第36話 闇の魔女 2

写真に写っていたその獣は、かつて大雨の日、アリスが拾った茶色い子犬の顔にそっくりだった。アリスは、子犬にニコと名前を付けて可愛がって育てた。そしてアリスは、母犬に出会ったニコとお別れの挨拶をした。その後、ニコと母犬は、どこかへ走り去っていった。


「この首輪、アリスがニコに付けてやった赤い首輪じゃないのか……?」

「はい……。間違いないです」

「前よりかなり大きくなっているな」

「そう……ですね……」


ニコの事も気になる。でも……

それに……。

俺は、闇の魔女の顔を見て動揺している。

まさか……そんな……。

でもこれは……。

あまりにも似すぎている。

そんなはずない。そんなはず……。

いや、でも……もしかしたら……。

可能性はある。

だって……人工ノイズだっていたんだから……。


「……俺、森の奥に行きます」

「師匠、私も行きます!!私もこの写真の子がニコなのかどうか確かめないと……」

「ダメだ!!危険すぎる!!武装した騎士団でも怪我をして帰ってきたんだぞ」


ロイさんが俺とアリスを止めようとする。


「大丈夫です。私、色々なところを旅して危険には慣れてるんです。それに私、そこらの騎士団の人なんかより強いですから。師匠は、私が守ります。それに師匠は、獣使いの術を持っていますから、闇の魔女の獣も逆に操ってくれるかもしれないです」

「いや、しかしだな……。アリスの嬢ちゃんがいくら強くてもだな。相手は闇の魔女だ。話を聞くような奴じゃない。容赦なく攻撃してくるんだぞ。俺も本当に危なかったんだぞ」


写真家の男が言う。


「……俺、闇の魔女を知っているかもしれません」

「なんだって!?」

「俺の知っている人かどうか、どうしてもこの目で直接確かめたいんです。俺は行きます。いや、行かなくちゃダメなんです。アリス、一緒に森の奥に行って確かめよう」

「……ったく、わかったよ。じゃああれだ。せめて手の空いている騎士団のチームと一緒に行ってくれ。アリスの嬢ちゃんとヒカルの兄ちゃんだけじゃ、やっぱり心配だしよ。俺は撮った写真を騎士団に渡さなくちゃならない。だからその時に一緒に頼んでみようぜ」

「わかりました。ではそうしましょう」


そして騎士団本部に着き、事情を話した。

騎士団は手の空いた3人を護衛につけてくれると言った。


「初めまして。コルクです」

「メルです」

「ギルティーです」

「ほう。こいつは心強い。ルー3兄弟が護衛についてくれるとは」


写真家の男は、感心していた。


「ルー3兄弟……?」

「ルー3兄弟ってのは、騎士団の中でも腕が経つって評判の若き3人のチームさ。剣士のコルク。槍使いのメル。弓の名手で遠距離の後衛、ギルティ―さ。皆、名前の2番目にルがついてるからルー3兄弟って呼ばれてるんだ」

「へぇ、そうなんですか」

「今、丁度、任務が終わったところで手が空いてた所ですよ。護衛させて頂きます」

「よろしくお願いします」


こうして俺とアリスは、騎士団のルー3兄弟を引き連れて、森へと向かった。


「……ここが俺が倒れていた森か」

「森の入り口付近であるこの辺は、まだ大丈夫そうですね。師匠、もっと奥に進みましょう」


森の湿った土を踏みしめながら、俺達は森の奥へと進んでいった。


「メル、どう?そろそろ闇の魔女の縄張りに入ったところだけど、魔力は感じる?」

「ううん、ダメね。何も感じないわ」


ワォーーーン!!

獣の遠吠えが聞こえてきた。


「皆、警戒して」


コルクさんが剣を抜いて、ルーさんが詠唱の準備、ギルティ―さんも弓を構える。

そして大量の狼が目の前に現れた。


「くそっ!!こんなに沢山!!囲まれたぞ!!」

「これはまずいな」


そして正面に赤い首輪をした大きくて茶色い犬が出てきた。


「ニコ?ニコなの!?ねぇ、私だよ!!アリスだよ!!」


ワンワンワン!!ウーーーー!!


「アリス。ダメだ。これ以上近づくな!!」

「この子はニコです!!師匠!!私には分かります!!この子はニコですよ!!」


「この森から出て行け!!」

奥の茂みから女の声が聞こえた。


やっぱり……!!この声は……!!

そして女は姿を現した。


「でた!!闇の魔女だ!!」

「……闇の魔女。やっぱりお前なのか?……リコ」

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