第32話 劇団エルフォード 2
ボルフェルの町に劇団エルフォードがやってきた。
劇団エルフォードは、3日間滞在して午前と午後の2回、合計6回の公演を行うらしい。町までは、荷物を積んだ数台の大型の車で移動してくる。車には、劇団エルフォードと大きく文字が書いてある。
俺とベルは、この日を楽しみに待っていた。ベルによれば劇団エルフォードがボルフェルにやってくるのは、5年ぶりらしい。大衆娯楽と言われているだけあって、町中どこでも劇団エルフォードの話題で持ち切りだった。今回、劇団エルフォードの演劇が披露される場所は、ボーリング場だった。確かにあそこなら大人数の観客を入れる事ができる。ちなみに、チケットは特に買う必要はないようだ。演劇が終了する時に自由に好きな金額を箱の中に入れていくシステムらしい。それはベルから聞いた。ベルも昔、見た事があるらしい。俺とベルは、真ん中の見やすい位置の席を確保する事ができた。
舞台の幕が開ける。
「ボルフェルの皆様。こんにちは。劇団エルフォード、団長のシルバです。このボルフェルに来るのは、5年ぶりになります。初めての方は初めまして。またお会いできた皆様は、お久しぶりです。皆様にお会いできて我々は、大変うれしいです。3日間ではございますが、我々のショーをどうか楽しんでいってください」
「待ってたぞー!」
「今回も期待してるわー!」
観客達から拍手が送られた。
「これは、平民と貴族。身分違いの男女の物語」
ナレーションが入った。
「ヒカル様。この流れ、完全に私達の話ですわ」
ベルが小声で言った。
「た、たしかに……。マジで俺達の馴れ初めを演劇にしたのか」
俺も小声で返した。
ある料理店で働く平民の男がいた。
その夜、男は仕事が終わって家に帰っている途中、足を抑えて座っている女を見つけた。
「そこの女、どうしたんだ?こんな時間に。ん?足を怪我したのか?」
「はい……。歩いていて転んでしまいました」
「家はどこだ?」
「家には帰りたくないのです」
「……何か事情があるようだな。とりあえず俺の家に来い。傷の手当てをしてやろう」
「ありがとうございます」
女は男に背負われ、男の家へと連れてこられた。
そして足に包帯を巻きつけ、傷の手当てをされた。
「これでよし」
「本当にありがとうございます」
ぐーっぎゅるる。女の腹が鳴った。
「腹が減ったのか?よし、待ってろ。飯を作ってやる」
「すみません」
料理店で働く男の作る飯は、とても美味かった。
女は飯を食べ終わり……
「ありがとうございます。助けて頂いたうえにご飯まで頂いてしまって」
「いいさ。家には帰りたくない事情があるんだろう?足もまだ動かさない方がいい。今日は泊まっていくか?」
「見知らぬ私を泊めてくださるですか?いいんですか?」
「かまわないよ。俺も一人暮らしだからな。誰も文句言わないさ」
こうして女は、男の家に泊めてもらう事になった。
次の日。女の足の具合は回復して歩き回れるようになった。
「よかったな。回復して」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか……」
「あんた家に帰りたくないんだろ?」
「はい」
「詳しい事情は分からないが、もしあんたさえ良ければ、しばらく俺の家にいてもかまわない。どうせ仕事から帰ってきても一人なんだ。一人暮らしってのは結構寂しいもんさ。だからさ、誰かいてくれるとなんだか嬉しいんだ」
「わかりました」
こうして男と女は、一緒に暮らすようになった。
それからしばらく経ったある日の事だった。
男の元に訪ねてきたのは、見るからに金持ちそうな身なりをした男だった。
「ここに女が来てるよな?あいつは俺の婚約者だ。早く出せ」
「そんな女はいない。帰れ」
男をなんとか追い返した。
そしてそのことを女に言うと……
「ついに来てしまったんですね……。あの……お話しなければならないことがあります。私は貴族なのです。好きでもない相手と結婚させられるのが嫌で逃げてきました。私、あなたと一緒に過ごしているうちに、あなたの優しさに救われました。あなたの事が好きになりました。貴族としての地位を捨てて、私、平民として、あなたと共に生きていきたいのです」
「そんな!!あんた貴族だったのか!!あんたは貴族である事を捨ててまで、俺と一緒になりたいってのかい?」
「はい」
「……わかった。ならふたりで遠いところまで逃げよう。遠いところまで逃げて二人で暮らそう」
「はい」
こうして二人は逃げた。しかし貴族の男は、追ってきた。
男と女は、崖に追い詰められた。
もうだめだ。そう思ったその時、黄色いレインの花が光り出した。
レインの花から花の妖精が現れた。
「逃げなさい。あなた方しか通れない魔法の道を作りました。この崖下に向かって勇気を出して飛び込みなさい」
男と女は崖下に向かって飛び降りた。すると見えない地面に足が当たった。
本当に道がある。男と女は、空を歩いた。
そうして貴族の男から逃げ切った。
貴族から逃げ切った男と女は、遠い地でふたり仲良く末永く幸せに過ごしました。
めでたしめでたし。
パチパチパチパチ!!観客達から拍手が鳴り響いた。
「ヒカル様。私達ってほんの少し、設定に使われた程度でしたわね」
「そ、そうだね……」
なんかレインの花の妖精とか超展開きたし……。
「えー、皆様。演劇の方は、いかがでしたか?演劇の後は、新しい出し物です。歌と演奏で奏でる音楽を是非、お楽しみください」
「次は音楽みたいですわ。前に見た時には、音楽の出し物なんてなかったですわ」
「常に新しい事に挑戦してるんだろうね。どんな音楽なんだろう。楽しみだ」
舞台が真っ暗になって準備が行われる。そしてついに舞台にライトが照らされる。
それは突然、現れた。
「えええええええ!?!?嘘ぉーーーー!?」
俺は舞台を見て絶叫した。
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