第34話 劇団エルフォード 4

劇団エルフォードの公演の最終日が終わり、人工ノイズ達を使用人に頼んで迎えに行ってもらった。人工ノイズが俺の屋敷に到着したのは、夕方頃の事だった。


「こんにちは」

「こんにちは。公演お疲れさまでした。疲れてるところすみません。どうぞ入ってください」

「す、凄い豪邸に住んでるんですね、坂城さん」

「ええ……まあ……なんか……色々あって……」


ソファに座ってもらい、早速、話をする。


「あの……それで、人工ノイズの皆さんの今の状況は……?」

「そうだね。僕達は地球最後の日の最後の瞬間までライブをする事に決めたんだ。それで――」


ボーカルのヤマさんが語ってくれたのは、人工ノイズの地球での最後の生き様だった。


「えー、皆。もうすぐ地球に隕石が落ちてきます。僕達は、まだ現実をとても受け入れられません。冗談だったらいいのに。何かの間違いだったらいいのに。今も心の中でそう思いました。もしこれが本当に間違いだったら……その時は、また皆で集まって大笑いしましょう。辛い、苦しい、怖い、悔しい。皆、今色んな事考えてると思う。家族の事、恋人の事、友達の事、ペットの犬、それから猫派の人もいるよね。僕達も最後の時を誰とどう過ごすか、メンバー全員で真剣に話し合いました。その結果、一つの答えが出ました。僕達は雑音を音楽にする為の旅に出ました。今、その旅の途中です。僕達は最後の瞬間まで音楽を愛し、ここまで支えてくれた皆の為に歌う事に決めました。これはメンバー全員共通の意思です。音楽を皆に届けてる最中に死んでも、人工ノイズに後悔の文字はありません。皆はどうですか?僕達の音楽を聴きながら、僕達と一緒に最後まで楽しんでくれますか?皆、大好きだ。ありがとう。ここからは、ノンストップで一気に歌います。皆、僕達に付いてこい!いくぞ!!」


それで最後のライブがスタートした。大阪でのライブの途中、隕石は落ちてきた。

そして屋根の下敷きになって死んだ。


「でも気が付いたら、次に目を開けたら、皆が楽器持ったまま、広い荒地の真ん中にいたんだ。メンバー全員、何が起こったのかさっぱり分からなかったよ」

「お互いに怪我がない事を確認して、混乱して途方に暮れていたら大きな車が通りかかって日本語で僕達に話しかけてきた」

「何してるんだ?って聞かれて、ライブしてたって言ったら、こんな誰もいない所でか?それに随分変わった楽器持ってるなって言われたんだ」

「はい」

「それで、ちょっと一曲披露してくれないか?って言われたから、とりあえずその場で、幸運を披露したんだ」

「ああ、ファン達への感謝の気持ち。今の自分達は幸運のおかげで生きてるって気持ちを歌った名曲ですね。出会えた事は幸運って歌詞のやつですね」

「そしたら凄い感動してもらえてさ。で、自分達は旅芸人で世界中回ってる劇団エルフォードって言うんだって自己紹介してくれたんだ。そこから俺達も似たような感じだったっ意気投合しちゃってさ」

「はい」

「ここもどこか分からないしって言ったら、じゃあ一緒に世界中回ろうって話になってさー。今までずーっと旅してたわけ。ほんと出会えたことは幸運なんだなって話。ははははは」

「なるほど……。それで劇団エルフォードに……」

「坂城さんは、僕達の原宿のライブに来てくれてたって事は、それなりに僕達のファンだったんですか?」

「あの……俺、たこ焼きです」

「ええっ!?たこ焼きさん!?」

「うそぉ!?ほんとに!?ガチ勢じゃん!」

「うぉおおおおお!!!たこ焼きさーん!!!!」


俺は、人工ノイズのメンバー達とハグし合った。


コンコンコン……。

「ヒカル様。紅茶をお持ちしましたわ。…‥‥って、えっと。何を……していらっしゃいますの……?……あ、あの……で、では……ごゆっくり」


その瞬間をベルに見られた。


「ねぇねぇ。たこ焼きさん。今の人、物凄い可愛い子だね。モデルみたい」

「ああ、ベルですか?俺の嫁です」

「ええー!?あの人、たこ焼きさんの嫁!?あの人と結婚したのー!?」

「すげぇえーー!!あんな美人と!!」

「たこ焼きさん。い、一体どうやって口説いたの!?やるなぁーー!!うらやましい!」

「それにこんな凄い家まで持っててさ。たこ焼きさん、一体何者!?」

「いやー……その、俺はですね。ゲームのやり方を教えたり、たこ焼きの作り方を教えたりしてたら、いつの間にか気づいたらこうなってました……」

「何それ!?ヤバくない!?」

「それよりもさ、たこ焼きさん。真面目な話なんだけど、僕達は色々な場所を旅してきた。でも地球の人には、誰にも会えなかった。だからもう僕達以外の地球人はいないと思っていた。でも今、こうして、たこ焼きさんに会えている。だからもしかしたら、これから先も地球の人とどこかで出会えるかもしれない」

「確かにそうですね……」

「それに僕達は、大阪でのライブ中に一緒に死んで、一緒の場所にいた。つまり地球で最後に死んだ場所が近い人は、似たような場所にワープ?転生っていうのかな。される可能性があると思うんだ。あくまでひとつの可能性だけどね」

「なるほど。それでノイズの皆さんは、これからどうするつもりなんですか?」

「僕達は劇団エルフォードで旅を続けながら、今までと同じように地球の人を探すよ」

「分かりました。俺のこの屋敷の住所を教えておきますので、もし何かあったら手紙を出して知らせてください」

「そうだね。そうさせてもらうよ。ありがとう、たこ焼きさん。話せてよかった」

「俺もです。地球の人に会えて本当に嬉しいです」


人工ノイズのメンバー達と握手して別れた。


俺以外にも地球の人がいる……。

その事実に俺は、衝撃を受けた。



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