第10話 UNOを教えてしまいました
ケインとマリーの揚げたこ焼き付き婚約発表パーティーは、結果的に大成功だった。パーティーが終わって参加者達が帰った後、俺はケインの部屋で待たされていた。
ケイン、ベルナデッタ、マリーが部屋に入ってきた。
「ヒカル。おまえのおかげでパーティーは大成功だったぞ。礼を言う」
「全く……。おまえのせいで俺は散々な目に遭った」
「ヒカル様。お兄様がご迷惑おかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、ベルナデッタさんのせいじゃないですよ。でもおかげでベルナデッタさんに揚げたこ焼きを食べてもらえたので、俺は嬉しかったですよ。何も気にしてないです」
ベルナデッタの顔が赤くなった。
「ふふっ……ふふふっ……ぷっ……くくくっ……ふふふ、ははは……あははははははは。もうダメぇ~……。もう無理ぃ~……。笑いが……笑いが止まらないー」
さらさらとしたロングヘアーで美人の女性、マリーが隣で腹を抱えて爆笑した。
「えっと……」
「改めて紹介する。婚約者のマリーだ」
「ひっ……ひい……あははは……はっっ……ははは……ふふふ……。ケインがヒカルにサプライズを仕掛けるんだ!驚かせてやる!とか言って……ふふふっ……逆に自分がサプライズに引っかけられて……あははは……ははは……あははは」
マリーは、ずっと笑い転げている。
「おまえのおかげで、このとおりマリーは良く笑うようになった」
「いや、笑いすぎじゃない!?大丈夫!?」
「あはははは……。だ、だって!!だって!!パーティーの時、ずっと我慢してたから……ふふふ……あははは……はははっ……も、もう無理ぃ……。揚げたこ焼なかなかもらえない時のケインの顔!!私、隣で見てたんだよ?む、無理ぃ……。ふふふ……あははは……あははは……」
「マリーは明るい子だろ?僕は彼女の笑った顔が大好きなんだ」
「ふふふふ……あはははは……あー、ダメぇ……。涙が出てきた……ケイン、お願い。こっちを見ないで。あはははは……」
マリーは、ずっと腹を抱えて笑っている。
4歳の時から12年間笑わなかった女の子が、福笑いがきっかけでこんなに笑うようになったんだ。
……きっとあれだな。12年間たまりにたまってた笑いの感情が、今洪水のように一気に溢れてるんだろう……。
……大洪水で大変な事になってるけど。
まあ今まで我慢してた分、たくさん笑ってほしいな。
「だ、大丈夫ですか……?」
「心配するな。そのうち、落ち着く。マリーは、おまえに会いたがっていた。ちゃんと自分で礼を言いたいそうだ」
「あははは……ふふふふ……」
「ちょ、ちょっと落ち着くまで待った方がいいかな……」
「そうだな」
しばらく笑い続けたマリーは、ようやく落ち着いた。
「はぁー……収まったぁ……。待っててくれてありがとうー」
「落ち着いたみたいでよかったです」
「初めまして、マリーです。あー、やっとだよ!ヒカルさんにやっと会えたー。もうずっと会いたかったからー。会って早くお礼を言わなくちゃって思ってて。福笑い、楽しかった。ほんとにありがとうー」
「いえ、役に立ったみたいで良かったです」
「もう一回やりたいんだけど、ケインがやらせてくれないの。福笑いは、危険な儀式だからって言って。えっと、おかめさん?」
「ああ、はい。おかめさんですね」
「幸せになれないと顔がおかめさんになるんだ。危険だからって・・・もう真剣な顔して……ぷっ……くくくっ……あははははは……」
「マリー。君は福笑いの本当の恐ろしさを分かっていない。使った人間は幸せにならなければ、顔がおかめさんになるんだ。12年間笑わなかった君を簡単に笑わせた強力な力を持ってるんだ。福笑いを使った代償はあまりにも大きい」
いや、代償とか全くないんだけどね……。
まだ信じてるんだな……。
「ケイン。おまえ、マリーさんを幸せにしたいんだよな?」
「当然だろう。婚約したんだ。一生をかけて幸せにしてみせるさ」
「つまりマリーさんが幸せじゃなければ、おまえは幸せになれない訳だ。……おかめさんになる日も近いな。あれ!?えっ!?」
「な、なんだ?」
「いや……。何でもない。忘れてくれ」
「な、な、なんだよ?どうしたんだ?」
「おまえ、なんかさっきより顔が白くなってきてないか?」
