第11話 ボーリングを教えてしまいました
俺とリコは、原宿に来ていた。なぜ原宿に来たのかというと、大好きな音楽バンドのライブがあるからだ。そのバンドの名前は「人工ノイズ」という名前だ。今まで色々な音楽を聞いてきた。好きな曲自体は沢山あるけど、これまでアーティスト自体にハマったという経験は一度もなかった。人工ノイズにハマるきっかけを作ったのが、妹のリコだった。ある日、リコの部屋から叫び声が聞こえてきた。何事だと思い、リコの部屋のドアをいつもどおりノックもせずに開けたら、興奮した様子でパソコンの画面を必死に見つめているリコの姿が目に入った。
「おい、大きな声を出して何なんだよ」
「ノイズだよ!ノックしてよ!!」
「何?ノイズ?スピーカーがぶっ壊れたのか?」
「違うよ。人工ノイズ。バンドだよ」
「全然聞いた事がないな。はやってるの?」
「これから売れるんだよ!まだデビューしてないもん。今日はネットライブ配信10人も開始前から待機してるよ。やっぱ初めて顔出しするからかな。いつもの倍の人数だよ」
「いつも5人くらいなのかよ……。なんだよ、どこにでもあるような無名のバンドじゃないか」
「違うよ!伝説はここから始まるんだよ」
「あのな……。俺たちは、バンドで天下を取るんだって志の奴らが、世界中にどれだけいるか分かってるのか?その中で成功するのは、ほんの一握り。ほとんどが夢を諦めるんだよ」
「ノイズの曲聴きもしないでノイズの事を悪く言わないでよ」
「そ、そんな怒るなよ」
「もう始まるから。お兄ちゃん邪魔するなら部屋から出て行ってよ」
「あー、待て待て。じゃあ一緒に見ていいか?おまえの推しのバンドが、どんなのか見てみたいから」
「まあそれならいいけど……」
リコと一緒に画面を見る。
ライブ配信開始5秒前。3、2、1、スタート。
安そうなマンションの部屋の一室で、4人の男たちが顔を出していた。
どの男たちもお世辞にもイケメンとは言い難い容姿。ダサいファッション。
モテたくてバンドを組みましたという表現がぴったりだった。
「えーと、撮れてる?……あっ、見られるってコメントきた。ありがとうー。うわー、緊張する。えっと……初めまして、人工ノイズです。顔出しとライブは、初めてですね。リーダーで、ギターボーカルのヤマです」
「ベースのウミです」
「ドラム、イワです」
「キーボードのリクです」
「えー。僕たちは皆、同じ大学に通っている大学生で結成されたバンドです。・・・あっ、軽音部ですか?ってコメントきたよ。コメントありがとうー」
「違います。いや、軽音部入りたかったけどイケメンばっかりで無理だった。あの輪の中に入っていくのが怖くて……。皆、経験ない?自分より輝いてそうな人たちの輪に入るとか、奇麗なカフェに行ったりとか躊躇うみたいな。僕は、だめなんだよね。人見知りなんです」
「まああれだよね。俺達似た者同士なんだよ。それで気が合ってバンド結成したんだけど。……なんで音楽を始めたの?って。コメントありがとうー」
「あー、僕はモテたかったから。まあ全然モテないけど」
「俺はやっぱ音楽が好きでー、色々曲聴いてて自分でも作りたいなって感じで始めた」
「俺はねー、おやじが昔ドラムをやってて、昔から家にドラムがあったから遊んでたんだよ」
「あー、俺は……。やる事が特になくて暇してたら、僕がモテるために手伝ってよってヤマに言われて、暇だったしまあいいよーっていう。待って、俺って巻き込まれただけ……。あっ……。曲聴いたよ。好き。応援してるってコメントきた」
「えー!?ちょっと待って。マジで泣きそう。一番嬉しい。ありがとうー。もう満足。もう配信、終わっていい?」
「早い早い」
まあコメントを打ってるのは、全部リコだったんだけど……。
しかし次の瞬間、リコ以外の人のコメントがきた。
きもい……。臭そうという悪口だった。
ハンドルネームが植木鉢という人だった。
あー、これは……。
まずい空気かな……。
「きもい。臭そうって。あー、やっぱ売れるには、見た目も大事かもな。僕ら清潔感がないらしい。勉強になる。コメントして教えてくれてありがとうー。ちょっと次のライブ配信で全員、清潔感身につけてくる事を目標にしようよ。後、教えてほしいんだけど清潔感ってどうやったら身につく?聞いてばっかりでごめん。・・・あー、髪形と服。よし、わかった。今コメントくれた人、次回も配信を見てどうだったか感想を教えて。次はねー、一週間後同じ時間から配信します。皆、来てくれてありがとう。またねー」
ただの悪口を次回の配信を見てもらう話に持っていった……。
清潔感を身につけてくる事を約束した彼らがどんな姿になるのか。
俺は気になって、一週間後の次の配信も見てしまった。
「こんにちはー。人工ノイズです。前回ね、清潔感がないってコメントでアドバイスをもらったんで、髪形と服装を変えました。皆さん、どうですか?……あ、よくなった?やった!ありがとう。この一週間、勉強しましたよー。皆、美容院行って髪形変えてもらってね。それから皆で服買いにいきました。……えっ?……ああー、それぞれに似合う服の系統が違うから変えろ。……ああー、バンドとして統一感が出てていいよ。どっちも分かるなぁー。両方ありだね。他になんかアドバイスはある?」
それから彼らは、リスナー達の意見をどんどん取り入れて参考にして、配信の度にどんどん変わっていき、大変身を遂げた。モテなさそうなダサい大学生達は、なんか本当にアーティストのような雰囲気が出てきた。
「植木鉢さん。飴玉さん。ノンシュガー砂糖さん。コメントありがとうー。大学のテスト?ああ、単位ね……。落としました……。やばいね。でも言い訳させてよ。音楽を頑張りすぎてさー。ちょーっと皆、笑わないでよ。僕これでも落ち込んでるんですよ。そんな事を言わないでよー」
配信の回数を重ねる度にメンバー全員のトークスキルも上がっていったが、何よりも彼らは目の前のリスナー達を大切にしていた。人と真剣に向き合う姿勢が好感度を高めていき、どんどん人が集まってきた。最初悪口を言った植木鉢さんは、すっかり常連リスナーの一人になっていた。彼らの音楽も魅力的な新曲が次々に投稿されていき、再生数が増えていった。ある時、配信で質問コーナーがあった。俺は初めてコメントを書きたくなった。ハンドルネームを考えた。今日、コンビニでたこ焼きを買って食べた事を思い出したからたこ焼きにした。何も深い意味はない。質問か。何聞こう。そうだ。これにしよう。
「えーと、たこ焼きさん。コメントありがとう。もしも世界が終わるとしたら最後に何を食べたいですか?えっ?これはね、そりゃー、たこ焼きでしょ。ね?たこ焼きさん。たこ焼きが正解でしょ?」
コメント欄でウケているのが分かる。
俺も笑った。
「まあでも世界が終わる時、家族でたこ焼きを作って一緒に食べるっていうのもいいかもね。変に豪華な飯を食うより日常感もあっていいかも。あー、なんかマジでたこ焼きが正解な気もしてきたな。でもまあその時に僕が甘い物を食べたい気分だったとしたらクレープにすると思うけど。そういえば原宿は食べ物屋さん多いけど、クレープ屋さんって美味しそうなとこ多いよね。行きたいなぁ。……ふふふ」
「ヤマ、笑うなってー!」
「大事なところなのに。たこ焼きさんの質問がナイスパスすぎるよね。ほんとありがとう」
えっ?何?
なんだ、なんだ!?
