第3話 たこ焼きを教えてしまいました
最初はオセロという未だかつて一度も聞いたことがないものに興味を持った人が店を訪れていたが、飯も美味い事で店は評判になっていった。小さな無敵のオセロチャンピオンとしてアルトもすっかり店の人気者になり、看板息子として、しっかり母の店に貢献していた。
「うーん……。どんなのがいいかしらね……」
レインさんが何やら悩んでいる様子だった。
「どうしたんですか?」
「店には多くのお客さんが来てくれるようになったんだけど、オセロをしながら軽く食べられるメニューを出そうかと思って考えてたの。何か良いのあるかしら……?」
「軽食……。たこ焼きとか……?」
「たこ焼き?」
「薄力粉に水と卵、それから魚と昆布を合わせて作ったさっぱりした味わいの出汁を混ぜて、たこ焼きプレートを使って焼くんです」
「たこ焼きプレート?」
「あー……。えーと紙とペンは、ありますか?」
俺は紙にたこ焼きプレートの絵を描いた。
絵を描くのは苦手じゃない。同級生らと比べたら、わりとうまい方の部類に入ると思う。
まあ画家のようなうまさではないけど、好きなものなら大体描ける。
「こんな感じの鉄板ですね」
「小さな窪みがある鉄板を使うのね」
「どうした?」
マリオさんが話しかけてきた。
「ヒカルさんにオセロをしながら食べられる軽食のアイデアがないか聞いてたんだけど、こういう鉄板の道具が必要なの。マリオ、あなたこういうの作れるかしら?」
「わかった。ちょっと作ってみよう」
次の日。
俺はマリオさんに呼ばれた。
「おまえさんが絵に描いた……。えーと、たこ焼きプレートってのは、こんな感じでいいのかい?」
まさに俺が絵に描いた通りのたこ焼きプレートがあった。
これなら、たこ焼きを焼ける。
「そんな感じです!マリオさんはすごいなー。オセロといい、たこ焼きプレートも作れるんだもん」
「後は、作れるかどうかはレイン次第だな」
レインさんにたこ焼きプレートを渡した。
「レインさん。俺が準備してほしいって言った材料、そろえてくれましたか?」
「準備できてるよ。ここからどうすればいいの?」
「材料を混ぜて粉を作って焼くだけです」
「それだけ?」
「はい。まずはプレートを十分温めます」
「うん」
「で、この粉を穴の中に入れていきます。次に好きな具材を入れて、焼けてきたら固まるので、くるりっとひっくり返します」
「面白いわね。なんだかオセロみたいね」
「それで丸い形を作ったら……。これで完成です」
「随分かわいいわね。確かにこれなら小さくて食べやすそう」
「後はレインさんの味付け次第でいろいろアレンジできますね」
「こんな変わった料理があったなんて知らなかったわ。ちょっといろいろ試してみるわ」
しばらく経ったある日、俺とアルトとマリオさんは、レインさんに呼ばれた。
「ヒカルさんに教えてもらった、たこ焼き。いろいろ試して作ってみたんだけど、これはどうかしら。食べてみてくれない?」
「これがたこ焼きか。小さくて丸いな」
「良い匂い!」
「良い感じじゃないですか。早速頂きます」
これは、かなりたこ焼きに近い。かなり出汁にこだわったんだな。
美味しい。でもやっぱり中には、たこは入ってないけどね。
俺は地球で最後に家族と食べたたこ焼きの事を思い出して、泣いてしまった。
「ど、どうしたの!?ヒカルさん?そんなにまずかった?」
「いえ……。違うんです……。凄くおいしいです。とても優しい味で……。昔、家族でたこ焼きを食べた時の事を思い出してしまって……すみません……」
「ごめんなさい……。何かつらかった事を思い出させてしまったのね……」
「いえ……。俺の大切な思い出の味に凄く近いんです……。また食べられたと思うと嬉しくて……。家族ってこんな感じだったなって……」
俺とレインさんのやりとりを黙って聞いていたマリオさんが口を開いた。
「ヒカル。俺たち一家にとっちゃ、お前さんは、もう家族みたいなもんだよ」
「ありがとうございます……」
「たこ焼きおいしい!これヒカルが考えたの?」
「そうよ。ヒカルさんに教えてもらって、母さんが少しアレンジしたの」
「道具は父さんが作ったんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあたこ焼きは、家族皆で作った料理なんだね」
「そうだな」
「僕たこ焼き好き!もっと食べる」
「俺ももう一個食べようかな」
俺、もう少し……。
もう少しだけここにいても許してもらえるのかな……。
この人たちは、俺の新しい居場所になってくれたのかな……。
それから店の新メニューとして、たこ焼きが追加された。
たこ焼きってなんだ?
全く想像がつかない料理名に、たこ焼きは常連客達を中心に一気に注目された。
爪楊枝っぽいのもマリオさんに作ってもらい、たこ焼きに突き刺して食べるという新鮮な食べ方で値段も手ごろ。すぐに大人気メニューになった。
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