第13話 ビンゴを教えてしまいました

ボーリング大会が終わってから、ケインはボーリング場を解放して誰でも自由に使えるようにした。平民達の遊び場としてすっかり定着し、ボーリングブームが起こっている。ボウリング施設に出店する飲食店、ボウリングのレーンなどの点検や修理を行う技術者。多くの雇用も生まれた。このボーリング場のシンボルとして銅像を建てようという話が出てきて、誰の銅像を建てるのか会議が行われた。その結果、初めてのボーリング大会でパーフェクトゲームを達成した文句なしの優勝という実績。主催者である貴族ケイン・グレンヴィルの婚約者であり、儀式によりおかめさんの祝福を受けた神に愛される奇跡の女神マリー・グレンヴィルの銅像が建てられた。

その話を聞いた俺は、完成した銅像を見に行った。マリーさんは美人だし、絵になるから銅像になっても奇麗だろうな。

しかし実際に行ってみると、そこには、腹を抱えて爆笑している様子のマリー像の姿があった。

奇跡の爆笑女神マリー・グレンヴィル像と文字が書いてあった。


「どうしてこうなったんだよ……」

思わず言葉が口から溢れ出てしまった。


爆笑するマリー像を見て固まっていたら、他のボーリング客がやってきた。


「この銅像があると、いつも楽しい気持ちになるんだよな」

「おかめさんの祝福を受けたマリー様。ありがたやー」

「ここに来てから子宝に恵まれました。ありがとう、マリー様」

「マリー様。仕事がなくて困っていた私に、ボーリングの点検の仕事を与えてくださり、ありがとうございます」

「すてきな恋人が欲しいです。マリー様、どうかよろしくお願いします」


両手を合わせて拝んでいる人、願いが叶った感謝の気持ちを報告に来る人、願いを叶えてくれるように頼みに来る人。


……ねぇ、何なのここ。パワースポットなの?

ボーリングとご飯を食べられる施設だよね?

どうなっちゃってんの?


