まり事。鬼の俺が降参するまで隠れられたら二人の勝ち。俺が二人とも見つけたら隠れた二人の負け。100まで数えたら時間切れ。もーいいーかーいって聞かずに探すからね。わかった?」
「わかったー」
「わかりました」
「じゃあいくよー。よーい、スタート!いーち、にー、さーん」
二人の足音が聞こえる。
ドタドタドタドタ……。ふむふむ。一人は1階だな。
ドタドタドタドタ……。階段を上がったな。もう一人は2階か。
「もーいいかーい?」
「まーだだよー」
「まーだだよー」
18、19、20と大きな声で数える。
「もーいいかーい?」
「もーいいよー」
「もーいいよー」
さてさて……。
見つけるのは、アルトの方が難しいだろうな。
小さいからな。
「アルト、ここだろー!!うわあああ!!!!……んー、違うか」
調理台の下ところに、小さな足が見えた。
おっ……。いたいた。アルトの足が見えてる。
「うわぁああああ!!!」
「わあああああああ!!!!」
「見つけたぞ、アルトー!!」
「見つかったー」
次はベルか……。ベルは2階だな。
ビックリさせるために足音を立てずに、ゆっくり階段を上っていく。
なるべく足音を立てないように2階を探し回る。
風呂場にはいない。脱衣所のところを探し回ったけどいない。
マリオさんとレインさんとアルトの寝室は、ちょっと気が引けるので辞めた。
とりあえず先に俺とアリスが寝てる部屋を探すか。
ゆっくりとドアを開ける。目で部屋全体を見渡してみる。
ドンッ!と、クローゼットから音が聞こえた。
ふふふっ……見つけたぞ……。
気配を消してクローゼットの前にそっと立ち、一気に扉を開ける。
「うわあああああああああ!!!!!!」
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
ベルの悲鳴が響き渡る。
手には俺の服を持っていて、鼻に近づけ匂いを嗅ごうとしているベルの姿があった。
「ち、ちち、違うんです。こ、こ、これは・・・服の匂いを嗅ごうとしたのではなく……偶然入ったここで見つけて……うううううっ……」
顔が真っ赤になっているベル。
「ベル、見つけた」
「ち、ちが……うううっ……」
さらに顔が真っ赤になっているベル。
「二人とも見つけたから、また鬼を決めてやり直そうか」
「は、はい……」
「うん!」
じゃんけんの結果、今度はアルトが鬼になった。
「僕が鬼ー!」
「かわいい鬼だなー。見つからないようにしないとな」
アルトは、壁のところで目を隠して数字を数えだした。
俺は分かりやすく、アルトが見つけやすくするためにわざと1階の柱の裏側に隠れた。
ぐるっと一周されればすぐバレる。
「もーいいーかーい?」
アルトの声が聞こえてくる。
「もういいよー」
俺は言った。
「………………」
ベルは反応がない。
「もーいいーかーい?」
「………………」
やはり、ベルは反応がない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます