第33話 劇団エルフォード 3
舞台の上には、ベース、ドラム、キーボードがある。
それぞれの楽器の前に立った3人の男。
そしてギターを持ち、マイクの前に立つ男がひとり。
4人組の男達だった。
「ボルフェルの皆さん、初めまして。人工ノイズです!ギターボーカルのヤマです!」
「ベースのウミです!」
「ドラム、イワです!」
「キーボードのリクです!」
「僕達は、とても遠い遠い国からやってきました。そして今、僕達は劇団エルフォードで音楽を担当して世界中を回りながら旅をしています。今日は皆さんに異国の音楽を聴いてもらいたいと思います。よろしくお願いします。それじゃ1曲目。聞いてください。再会」
そして演奏が始まった。
それは地球でいた時、自分の部屋でよく聴いていた聞き覚えのある曲のイントロだった。歌い始めたヤマの声も歌詞も、俺が好きなあの人口ノイズで間違いない。
「この曲、再会だ!!やっぱり!!ノイズだ!!ノイズがステージにいる!!」
「ヒ、ヒカル様。どうしましたの?あの人達を知っていますの?」
「知ってるよ!!俺、大ファンなんだ!!」
なんで……!?どうして!?
俺以外にも生きている地球の人がいた……!!
「おお!なんかすごくノリが良いぞ!!」
「見たことない楽器ばかり!!凄いわ!!」
「聴いててテンション上がってきた!!」
「歌詞も凄く良いわ!!」
会場は盛り上がってきた。俺も久しぶりに聴く再会に感動して、何も言葉が出てこない。ただただ聴き入っていた。
そして曲が終わり、次の曲の演奏が始まる。数曲が終わり……
「最後の曲は、劇団エルフォードのテーマ曲として新しく書き下ろしました。エルフォードです。聞いてください」
アップテンポでポップな曲調の音楽が流れ、ヤマが歌い上げる。
まさかこんな形で新曲を聴けるなんて思ってもみなかった。
俺は、ただただ感動した。
「初めて見る楽器ばかりですわ。こんなにも明るくて楽しい音楽が聴けるなんて思ってもみませんでしたわ」
ベルもとても気に入っている様子だった。
「皆さん、楽しんでもらえましたかー!」
ヤマが聞き耳を立てる仕草をする。
会場からは、わーー!!という歓声が聞こえてきた。
「聴いてくれてありがとうございました!また次の公演もよろしくお願いします!」
ヤマが挨拶をする。
こうして突然の人口ノイズによるライブも終わり、最初から最後まで劇団エルフォードのパフォーマンスに圧倒されてしまった。
「ベル。劇団エルフォードの人達に直接会うことはできる?」
「ええ。大丈夫ですわ。グレンヴィル家の名前を出したら特別に会ってくれると思いますわ」
「わかった。ありがとう。俺、ちょっと行ってくる!」
「お、お待ちください。私も一緒に行きますわ」
他の地球の人達はいるの?皆、生きてるの?
聞きたい事がいっぱいありすぎて、頭の中の整理が追いつかなかった。
でもとにかく、まずは、人工ノイズに会いたい。
この世界で初めて地球の人に出会えたんだから!!
会って直接話がしたい。
俺達は、急いで劇団エルフォードの人達に直接会いに行った。
劇団エルフォードの車の前にスタッフがいて止められた。
「あの……ここは関係者以外、立ち入り禁止ですので」
「こんにちは。俺は、サカキヒカル・グレンヴィルと言います。どうしても人口ノイズの人達と直接話したくてきたんです。会わせてください!お願いします!」
「ベルナデッタ・グレンヴィルです。シルバに会わせてもらえませんか?」
「ベルナデッタ様!?し、失礼しました。シルバさんに確認してきますので、ちょっと待っていてください」
「わかりました」
それから少しすると、舞台の上で最初に挨拶をしていた団長のシルバさんがきた。
「おお、これはこれはベルナデッタ様。お久しぶりです。また一段と美しくなられましたね」
「久しぶりですね。シルバ。演劇も音楽もとても良かったですわ」
「見に来ていらしてくれたんですね。ありがとうございます」
「実は、私の旦那のヒカルが先ほどの人口ノイズの人達に会いたいそうなんですが、会わせてもらえませんか?」
「ええ。ベルナデッタ様のお頼みであれば。あの、どうして彼らに?」
「えっ……ああ、えーと……ちょっとその……知り合いというか……なんというか、そんなところです。どうしても会って話したいんです」
「分かりました。今は、次の公演の準備などをしているので、ばたばたとしていると思いますが、それでもよろしければ……」
「はい。よろしくお願いします」
「では、こちらへ」
俺とベルは、中に案内された。
「おーい、ノイズの皆。ちょっと来てくれ。この人が話があるんだとよ」
「はーい!」
人工ノイズのメンバー4人が、俺の前にやってきた。
俺はベルに少し席を外して欲しいと言い、一旦、シルバさんと外してもらった。
「ヤマさんにウミさん。イワさんにリクですよね!!」
「おお!?まさか追っかけか!?僕達の事知ってる?おいおい、ちょっとこっちでも有名になってきたんじゃない?」
「俺、原宿のライブに行きました」
「えっ!?原宿!?まさか地球の人!?」
「そうです!!」
「おおおお!!!!」
「俺達以外にも地球の人が!!」
人工ノイズのメンバー達も原宿という単語に反応し、興奮した様子だった。
「ノイズの皆さん!!教えて下さい!他に地球の人達は生きてるんですか!?」
「いや、僕達も色々な場所を巡りましたが、あなたが初めてこの世界で会えた地球の人ですよ」
「そう……ですか……」
「えっと、すみません。あなたの名前は?」
「俺は、坂城光と言います。でもこっちでなんか色々あって結婚して、今はサカキヒカル・グレンヴィルという名前です」
「ええ!?その若さで結婚!?高校生くらいじゃない?」
「そうです。高校生です」
「でもこっちの世界じゃ、たしか成人なんだよね」
「みたいですね」
「おーい、ノイズの皆。こっちの片付け手伝ってくれ。次の公演に間に合わなくなるぞ。急ごう」
「はーい!すみません。公演の準備でバタバタしてるもんで」
「ごめんなさい。忙しいところを……。あの……最終日の公演が終わってから、少し時間取れませんか?俺の屋敷でもう少し、詳しく話をしたいんですが」
「そうだね。僕達も坂城さんと色々話したい。この状況を確認したいからね。お互い知っている事を話して共有したい」
「では、最終日の公演が終わったら、迎えに行ってもらうように手配しておきますので、また……」
「はい。また」
人工ノイズのメンバーは、そう言うと急いで次の公演の準備作業に戻っていった。
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