せっかく来たので飲食店をのぞいてみたり、変わったところをあちこち見学していたら、レーンのところで、よく知った顔の金髪の美男子が一人で黙々と球を投げていた。


「おい……。ケイン、おまえ何をやってんだよ」


球を持ったまま後ろを振り返ったのは、貴族ケイン・グレンヴィルだ。


「ヒカルじゃないか。見ての通り、僕はボーリングの練習だ。あの日から毎日、ここに通っている」

「常連かよ。それで少しは、うまくなったのか?」

「ああ、さっきの最高スコア3点も取れたんだ。すごいだろう?成長したんだ」

「へぇ……。おまえの根性には驚かされるよ。大したもんだ」

「ああ、次のボーリング大会では一位を取ってみせる」

「またやるのか?」

「当たり前だ。定期的にやるぞ。あの熱気と興奮、最高の時間だった。それでおまえは何をしているんだ?僕と一緒にボーリングするか?」

「マリーさんの銅像が作られたって聞いたから、どんなのか見に来たんだよ」

「ああ、マリーの銅像か。良い出来だろう。マリーが笑うと皆が幸せになるんだ」

「まあ皆、物すごくありがたがってたな」

「いつか僕もマリーの横に銅像を作る」

「別に普通に作れるだろ。ボーリング場を作った貴族としての功績がある」

「そんなつまらない理由で銅像を建てて何が面白いんだ。あの像を作るのは、パーフェクトゲームを取る事が条件だ」

「変なこだわり持つやつだな……」

「ヒカル。ちょうど良い。今から僕にフックボールの投げ方を教えろ。そろそろ僕も次のステップにレベルアップする必要があると考えていたところだ」


いや、毎日のように通い続けて練習して、3点しか取ってないのに何を言ってんの……。


「おまえ、フックボールを甘く見過ぎだ。フックボールなんて、おまえには無理だって」

「やる前から決めつけるな。フックボールの投げ方を教えろ。ほら、早く」

「あー、もう。わかった。わかったよ。教えてやるよ、うるさいな」

「早くしろ」

「ボールを持つ親指は軽く……手のひらで包み込むように持って……こんな感じで、投げる!!」


俺はボールの持ち方と投げ方を体を使って説明した。


「そうか。なるほど。これでボールの回転する方向を指を使って調節してやればいいわけか。理論は分かった。早速やってみよう」

「はぁ……。まあそんな簡単にできるもんじゃないからな。俺だってたまにしか成功しないんだから」


ケインの相変わらず理想的で奇麗な投球フォームから投げられた球は、右側のガーターの方へと進んでいく。


「ほらな。フックボールは、ガーターのリスクも高いから……えっ?!曲がった!!」


そのまま軌道を変えた球は、巻き込むような形で全てのピンを倒した。


「ストライクだ!!やったぞ!!」

「マ、マジかよ……。うそぉ……」


今までケインの投球フォームだけは、奇麗で完璧に見えていた。

そこに理想的なフックボールが投げられてピンの全てを倒した時、不本意ながらもケインが物すごく恰好良く見えてしまった。それはまさに、プロボウラーの姿だった。


「あー、そうだ。ケイン、大事な事を言い忘れていた」

「なんだ?」

「フックボールを投げてみて分かったと思うけど、手に負担がかかりやすい。投げる時、けがしないように気を付けろよ」

「ああ、覚えておく。おい、ヒカル。帰るぞ。おまえもついてこい」

「どこ行くんだよ」

「屋敷に帰る。おまえに大事な用があったから呼び出そうと思っていたところだ」

「大事な用?」

「決して誰にも漏らしてはならない話だ」


いつも以上に真剣な顔をしたケインに、ただならぬ用件がありそうな雰囲気だったので、とにかくついていく事にした。

屋敷に着くまでの間も真剣な表情をしたケインには、何も聞くことができずにいた。


屋敷について部屋に通された。

テーブルに紅茶と菓子を出され、目の前の席には、ケインとマリーがいる。


「ケイン……。それにマリーさん。大事な話って……」

「ボウリング大会は大成功だった。ヒカル、改めておまえの実力を評価したい」

「それは皆が頑張って準備したから成功したんだろ」

「貴族の間でも、おまえのうわさは広まっている。他の貴族が僕を見る目は、単純にすごいと評価する者、平民と親しくするなんてどういう事だと奇妙な目で見る者。さまざまだ」

「平民と貴族じゃ住む世界が違うから、俺とそろそろ縁を切りたいって話か?まあおまえにも、いろいろと事情はあるわな」

「違う!!おまえは僕の親友だ。おまえの事を何も知らないくせに悪く思っている貴族の連中に腹が立っている。悔しいだろう」

「放っておけよ。俺には関係のないやつだ」

「マリーと僕が婚約して近いうちに式を挙げ、一緒に住む事に関してはどう思う?」

「そりゃ嬉しいよ。良いことじゃないか」

「祝ってくれるか?おまえの事を知りもしないのに、悪く思ってるやつがいても来てくれるか?」

「まあそりゃ少しは気になるけど、呼んでくれるなら結婚式くらい行くよ」

「ヒカル、僕たちの結婚式で最高に盛り上がる何かを考えてくれないか?・・・とても大変な事を頼んでいるのは分かる。貴族ばかりの結婚式だ。各界の重要人物だらけだ。やはり荷が重いか。無理なら断ってくれても……」

「ビンゴだな。一択だ」


俺は即答した。


「何?」

「ビンゴだよ。ビンゴで決まりだ」

「ちょ、ちょっと待て。そんな簡単に決めれる話じゃない。貴族ばかりが出る結婚式だぞ。婚約発表の時とは全然違うんだ。もっと慎重に……」

「結婚式はビンゴで盛り上がるって決まってるんだよ。何だよ、簡単じゃないか」

「なんだ、おまえ……。その自信は……」

「大丈夫だ。教えてやるから準備は頑張れよ」

「ぷっ……くくくっ……。あはははは……。はははは……。ケインが散々頭を抱えて悩んでたのに……あはは……。即答されちゃったよ……あはは……。」


マリーは、腹を抱えて爆笑している。


「ヒカル。頼む……」


俺は、ビンゴのやり方を教えた。

ケインは大興奮し、これならいけると確信を持ったらしい。

豪華景品をどれだけ用意できるかが鍵である事、抽選数字を発表するときの演出でどれだけ魅せる事ができるかどうかがポイントである事も教えた。


それからしばらく経って、ケインとマリーの結婚式の日がやってきた。

結婚式には、マリオさん一家も呼ばれたが、マリオさん達は、貴族達の中に呼ばれるのは大変だからと断った。アリスも誘われたけど、いつもどおり店を営業するなら仕事すると言って断った。結局、俺だけが出席することになった。


