第35話 闇の魔女 1

「おい、また出たらしいぞ」

「えっ!?また!?」

「今度は騎士団の奴がやられて大怪我したらしい」

「怖いわね……。街まで来なければいいけど……」


近頃、レインさんの店を手伝っている時に客達の間から物騒な話が聞こえてくる。


「闇の魔女、また出たんですか?」


俺は料理をお客さんのテーブルに置いて、その話を聞く。


「ああ。そうらしい。依頼された騎士団のチームが森の奥まで調査に行ったみたいだが、闇の魔女が操る動物達に襲われて大怪我して逃げてきたらしい。武装した騎士団でも大怪我するだなんて」

「闇の魔女……。一体何者なんですか?」

「分からない。闇の魔女は、森の奥に入り込もうとする人間を、動物を操って襲わせているみたいなんだ。今となっては、森の奥は闇の魔女の縄張りさ」

「森の奥……」


森っていえば、俺が最初この世界に倒れていたという場所だ。

マリオさんが言うには、俺は森に入ってすぐのところで倒れていたらしい。

マリオさんも木材など物作りの材料を取りに行く時は、森の深いところまでは入った事がないらしい。森の奥は獣もいて危険だし、木が生い茂っていて迷ってしまうと厄介だからだそうだ。

今回の事件の始まりは、こうだ。森の奥まで狩猟に行った男が、森で獣達に襲われた。その獣達を束ねていたのが闇の魔女で、怪我をして命からがら逃げる男に闇の魔女は「二度とこの森に近づくな」と言ったらしい。そして闇の魔女の調査に向かった騎士団のチームも獣達に襲われてしまったという事だった。


「うーむ……。闇の魔女、奴をなんとかしないと森の奥へ行けない。このままでは森の奥にある薬の材料となる植物を採取する事もできない。薬が作れないと病人達が困ってしまう」


隣のテーブルにいたのは、常連客で酒好きなロイだった。仕事が休みの日には、昼間から酒を飲みにレインさんの店にやって来る。ボーリング大会で俺が獲得した景品の酒とお菓子の詰め合わせを交換してくれた人だ。


「ロイさんは、薬師でしたよね。森の奥には、よく薬に使う植物を捕りに行くんですよね?」

「ああ。幸いまだ薬のストックはあるが、闇の魔女の騒動のせいで植物を採取しにいけない。薬がなくなるのも時間の問題だ」

「そんな……。それはまずいですね。早く何とかしないと――」


「おい!!ロイはいるか!?」

店の入り口のドアが開いたと思ったら、大きな声でロイさんを呼ぶ声が聞こえた。


「ロイ、大変だ。また怪我人だ。闇の魔女にやられた。大至急、薬を頼む」

「ふぅ、やれやれ参ったね。今日は休みの日だっていうのに落ち着いて酒も飲めやしねぇ……。怪我人はどこだ?」

「店の外に連れてきている」

「わかった」


俺達も店の外に出てみると、傷だらけの男がいた。


「くそう……。あの獣、なんて狂暴なんだ。前は、森の奥にあんな狂暴な獣はいなかったはずだ」

「一体どんな獣だったんだ?」

「ああ。俺はプロの写真家だぞ。騎士団から依頼を受けた闇の魔女と獣の写真は、ばっちり撮ったさ。やられる前にせめて一枚と思って必死になって撮った命がけの一枚だ。ほら見ろ!」


ロイさんと一緒に、俺も写真を覗き込んだ。

そこに映っていたのは、見覚えのある犬と少女が映った写真だった。


「えっ……。まさか……!!嘘……だろ……!!そんな……!!」


俺は、急いでアリスを呼びにいって写真を見せた。


「……嘘っ!?嘘だ!!……ニコ……なの……?」

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