第24話 グレンヴィルの家紋の意味を探せ 3

ヒカル、ケイン、アリス、ベルは、ケインの屋敷の中にある調理場に行った。

ヒカルは、クーラーボックスからムーを一匹取り出して、まな板の上に置いた。


「さて……俺も生きたままのたこ……いや、ムーを調理するのは初めてだ。昔、夏休みに、おじいちゃんと釣りに行った時に釣れて、おばあちゃんが捌いてるのを見てて、なんとなく覚えてるんだよ。えーと……まずは、鱗を取るか。たこ……いや、ムーに鱗がある事にビックリだけど、まあ簡単に取れそうだし多分問題ないだろう。まずは、絞めるか。たしか……眉間の間のところに包丁を入れていたな……。こんなもんか」


ヒカルが包丁を入れると、ムーの動きが鈍くなった。


「頭をひっくり返して、内臓と卵を取り出して……」


ムーの不要な部分を取り除いていく。


「きゃああああ。……ヒ、ヒカル様。そんな気持ちの悪いもの、よく触れますわね」

ベルがまた叫ぶ。


「し、師匠……。海の悪魔を食べようだなんて、師匠は本当に人間なんですか?」

アリスには、人間じゃないのかもしれないと疑われてしまう。


「捌いて……それで次はどうするんだ?」

ケインもヒカルの包丁捌きに見入ってしまう。


「塩水で洗ってぬめりを取って、よく揉んで……と」


ひたすら揉み続ける時間が続く。


「……おい、いつまでやるんだ」

長い時間揉み続けるだけなので、ケインがうんざりして聞く。


「ぬめりがなくなるまでだよ。まあこんなもんでいいかな。ちなみに足先は、切って捨てた方がいい。毒はないけど雑菌がある可能性があるから念の為に……。よし、ちょっと試してみるか」

「試す?何をですか?」

アリスが興味深そうに聞く。


「俺の知ってるたこ……いや、ムーなら湯に通すと真っ赤になるはずだ」

「何を馬鹿な事を言っている。どう見ても茶色いムーが、真っ赤になんてなるわけがないだろう」

「これで真っ赤にならなかったら、俺もどうなるか分からなくて怖いから、食うのは諦めるよ」


そう言うと、ヒカルはムーを湯につけた。

ムーは、一気に真っ赤に染まる。


「おおおおお!?本当に真っ赤になった!!」

ケインが驚きの声をあげる。


「本当だ!!師匠は、海の悪魔の知識まで持ってるんですね!!」

アリスも感動している。


「真っ赤になった事で、なんだか余計に悪魔に見えてきましたわ。海の悪魔の怒りといいますか……本性が現れたみたいに見えてしまって……」

ベルは恐怖を感じている。


茹で上がって真っ赤になったムーを包丁で一口サイズに切って、ヒカルは口に入れて食べてみる。


「うん。やっぱりたこだ。この味、間違いない。大丈夫。食べられる。皆、食べてみる?」

「いや……僕は遠慮しておく」

「師匠……私もさすがに無理です……」

「私も遠慮しておきます……」


3人とも引いている。


「そう?たこ……おいしいのに」


一度、地球で激痛の中での死を経験し、異世界で生きるため、いろいろな物を食べてきた。さらに初めて飲んだ酒の毒でも死にかけたヒカルにとっては、鱗が付いているたこを食べる事くらいの度胸は、ついていた。


「ヒカル。お前の料理に付き合っている時間はない。僕は忙しいんだ。グレンヴィル家の家紋の謎を解き明かさなければならない。これは大事な試験なんだ」


ケインはヒカルにムーを渡して、部屋でじっくりとこれまでの事を整理する事にした。


聖剣ライオスの伝説は、偽物だった。聖剣ライオスで倒したドラゴンの正体は、トカゲであった。そして聖剣ライオスに付いていたドラゴンの鱗の正体は、巨大なムーの鱗だった。これで二つの謎の真実がそれぞれ分かった。

だがこの二つの点がどうしても結びつかない。何度考えたところでケインは、分からなかった。


「はぁ。ダメだ。ギブアップだ」


それからついにアーノルドとの約束である一カ月後がきた。

ケインはアーノルドの元を訊ねた。


「お爺様。ケインです」

「入りなさい」

「お爺様。今日が約束の日です。聖剣ライオスの伝説は、偽物でした。聖剣ライオスで倒したのはトカゲの尻尾でした。そしてドラゴンの鱗とは、巨大なムーの鱗でした。僕にはここまでの事しか分かりませんでした。ですが、この二つの点に関しては、どうしても結びつかない。何度考えても分かりませんでした」