店に迎えがやってきて、一度ケインの屋敷に連れていかれた。

使用人たちに着替えさせられた俺は、また似合わない衣装を着ている。

それから結婚式場に移動して、会場の豪華さに驚いた。

そこら辺に高そうな装飾品ばかりがあって、一つでも壊したらとんでもない事になりそうな気がしたので、隅っこで一人で大人しくしていることにした。

結婚式の時間になり、俺にはよく分からない内容の堅苦しい長いあいさつがあって、ケインとマリーの幼い頃からの話、馴れ初めの話などが続いた。そしてケインに福笑いの儀式を教えた人物として、俺の名前が挙がった。皆が一斉に俺の方に注目する。

恥ずかしい……。また晒し者……。

今日こそ大人しく過ごしたかったのに……。

その後、自由時間になり、たくさんの貴族達からここぞとばかり質問攻めにされた。

「あなたは魔術師ですか?福笑いの儀式を私にも教えてくれませんか?」

「たこ焼きと揚げたこ焼きを婚約発表パーティーの時に食べたの。あれもあなたが?うちに料理人として来ない?」

「ボーリングの話も聞いた。とても興味深いよ」


自由時間のはずだったけど、俺には一秒の自由も許される事はなかった。

中学生の時に出席した結婚式は、ひっそりしてたけど、今回は真逆だった。


それは何の前触れもなく、突然やってきた。

「皆様、今から一人一枚に係りの者が、ビンゴカードを配るので受け取ってください」


ケインの声が聞こえる。

同時に、ステージ上に抽選機が運ばれてくる。

で、でけぇ!!


ステージ上にケインとマリーが二人で歩いていく。


「なんだあれは!?」

「ええ!?何!?」

「ビンゴ!?なんだ!?」

「あの大きな物はなんだ!?」

「一体何が始まるんだ!?」


見た事のない巨大な抽選機に驚いて騒ぐ参加者達。

係りの人たちが、全ての参加者達にビンゴカードを配っていく。


「皆様、全員のお手元にビンゴカードは届きましたでしょうか?ビンゴカードはそのまま、何もせず持っていてください」


ケインが少しだけ待って確認する。


「数字が……並んでるな……」

「何かしら?」

「俺のと違う数字だな。おまえのは?」

「えっ?あんたのも違うのか?あんたは?」

「ええ?何なんだ?皆、違う数字だ……」


配られたビンゴカードをお互いに見せあって、さらに混乱する参加者達。


「配られたようなので進めます。人には見えない力が存在する事をご存じでしょうか?それは幸運という力です。幸運の力は調子の良い時、悪い時、さまざまです。今日は、皆様それぞれが持つ幸運の力を競い合って楽しみたいと思います。それがビンゴです。ここに抽選機を用意しました。この中に01から99までの数字が書いてある玉を入れます」


ガラガラガラ……と音がして、合計100個の玉が抽選機の中に入れられる。


「この中から福笑いの祝福を受けたマリーが、一つずつ玉を取り出します。マリーが取り出した数字で、縦、横、斜めのどれか一列がそろえばビンゴです。皆様、その場にお座りください。数字が残り1個になったらリーチと言って立ち上がってください。ビンゴになったら、すぐ手を挙げて知らせてください。前に来てもらい、豪華景品をその場でお渡しします」