そして、その瞬間は、何の前触れもなくやってきた。
「皆さんに大事なお知らせです。僕たち、人工ノイズはメジャーデビューする事になりました。デビューアルバム、僕たちは雑音を音楽にするための旅に出た。が発売されます。それと第一発目、原宿でのライブが決まりました。原宿の皆さん、ここで雑音鳴らしちゃってもいいですか?を開催します。東京、北海道、名古屋、大阪、福岡の5カ所回ります。ライブツアーの詳しい話はまた近いうちに」
祝福と驚きのコメントで溢れかえる。
「うおおおお!!マジか!!ノイズのメジャーデビューとライブ!!」
俺も部屋の中で叫んでいた。
「皆ありがとうー。ここまで来れたの皆のおかげだよ。もう皆が大好きなんだよ。感謝しかない。早く会いたいよ。それからたこ焼きさん、せっかく質問してくれたのに、僕たちの宣伝に使ってごめん。すごい良い感じで発表できそうな流れだったから勝手にサプライズで使わせてもらいました」
「コメントきた。たこ焼きです。僕も妹も最初の頃からの大ファンです。妹と一緒にライブ絶対行きます。だって。よかったー。たこ焼きさん、怒ってない。良い人だった。ありがとうー。絶対にライブ見に来てー。妹さんにもよろしく」
それで今、リコと原宿にいる。
俺がたこ焼きというハンドルネームで配信中にコメントした事は、リコに言っていない。なんか恥ずかしいから知られたくなかった。
「お兄ちゃん。せっかく原宿に来たし、クレープ、食べようよー」
「あんまり時間がないって。早めに会場に入っておく方がいい。限定グッズも買いたいし、また今度な」
「ええー……クレープ、食べたかったなー……」
それから人工ノイズのライブに参戦し、リコと二人で盛り上がった。
最高のライブだった。
それから一カ月後だったんだ。地球に隕石が落ちてきたのは。
ああ……リコ……。
ごめんな……。一カ月も時間があったのに、こんな事になるんならクレープくらい買ってやってればよかった……。
約束してたのに……。忘れてた……。
「うっ……ううん……リコ……」
目を開けると、豪華で洗練されたデザインの天井とシャンデリアの照明が見えた。
「ひっ……ううっ……ヒカル様っ……!!良かった……。うっ……ううっ……わぁあああん」
その泣き声と同時に誰かが抱きついてきた感覚があった。
金髪の奇麗でふわりとした柔らかそうな長い髪をした貴族の美少女ベルナデッタ・グレンヴィルの姿がそこにあった。
「ベルナデッタさん……。あれ……。俺、どうしてたんだっけ……」
「キル酒に毒が入っていましたの。ヒカル様はキル酒を飲んで一週間、意識が戻らなかったのです」
「ああ……。そうだ、思い出した。UNOをした後で、初めて酒を飲んだんだ。……ベ、ベルナデッタさんは、体は大丈夫ですか!?ケインは!?マリーさんは!?皆、無事なんですか!?」
「私たちは飲んでません。ヒカル様がすぐ倒れられたので、毒に気づけました……」
「そ、そっか……。俺だけか……。よかった……」
「ヒカル様……。あなたって人は……ううっ……ううっ……なんでいつも人の心配ばかり……自分の事も心配してください……うわぁあああん」
しばらくベルナデッタはずっと抱き着いたまま、また泣いていた。
ああ……。そうだ。もう終わったんだ。
さっきのは夢で、地球はもうないんだ。
こっちが現実だ。
「……………………」
「えっ!?ベルナデッタさん!?しっかりしてください!!ベルナデッタさん!!大変だ!!」
ベッドから起き上がり、部屋を出て人を呼びに行く。
ドアを開けたらケインがいた。
「ヒカル!!目が覚めたのか!!心配したぞ!!」
「ケイン!!大変だ!!ベルナデッタさんの様子がおかしい!!」
「何!?」
慌てて部屋に戻り、ケインがベルナデッタの様子を確認する。
「大丈夫だ。心配ない。寝ているだけだ」