「ええっ!?」
自分の顔のいろいろなところを触るケイン。
「おまえ、おかめさんになってきてるんじゃ……」
「ほ、本当か!?なぁ、ヒカル!!僕はどうすればいい!?」
「マリーさんを幸せにするしかないな。でもマリーさん、福笑いをやりたいのにケインにやらせてもらえなくて不幸なんじゃないかなぁ……。あー、かわいそうだなぁ……」
「そ、そんな。僕はどうすれば……」
「うーん?マリーさんに福笑いをやらせてあげればいいんじゃないかなぁ?」
「し、しかし……。あの危険な儀式をまたやるというのは……」
「あれ?……えっ?」
「ど、どうした!?」
「いや、何でもない……」
「なんだよ!!」
「うーん、また白くなったような?いや、気のせいか。あー?どうだろ。ちょっと分からないな」
「マリー!!僕の顔、どうなってる!?白くなってるか?」
ケインの顔をマリーがじーっと見つめる。
「ぷっ……ふっ……ふふふ……あははははは……うん、白い!!白くなってきた!!」
「ええっ!?そ、そんな……」
「あはははは……ははは……ははは……」
「仕方ない……。隠してた福笑いを出してこよう」
「やったね!あははは」
マリーさん、ノリが良いなぁ。
まあ確かにこれだけ笑う人が隣にいてくれたら、いつも楽しいだろうな。
「ケイン。……ほんとに、思いが叶って良かったな」
「ああ。僕は今、最高に幸せだ。ヒカル、おまえも早く結婚しないとな。誰か良い相手いないだろうか……」
ケインは、チラリとベルナデッタの顔を見た。
ベルナデッタは顔を赤くして下を向いている。
「相手なんかいないって。俺、今まで彼女もできた事がないし」
「前からおまえに聞きたかったんだが、あのアリスという子とは深い関係なのか?」
「アリス?いや、全く。ただの仕事の後輩だけど」
「そうか。なら異性としてアリスが言い寄ってきたらどうする?」
「アリスは、俺にとっての後輩みたいなもんだ。それはない」
「そうか。おまえの口から直接、それを聞いて僕は安心したよ」
「なんでおまえが安心するんだよ。変なやつだな」
「僕は変わり者の貴族だからな」
「イタズラ好きのってのが抜けてるぞ」
「う、うるさい……」
「それでどうしてまだ俺を屋敷に引き留めてるんだ?パーティーは終わったし、おまえとの約束通りベルナデッタさんに言い寄ってくる男たちからも守った。俺の役目はもう終わりだろ?」
「もう一つ、頼んだだろう。げえむだよ」
「あー、ゲームな。まあ一応、用意はしてきたけど」
「今度は本当に親しい間柄の人間だけでパーティーを楽しみたい。むしろここからが本番だ。僕にとっては、あのパーティーそのものが余興だよ」
「おいおい……。遠方から来てくれる人もいるって言ってたのにひどいやつだ」
「いいじゃないか。揚げたこ焼きだって食べられたんだ。遠出した価値はある」
「全く……」
「さあ、げえむだ。げえむ。さらに僕たちの絆を深めようではないか」
「じゃあこれです。UNOです」
俺はテーブルの上にUNOを出した。
「赤、青、黄、緑の色カードがあって、0のカードが各1枚。1から9のカードが各2枚あります。それと記号カードが3種類。ドローツー、リバース、スキップ。色の指定がない特殊カード2種類。ワイルド、ワイルドドローフォー、これを使います」
「リバース……ワイルド……難しそうだな」
ケインが大変そうだという顔をする。
「何やら聞いた事ない言葉がたくさん出てきましたわ」
ベルナデッタも専門用語の多さに驚いている。
「うーん、よく分からないけど、やってみたら分かるかな?」
前向きな姿勢で答えるマリー。
「同じ数字か同じ色のカードを場に出していきます。勝敗は単純にカードを一番早く使いきった人の勝ちです。他のプレイヤーの手札の合計ポイントが得点です。特徴的なのは、最後の1枚でウノと宣言する事。宣言を忘れたらペナルティで2枚のカードを引かなきゃダメですから注意してくださいね。カードを7枚ずつ配ってスタートです。まあ実際に遊びながら覚えましょう。何事もそれが一番わかりやすいです」
ウノを遊びながらルールを教えていった。
「なるほど……。数字で攻めるか、色で攻めるか。特殊なカードを使い、時に相手を妨害したり、様々な戦略があるわけか。奥が深いな」
「スキップ!!ケインの順番を飛ばしてベルちゃんだよー」