「幸運の力を競い合う……?」

「男も女も年齢も何も関係がないわけね」

「面白そう」


参加者は皆、興味津々だ。


「ルールは、理解していただけましたね?それではビンゴ大会を開催します」


ケインの声と同時に照明が消えて、薄暗くなった。

自分の手元のビンゴカードの数字は、見えるくらいの照明だ。

明るいのはステージ上だけ。ケインとマリーさん。巨大抽選機が見える。


「一番最初の景品を発表します。福笑いの儀式を記した貴重なグリモアです。世界に一冊しかありません。効果がどれ程なのかは、皆様はよくご存じのはずです。これを読めば福笑いの儀式のやり方、儀式を行った事による代償も全ての知識が書いています」


要するに福笑いの遊び方を書いた本か……。

俺は、いらない……。


「おおおおおおおお!!」

「これはすごい!!欲しい!!手に入れたい!!」

「こんな貴重な物を!!」


参加者達の悲鳴にも似た声があちこちで響き渡る。

盛り上がってるな……。

まあ俺は、いらないけど。


「はーい。マリーでーす。皆、まず真ん中を穴開けてね。それじゃ早速、1個目の数字を引くね。……23番!!」


マリーが明るい声で言って抽選機の中から玉を選んで、数字を確認する。


「23番です。23の数字がある人は、カードに穴を空けてください」


もう一度ケインが数字を言う。


「次、いくよー。……19番!」

「19番です。19番の数字がある人は、カードに穴を空けてください」


どんどん数字が発表されていく。

数字を聞くたびに喜びと落胆の声が、あちこちで聞こえてくる。

盛り上がってるな。


立ち上がった人が4人出てきた。

俺は、縦に3個空いてるけどリーチではない。

いらないぞ。福笑いの遊び方の本なんて。

早く誰か、当ててくれ。


そしてついに当たった。

その人物は、結婚願望のある若い女性だった。

マリーさんの家柄であるモルフォード家と関係のある、マリーさんより年上の女性だった。


「うっ……ううっ……ありがとうございます……。マリー……私、絶対に幸せになってみせるね……。そしたら次の人にグリモアを渡すから……それまで、大切にするね……」


感極まって泣いて喜んでいた。

えっ……。次の人にグリモアを渡すって……?

ブ、ブーケトスみたいなやつ……?


良い人そうだな……。きっと良い人が見つかります。

幸せになってください……。


「皆さん。がっかりしないでください。景品は一つじゃない。まだあります。次の景品は聖剣ライオス。かつてドラゴン退治の英雄ライオスが実際に戦った時に使用した聖剣です。その昔、僕の先祖が当時生活費に困っていたライオスの子孫から高値で買い取った正真正銘の本物です。僕の先祖は、聖剣に全く興味がありませんでした。世界を救った英雄ライオスの子孫をただ助けてやりたかっただけ。ライオスの子孫は、その後、働いて聖剣を買い取ってもらった金額分の金を僕の先祖に返しました。僕の先祖は聖剣を返そうとしましたが、この聖剣を受け取ってほしいと言いました。代わりにある誓いを立てる事を約束します。わが家の家訓は、人を助けて生きないでどうする。人を助ける。その教えを未来永劫、子孫に必ず伝えていく事を約束しました。きっとライオスの子孫の中には、今も人助けという聖剣が心の中にある事を信じている。だから聖剣自体は不要品なのです。それが聖剣ライオスです」


「おおおおおお!?」

「ま、まさか伝説のドラゴン退治の!!」

「本物か!?」

「そんな熱い話が!!」

「欲しい!!」

「本物だと!?国宝じゃないか!!売ればとんでもない価値だぞ」


人を助けないでどうする。人を助ける……?

マリオさんが初めて俺を助けてくれた日に、俺に言ってくれた言葉と全く同じだ。

あれ……?ま、ま、まさか……!!

まさかマリオさんって……!!

ライオスの子孫なんじゃないか!?

これは絶対に欲しい。

俺が持って帰ってマリオさんに渡したい。

よしっ……!!


「じゃあ続きの数字にいくよー。……04番」


ない!!くそっ!!

すでにリーチが7人もいるのに!!


「次の数字はー。……87番」


きた!!


「リーーーーーーチ!!!!」

俺は全力で声を出して立ち上がった。

その余りにも力の入った俺の声を聴いて貴族達がクスクス笑う。


「そりゃ売りたいよな。良い金になるもんな……ぷっ……くくくっ……」


絶対に俺が取る!!