「ケインよ。よくここまで調べ上げたな。よくやった。合格だ」

「えっ……?合格?」

「お前に全ての謎の答えを話してやろう」


アーノルドが話したのは、聖剣ライオス伝説の真相だった。


「ライオスの子孫は、金に困っていた。腹を空かせ途方に暮れていたある日、ついに盗みを働こうとした。金を持っていそうなグレンヴィル家の屋敷に忍び込んだライオスの子孫は、見つかって捕まってしまった。話を聞いた私のお爺様は、盗みの罪を許し、そして聖剣ライオスを高値で買い取り、ライオスの子孫を助ける事にした。ライオスの子孫は感謝し、我が家の家訓は人を助けて生きないでどうする。人を助ける。とし、後世に伝えていくと約束した。こうしてライオスの子孫からグレンヴィル家に、聖剣ライオスが渡った。そして聖剣ライオスの昔話を聞いたお爺様は、この話をとても気に入った。そしてトカゲを我が家の家紋とした。そして世代は、私の父上の代となった。父上は聖剣ライオスなんぞに興味はなく、のんびり船で釣りをするのが好きな男だった。ある日、父上は巨大なムーを釣り上げた。好奇心旺盛な父上は、ムーを解剖してみようと思い、屋敷に持ち帰った。そして解剖する時、近くに手ごろな刃物があった。それが聖剣ライオス。父上は聖剣ライオスを使い、ムーを解剖した。その時に巨大なムーの鱗が、聖剣ライオスに付着した。そして聖剣ライオスを見たいと訪れてきた者に、これはドラゴンの鱗だと冗談を言った。それが今日まで語り継がれてきたのだ」


「そ、そんな真実だったのですか……。結局は昔の人達の冗談が、伝説となったという事ですか。それではドラゴンもいなかったし、実際にドラゴン退治をした証拠である鱗があるという話もなかったんですね……」

「フフフ。ハハハハハ。アハハハハハ」

「お、お爺様?」

「いや、何でもない。ケインよ。お前には、この家紋がトカゲに見えるか?」

「どういう事ですか?トカゲですよね」

「私が昔、お前が小さい頃にトカゲではなくてドラゴンだと言った事を覚えておるか?」

「覚えてますよ。しかしそれは、まだ僕が子供の頃の話で……」

「いつかお前にも、これがドラゴンに見える日が来るといいのお。ハハハハハハ」


ケインは、アーノルドの言った言葉の意味が分からなかった。こうしてグレンヴィル家の家紋の謎解きは、終わりを迎えた。


「うん?……では、僕もそろそろ行きます。失礼します」


ケインはアーノルドの部屋を出て行った。


「………行ったか。もういいぞ、ゴンちゃん」

「全く。お前もイタズラ好きな爺さんだ」

「ハハハハ。そういうゴンちゃんだって、いつも乗ってくれるではないか」

「私の事は、ケインにはまだ話さないつもりか?」

「そりゃそうじゃ。ワシが死ぬ間際に教えてやって孫の驚く顔が見たいんじゃ。まさかライオスが戦ったトカゲは、本物のドラゴンの変化した姿だと知ればさぞ驚くだろう。グレンヴィル家の家紋は、トカゲに見えるが本物のドラゴンなのだと。ずっと家紋はトカゲだと思っていたケインが、家紋が全知全能を司る本物のドラゴンであると知った日。そしてそのドラゴンを歴代の祖父から孫に一世代を飛ばして、ペットとして継承される事を知った日には、ケインも驚くだろう。ワシもお爺様からお前を受け取って正体を知った時は、本当に驚いたさ。ヒントとしてドラゴンのゴンちゃんって名前にはしてるんじゃがのぉ。まあ今度はワシが驚かせる番じゃ♪それにゴンちゃんのトカゲの演技も結構、様になってきておるぞ」

「役者歴は長いからな」

「ハハハハハハ」


いつの日かケインは、知る事になる。

グレンヴィル家の家紋は、トカゲに見えるドラゴンである事に。

そしてそのドラゴンをペットとして受け取り、孫の代へと受け継ぐことになる。

これがグレンヴィル家の秘密のひとつである。




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