「寝てる?」
「ベルは一週間、おまえのそばをひと時も離れずにずっとそばにいたんだ。ほとんど寝ていないんだ。しばらく休ませてやってくれ」
「……そうか。ベルナデッタさん、ずっと俺のそばにいてくれたのか。心配かけちゃったな……」
そっか……。
だからあんなに泣いて心配してくれたのか……。
「おまえの意識がない間、毎日、医者を呼んで様子を診てもらいながら薬を投与していた。部屋で待ってろ。今から医者を呼んでやるから念のために診てもらえ」
「代わりの部屋はあるか?今は、ベルナデッタさんが寝てるから」
「同じ部屋でいいだろ。他の部屋用意するのが面倒だ。ベルの隣で寝てろ。ベッドは十分広いだろ。ベルの寝顔でも眺めてろ」
「な、なんだよ……」
部屋に戻って椅子に座っていた。
さすがにベルナデッタさんの寝顔を眺めるなんて、できないよ・・・。
しばらく待っていると医者が来た。いろいろ診てもらったが、問題なさそうだった。
しかし念のために三日間大人しく過ごせと言われた。
ケインが部屋に入ってきた。
「大丈夫そうか?」
「ああ、まあ三日間大人しく過ごせと言われた。別に何ともないけどな」
「ならあと三日、屋敷に泊まっていけ。何かあったとしても医者が駆けつけるのも早い」
「ならそうさせてもらうよ」
「ヒカル。僕は今回の件に対して、怒りの気持ちが抑えられない。親友のおまえをこんな目に遭わせた。もしかしたら僕もマリーもベルも……。皆、殺されていたかもしれない。僕は犯人を必ず捕まえてみせる。この一週間の間に犯人の情報も集めたし、屋敷の中に出入りする人物と物のチェック体制も万全だ。もう二度と隙は見せない」
「それで犯人とその動機は分かったのか?」
「ああ。犯人はルーカスという貴族だ。マリーにしつこく求婚を迫っていた貴族の男さ」
「なるほどな。つまり恋敵であるおまえが邪魔で殺そうとした」
「そうだ」
「犯人が分かった。それで証拠は?そろってるのか?」
「ああ、もちろん抑えてある。今すぐ殺せる」
ケインの顔が、まるで鬼のように怖い顔になっている。
こんな表情のケイン、一度も見た事がない。
「ケイン、まあ落ち着けよ。俺は生きてる。まあ危なかったのかもしれないけど。おまえが犯人を殺したらおまえも殺人者と同じだ。変な気は起こすなよ。正しく罪を償わせるんだ」
「……ああ……全くそのとおりだな」
「まあ冷静じゃいられない気持ちも分かるけどな」
「ありがとう。ヒカル。本音を吐き出せてよかった。少しは楽になった。僕は書面を作り、集めた証拠とともに騎士団に提出する。ルーカスは拘束されて貴族の地位を失うだろう。一度失った貴族の地位は、どんな理由があろうとも永久に戻る事はない。それから禁固刑だ。しばらくは出てこられないだろう」
騎士団……。警察みたいなもんか……。
二日後、ルーカスは騎士団に身柄を拘束された。
ルーカスは犯行を認め、貴族としての地位も失った。
体も全く問題なかった俺は、十日ぶりにマリオさん達に会った。
十日も顔を合わさないなんて、そういえば初めてだ。
「ヒカル!!大変だったな!!皆で心配してたぞ。体はもういいのか?」
「マリオさん。無事に戻りました。はい、完全復活です。明日からまた働けますよ」
「おー、やる気満々だな。いつもどおり好きな時に休んで良いからな。無理はするなよ。いやー、よかった、よかった。ははははは」
マリオさんは、いつもどおり笑顔だった。
「ヒカルさん。よかった……。大丈夫?おなかは、空いてない?」
「レインさん。ありがとうございます。さっきケインのところで昼飯を食べてきたけど、今からレインさんの夕食が楽しみですよ。久しぶりだもんな」
「お祝いに色々作らないとね。例の揚げたこ焼きも一緒に作るわね。あんなに食感が変わるなんてビックリよー。たこ焼きは、奥が深いわ」