俺が聖剣ライオスを持って帰って、マリオさんに返すんだ!!

絶対に俺が取る!!


俺のリーチ宣言のすぐ後、次の数字を発表する前に中年の男の手が挙がったのが見えた。


「そんなっ……くそっ……」

俺は泣きたいくらい悔しかった。

あれが誰かに売られてどこかにいってしまう……。


ケインから聖剣ライオスを手に取った男性のカールは言った。

「これが聖剣ライオス。こんな国宝級の物を手に取る事ができて私は嬉しく思います。とても重い聖剣だ。装飾も素晴らしい。美術品としても希少品としても売りに出せばすごい事になるでしょうな。でもケイン様の口からあんな話を聞いてしまうと……。すみません、どうも歳のせいでしょうか。涙腺がゆるくなって……。ううっ……私は決めました。……必ずライオスの子孫を探して返します。この場でお約束します。もし私が死ぬまでに返せなかったとしても、ライオスの子孫に聖剣を返す。これをわが家の家訓として後世に伝えていきます」


うう……。悔しい……。

本当は俺が返したかったんだけど……。


「では次の景品に移ります。本物のドラゴンの鱗です。これは先ほどの聖剣ライオスに付着していました。こんな大きな鱗は、ドラゴン以外あり得ない。大変珍しい物です」


「おおおおおおおお!!!!!」

「す、すごい!!なんて大きさだ!!!」

「これは珍しい!!!!」


ドラゴンの鱗か……。

うーん、確かにすごいし、どんな硬さなのかとかは触ってみたいけど。

ああー、聖剣、欲しかった……。


「次の数字はねー。……47だよー」


手を挙げたのは、若い貴族の男ニック。


「うちは代々、海を統括する貴族です。ですが俺は海なんて嫌いです。我が一族の仕事が嫌いです。聖剣ライオスのドラゴン退治の伝説は、俺の憧れなんです。これがドラゴンの鱗か。硬いのかと思ったけど柔らかいですね。ライオスはこんな鱗を持つ巨大なドラゴンと戦ったのか。本当に勇敢だ。俺は海で泳ぐ魚なんか見るよりも巨大な姿のドラゴンを見たい。これは俺の夢への第一歩です。ありがとうございます。大事にします」


まあドラゴンの鱗が欲しかった人に当たってよかったんじゃないかな。

ちょっとだけ触らせてもらいたかったな……。

ドラゴンの鱗って柔らかいのかー……。


「次の景品です。希少価値の高い宝石で作られたパープルゴールドのネックレス。女性なら欲しいですよね?男性なら女性にプレゼントするときっと喜ばれます」


「じゃあこの玉にしようかな。……99番」


手を挙げた太った女性は、パープルゴールドのネックレスを首にかけた。


「とっても奇麗。でも私が付けるとあまり輝いてない気がする……。私みたいな太った容姿じゃ、全然似合わないわ。今、気づきました。私、このパープルゴールドのネックレスに似合う女になりたいと思います。自分を磨きます。痩せて奇麗になってパープルゴールドのネックレスに認められたら、きっとネックレスも奇麗に光ってくれるわよね」


自分磨きをするための動機になったのか……。

これは、この女性にとって良い景品になったに違いない。


「皆様、次が最後の景品になりました。これです。鍵です。何の鍵なのかは、当たった時のお楽しみです」


うん?鍵?

当たった時のお楽しみか。

まあ今、俺を含めてリーチが11人もいるし。

これは厳しいな。

うーん、リーチ止まりだな。

まあ楽しめたし、良いけどな。

そんなもんだよ。


「当たるといいね。次の数字、いくよー!……51番」


51……。

えっ、あっ……。


俺は手を挙げた。


「あはははは……ははは……あはははは。ヒカルさん、おめでとうー!!すごい!!あははははは……」

マリーが俺を見て大爆笑した。


「ヒカル、おまえが当てたか。やったな。おめでとう」

「何だよ。それ何の鍵なんだよ」

「おまえに土地とげえむ施設を完備した二階建ての屋敷をやる。これはその屋敷の鍵だ。大当たりだ」

「えええええーーーーーー!?」


会場がざわつく。


まさか土地と屋敷だなんて……。しかもげえむ施設!?