「なっ!?」
「あはははは」
マリーに順番を飛ばされたケインが動揺する。
その様子を見てマリーが笑う。
「そうですわね……。ここは赤の8ですわ」
ベルナデッタが赤のカードを出す。
「うーん、赤かー。まあそのまま赤の6でいくか」
俺も赤のカードを出した。
「リバース!!あはははは」
マリーがリバースを出す。
順番が逆になる。
「ああ!?僕の番が……」
「あ、また俺ですね。じゃあ、ここは青に変えようかな」
「リバースですわ。カードが少ないお兄様には回しませんわよ」
ベルナデッタがリバースを出して、再び順番が逆になる。
「ま、またリバース!?」
「あはははは」
マリーが笑い続ける。
「俺の番か。そうだな、ここは多めにある青のカードを処理しておくか」
「黄色に変えちゃおっと」
「なっ!?マリー、このタイミングで青から変えるだなんて……。き、黄色は……一枚もない……」
「あははははは。やったあ」
マリーの笑いは止まらない。
結果的にマリーが一番に上がった。
「やったー!私の勝ちー!UNOの遊び方、分かったら面白いね」
「そうですわね」
「も、もう一度だ」
「よし、やるかー」
俺たちは、UNOで盛り上がり続けた。
「そろそろ頃合いだな。少し、待っていろ」
ケインが立ち上がって、どこかへ行った。
ケインがボトルを手に持って戻ってきた。
「おおー、やったね!!やっぱりこれがないと。うんうん、夜はこれからだよね」
ボトルを見たマリーが嬉しそうに言う。
「ああ、キル酒ですわね。ちょうど、私も少し喉が渇いていましたの。いただきますわ」
ベルナデッタが答えた。
「キルシュ?」
「キルの実から作った果実酒ですわ」
果実酒……。見た目は赤い。
赤ワインみたいな感じだな。
ケインが全員分のグラスにキル酒を入れる。
「えっ?お酒?それ未成年飲酒じゃ……」
不思議そうな顔で、俺を見つめるベルナデッタとマリー。
「ヒ、ヒカル。男は16歳。女は14歳から成人だぞ。わ、笑わせようとして言ったのかもしれないが、今のはあまり面白い冗談ではなかったぞ。もっと面白い事を言え」
まずいという感じの顔で、ケインが俺をフォローしてくれる。
あ、そうなのか。
この世界は、男は16歳。女は14歳から成人になるのか。
つまりここにいる人たち、皆成人なんだ。知らなかった。
「あー……な、なんちゃってー……。ははは……。ご、ごめんー。今のは確かにイマイチだった。すべった」
「あははー。ねえ、ヒカルさん。それってすべり芸っていう芸風なの?あははは」
マリーは笑った。
「ヒカル様。何か動揺しておられませんか?」
ベルナデッタが追及する。
「あー、そ、その……。実はですね。俺成人してるのに、一度も酒を飲んだことがないんですよ。それでちょっと今、おかしなテンションなんです。その……楽しみすぎて……」
苦しい言い訳をした。
まあ未成年だから酒を飲んだことがないのは、うそじゃない。
「皆、グラスを。僕とマリーは婚約し、それを祝福してくれる妹と親友がいる。UNOは楽しかったし、ヒカルは今日初めて酒を飲む。このとても楽しい最高の夜に乾杯。ヒカル、おまえが初めて飲む酒の味について感想が聞きたい。飲んで感想を教えてくれ」
「おまえが先に飲めよ。おまえの婚約発表の席だろ」
「その僕がおまえに飲んでほしいと頼んでるんだ。嫌か?」
「まあどっちでもいいよ。……じゃあ俺から」
俺は、まずかったら嫌なので味を確かめるため、ほんの少しだけ口に含んでキル酒を飲んだ。
「あー、結構酸味があるんだな。うーん、渋い?そんな感……」
あ、あれ?
……なんだ?
目が……。視界がぼやけてきた。
体に力が入らない。
意識が遠くなっていく……。
酔った?俺、もしかして酒、弱いの?
だ……だめだ……。
「おい、ヒカル!!どうした!!ヒカル!!体が熱い!!熱があるぞ!!」
「ヒ、ヒカル様!?」
「大変!!誰か!!人を呼んでこないと!!」
「僕がベッドまで運ぶ。ベル。医者を呼ぶように使用人に言ってきてくれ」
「わ、わかりました」
「私は、冷たい氷水とタオル、持ってくるね」
「頼む」
遠のいていく意識の中、声も聞こえなくなっていった。
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