レインさんは、張り切っていた。
「ヒカルー!おかえりー!」
「アルト、ただいま。毎日お客さん達とゲームして楽しく遊んでるか?」
「うん!」
「そっかー。いっぱい遊べよー」
アルトを抱きかかえてやった。
「じ、じしょー。師匠ー……ううう……。もう二度と会えないのかと思いました・・・。またお会いできて私、嬉しくて……。うっ……。ううっー……」
「アリス。おまえが店を支えてくれるから、俺は安心して体を休ませる事ができた。ありがとう。頼りにしてるぞ」
「ううっ……。感激です。久しぶりに師匠のパワーを私に分けてください。頭を撫でてください」
アリスの頭を撫でてやった。
帰って早々、仕事はさせてもらえなかった。
皆、心配しすぎだよって言ったけど、休んでてって押し切られた。
結局、部屋のベッドの上で一人で寝転がっている。
ベッドで寝るの久しぶりだな。
もうすっかり床に慣れたよ。
静かなもんだ。一人の時間か。
そういえば随分と久しぶりな気がする。
本当にいろいろな事を考えるけど、強いて言うなら一つだけ。
もう酒はこりごりだ……。絶対飲まないでおこう。
俺は固く誓った。
翌日、俺はレインさんの店の仕事に復帰した。
店のお客さん達も貴族ルーカスによる殺人未遂事件の真相は当然知っていて、たくさんの人たちから激励と心配の言葉をかけてもらった。
それは、突然不意打ちのようにやってきた。
ケインの方が店にやってきたのである。隣にはマリーがいる。
いつもなら屋敷に来いと俺を呼びつけてくるのに。
そういえば福笑いの時に、一回来ただけじゃないか。
「ケイン・グレンヴィル様だ」
「ベルナデッタ様が来ただけじゃなくてケイン様まで。今日はマリー様もいるぞ」
「ケイン様すてきー。恰好良いわー。マリー様が羨ましいわ」
「マリー様だからこそケイン様に釣り合うのよ」
「奇麗ー」
「皆-、こんにちはー。お邪魔しまーす。あはは」
マリーがお客さん達に笑顔で手を振った。
「き、奇麗すぎる……。手を振ってくれたぞ……。感動した。生きててよかった」
「女神様だ。そりゃケイン様もマリー様に夢中になるわけだ……」
男性客達は、固まってしまっている。
ああ、忘れてた。
いや、自分と比べると悲しくなるから考えないようにしてたんだけど。
ケインって……。そういえばコイツ、イケメンだったな。
マリーさんもベルナデッタさんも、物すごく美人なんだよな……。
芸能人のようなレベルだ。
本物の貴族ってのは、やっぱオーラがすごくて華やかなんだな。
俺とは、住む世界が違うな。
「いらっしゃいませ。ケイン・グレンヴィル様。何になさいますか?たこ焼き?新メニューの揚げたこ焼きなんかもオススメですよ。ご一緒に野菜スープもいかがですか?」
俺は、わざとらしく丁寧に接客した。
「おい・・・。久しぶりに訪ねてきた親友に、野菜スープまで勧めてくるなよ・・・」
「うっせーよ。突然やってくるなよな。自分の影響力を考えろ」
「ヒカルさーん。遊びに来たよー。ヒカルさんが働いてるお店に来てみたかったんだー。へぇー、良い雰囲気のお店だねー」
「マリーさん。いらっしゃいませー。どうぞ、ゆっくりしていってください」
「僕の時とは態度が露骨に違うな」
「マリーさんは良い人だからな」
「僕が悪いやつみたいじゃないか」
「自分の胸に手を当ててよく考えろ。おまえの罪の数々を・・・。俺にドッキリサプライズを仕掛けたり、ダーツでベルナデッタさんに負けろ負けろと念じたり。俺は他にも色々見てきたんだぞ」
「な、なにを・・・」
「顔・・・前よりふっくらしてきたな。今度は輪郭がおかめさんに似てきたんじゃないか?」
「ええっ!?」
「ぷっ・・・。くくっ・・・あははははは・・・あはははは・・・」
マリー、店の中で大爆笑。
「お、おい・・・。マリー様が爆笑してるぞ」