一瞬、不正なのではないかと思ったが、参加者それぞれにビンゴカードを適当にバラバラで配られたので、仕組むことはできない。

本当に偶然の結果だった。


「これは、おまえの幸運が引き寄せた結果だ。ビンゴの景品交換はご法度なんだろ?どんな物が当たっても運命に従え。拒否はできない。説明の時、おまえが僕に言ったんだ」


くっ……。

余計な事を言ってしまった……。

言い返す言葉はない。

これは完全に俺の負けだ。


「はぁ……。わかったよ」


こうしてビンゴ大会は、大盛り上がりで終わった。

その後、結婚式は終わり……。

二次会として、俺、ケイン、マリー、ベルナデッタでケインの屋敷に集まった。


「皆、今日は人生で最高の日だった。最高の結婚式ができた。本当にありがとう」

「ありがとうー。一生の思い出に残ったよ。ヒカルさんもベルちゃんも来てくれてありがとうー」

「お兄様もマリー様もすてきでしたわ」

「こちらこそ楽しかったです。呼んでくれてありがとうございました」

「まさかヒカルが鍵を当てるとは思わなかったな。屋敷の場所は、また近いうちに教えてやる」

「わかった」

「さて……前の時はキル酒で失敗したが、今度は大丈夫だ。しっかりとチェックしている。毒は絶対に入ってない。酒を飲もうではないか」

「あっ、俺はパス……。さすがに怖いわ……」

「まあヒカルは仕方ない。子供はジュースでも飲んでろ」

「そうするよ」

「ベルもマリーも飲むだろ?」

「うん、飲むー」

「ええ、いただきますわ」


ベルナデッタ、マリー、ケインはキル酒をグラスに注いだ。

俺は、オレンジジュースのようなものを一人グラスに注いだ。


「全員のこれからの幸せを祈って。乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

「か、乾杯……」


なんか一人だけジュースだと恥ずかしいな。

まあ仕方ないけど。


「ベル、おまえも早く結婚しないとな。好きな男はいないのか?」

「わ、私は……」


ケインがわざとらしく聞き、ベルナデッタは顔が赤くなっている。


「ねぇ、ベルちゃんはどんな人が好きなの?」

「えっ……。あっ……ええっと……」

「もうー、かわいいー。顔が真っ赤だよー。かわいいー」


マリーがさらに追撃し、ベルナデッタに抱き着く。


「ヒカル。おまえ、ベルをどう思う?かわいいと思うか?」

「えっ……。そ、そりゃ……まあ……すごくかわいいし……美人だと思う……」

「…………は…………あっ……ううっ……」

顔が真っ赤になっているベルナデッタは、下を向いた。

そして顔を挙げてキル酒を飲んだ。

本人を前にしてかわいいかなんて聞かれたら、かわいくないとか言えないし。

いや、実際、ものすごくかわいいけど……。


「そうか、かわいいか。そうだろ?そう思うよな?」

「な、何だよ……」

「ベルの事、かわいいって思うか?」

「おまえ、酔ってきたんじゃないか?」

「話を逸らすな。ベルがかわいいって思わないか?」

「やっぱ酔ってるよ」

「どうなんだ!」

「だから……かわいいって言ってるだろ」

「…………う…………はうっ……あうっ……」


また真っ赤になるベルナデッタ。

ベルナデッタは、さらにキル酒を飲んだ。


「そうだよな?かわいいんだよな?」

「おい……」

「僕はおまえを見るとイライラする」

「何だよ」

「男ならびしっと決めろ。そんなんだからおまえはだめなんだ。ベルの顔を見ろ」

「この状態でまともに顔、見られるかよ」

「ほら、見ろ」


ケインに顔を動かされ、無理やりベルナデッタの方を向かされる。


「ベル。僕はおまえも見ているとイライラする」

「えっ……ああっ……えっ……」

「ヒカルにベルって呼んでほしいんだろ?どうなんだ」

「えっ……。あうっ……。は、はい……」

「僕に言わせるな。自分の口でヒカルにちゃんと言え」

「……ヒカルさん。あのっ……ベルって……呼んでください……」


や、やばい……。

なに、この破壊力……。

心臓がバクバクと鳴り、なかなか落ち着かない……。


「…………わ、わかった……。ベ、ベル」


ベルは顔がさらに真っ赤になって、キル酒を飲んだ。


「頃合いだな」

そう言うと、ケインは立ち上がってどこかへ移動しようとする。


「おい、どこ行くんだよ」

「僕はやっぱり酔ってるみたいだ。少し……風に当たってくる」

「おい」


そう言うとケインは、部屋を出て行ってしまった。


「あはは……ふふふっ……。あはははっ……。もー、しょうがないなぁー。私は、ケインの様子を見てくるね」


マリーさんは、なぜか俺の肩にトンッと優しく手を置いてから部屋を出て行ってしまった。

ベルナデッタと二人きりになった。


な、何これ……。

何を喋ればいいの……。


「………………」

「…………………………」


意識してしまって何も言葉が出てこないんだけど・・・。

何か喋らないと……。


「あ、あの……ベ、ベルナデッタさん……」

「ベルって呼んでって言っちゃじゃないですかぁ」

「ああ……そうだった。すみません、ベルさん……」

「ベルさんじゃ嫌ですぅ。ベルって呼んでくださいって言いましたよぉ……」

「ああ、そうでしたね。すみません、ベル……」

「敬語も嫌ですぅ……。お兄様とかアリスと喋ってる時みたいなのがいいんですぅ……」

「ああ、ベルナデ……あっ、いや……ベルがそれでいいなら……」

「約束ですよ……?」

「ああ……わ、わかった……」

「…………」

「……………………」

何を喋ればいいのかずっと考えていると、ベルナデッタが俺の肩に頭を預けてきた。

さっきのケインとの会話で、ベルナデッタの事をかわいいと答えた自分の姿が頭をちらつく。


「えっ……あの……」

「触ってください」

「ええっ!?」

「頭を撫でてください」

「ええ……?」

「撫でてください」

「う、うん……」


ベルナデッタの頭を撫でた。

やばい……。すごいかわいいんだけど……。


「もっと撫でてください」

「う、う……う……」


さらにベルナデッタの頭を撫でた。

今度はベルナデッタが抱きついてきた。

心臓の鼓動が激しくなり、体が熱い。


「ええ!?ちょ、ちょっと……」

「…………」


ベルナデッタが体を密着させたまま、何も言わず離れない。

また、ベルナデッタがかわいいと答えている自分の姿が思い浮かぶ。


「あ、あの……」

「ヒカル様の匂い……初めて……嗅げました……」

「ええ!?え!?」

「アリスがずっと羨ましかったからぁ……」

「あっ……えっ……」


心臓が止まる……。やばい……。

これ以上鼓動が早くなったら死ぬ……。


「ヒカル様……。ベッドへ連れて行ってください……」

「え!?ベ、ベ、ベッド!?えええ!?えっ……」


だめだ……。だめだ……。だめだ……。

やばいやばいやばいやばい。


「んっ……ううっ……」

すぅー、すぅーとベルナデッタの寝息が聞こえた。


「……寝た?」

問いかけても何も返事がない。

すぅー、すぅーと寝息が聞こえるだけ。


キル酒、結構飲んでたもんな。

酔っちゃったんだな……。


そのままソファで寝てしまったベルナデッタをお姫様抱っこして、ベッドまで運んでいって布団をかけてあげた。


「んんっ……。ヒカル様……」

「ん?」

「好きです……」

すぅー、すぅーとベルナデッタの寝息が聞こえる。


「……………………」


な、なんで……。

俺……人の寝顔ずーっと見て……。

まだ心臓の鼓動が激しい……。

くそぅ……早く落ち着けよ……。

……やっぱり酒は……怖い……。


「ベル……。おやすみ」


俺は、明かりを消して音を立てないようにそっと部屋を出た。

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