「あれがうわさのおかめさんの儀式の効果なのね!?」
「すごい。おかめさんは本当にいたんだ!!」
「でもおまえ・・・。あれは・・・ちょ、ちょっと効きすぎなんじゃないか!?」
店内がざわついてきた。
「よ、よし。とりあえず二階に来い。なんか用があるんだろ?」
「ああ・・・。マリー、いくぞ」
「あはははは・・・。ははははは・・・。あははは・・・・。ま、待ってぇ~」
二階の部屋に移動した。
「それで何の用だ?」
「まあ良い話だ。悪い話じゃないから安心しろ。おまえの快気祝いを全力でやりたいと思っている」
「へぇ、そりゃどうも。具体的に何してくれるんだ?」
「美味しい料理を囲み、げえむをして皆で楽しく過ごして、おまえの元気な姿がある喜びを皆で分かち合いたい」
「まあありがたい話だな」
「そこでだ。マリオとレインに相談がしたい。今すぐ、少しでいいから時間を空けてもらえないか?」
「今からか。まあ店ならアリスに任せておけば、レインさんも少しは時間を作れるけど。マリオさんもおまえとマリーさんが来てるって言えば、すぐ来てくれるはずだ」
「突然押しかけて時間を作れだなんてすまない」
「いいよ、おまえは、いつも非常識な貴族だからな。ちょっと待ってろ、呼んでくる」
マリオとレインを呼んできた。
「すまない。忙しいのに。すぐ本題に入ろう。僕らは、ヒカルの快気祝いを盛大に行いたいと思っている。ヒカルの無事を喜んでくれる人間、できる限り集めて楽しめる盛大な場にしたいと思っている。貴族と平民といった身分の関係はなく、ヒカルの無事を喜んでくれる人間を集めたい。広い土地ならいくらでもある。僕が手配する。料理に関しては、貴族の料理人たちを集めるが、悪いがその日だけは、店を閉めてレインにも手伝ってもらいたい。貴族の料理人は貴族好みの料理を作る事に慣れてしまっているから、平民に人気のある料理ができるレインの力もぜひ貸してほしい。もちろん店を閉めさせてしまっている訳だから、十分な報酬も用意する」
「わかりました。何やらすごい大仕事ですね・・・」
レインがケインの提案を了承した。
「次にマリオ」
「すみません、ケイン様。俺は料理に関してはド素人で、全部嫁に任せっきりでして・・・。塩と砂糖も間違えるし、分量が違うし、皿も割っちまいました。ちっともお役に立てそうにありません」
頭を掻きながらマリオが答える。
「マリオ。おまえに頼みたい仕事は別の事だ。大人数で皆が楽しめるげえむを作るのを手伝ってほしい」
「いやー、俺はヒカルみたいに皆が楽しめるげえむを考える頭なんて持ってませんから」
「心配するな。皆が楽しめるげえむは、ヒカルが考える。マリオ、おまえに手伝ってほしいのは、ヒカルが考えたげえむの道具を実際に作る作業だ。いつもやってくれてるやつだよ。もちろん僕の方からも作業員の人手も大人数用意するから安心してくれ。どれだけ大掛かりになっても心配ない」
「ああ、それでしたら俺でもお役に立てます。お任せください」
「おい、ちょっと待てよ。ケイン」
「どうした?」
「おまえ・・・。皆が楽しめる面白いゲームを俺に考えろって言ったか?」
「当然だろう?それがおまえの役目だ。今までと何も変わらない」
「いや、おかしいだろ。その流れ的に、皆で色々俺のために考えて盛大になんかやってくれるのかと思ったのに!不意打ちかよ!俺の快気祝いを盛り上げるゲームを俺が考えるのかよ!」
「ぷっ・・・あはははは・・・・あははははは・・・やっぱり・・・こうなると思った。あはははは・・・」
マリーがまた腹を抱えて爆笑した。
ケインとマリー、マリオとレインが中心となり、何度も打ち合わせを繰り返した。
こうして壮大な計画は進んでいき、ボーリング場が設立された。
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