第22話 グレンヴィルの家紋の意味を探せ 1

ケインは、目の前にある扉をノックした。

かなり胸がざわついていた。

これから何が起こるのか全く予想ができない恐怖で頭がいっぱいだったからだ。


「お爺様。僕です。ケインです」

「入りたまえ」


部屋の中から男の低い声が聞こえてきた。

声を聴くだけで迫力がある。

使用人2人とケインは、緊張したまま部屋に入った。

そこには白髪の長い髪をした老人、ケインの祖父であるアーノルド・グレンヴィルの姿があった。

椅子に座ってこちらを見ている。

いつ見ても迫力がある。


「ケイン、よく来たな。元気か?」

「はい。この通り健康です。お爺様もお元気そうで何よりです」

「今日呼んだのは、お前に大事な話があるからだ」


そう言うと、アーノルドは立ち上がって窓の方に歩いて行って、窓から外を見た。

アーノルドが立ち上がって、窓の外を見る。

ケインと使用人二人は、恐怖で足が震えていた。

次に発せられる言葉が、怖くて怖くてたまらなかった。

何を言われるんだろう……。



「……………ケインよ。グレンヴィル家を継ぐ覚悟はあるか?」


ついにこの時が来てしまった。

16歳でマリーと婚約し、ケインはグレンヴィル家を継ぐ器なのかどうかを祖父から試される時。

いつかその時が来ると覚悟はしていたが、その重さに色んな思いが頭を駆け巡る。

だけど、僕は前を進むしかない。

それしか道はないのだからと、ケインは覚悟を決めた。


「はい。覚悟はできています。僕はグレンヴィル家を継ぎます」


「……………よろしい。ケインよ。自らの足を使い、グレンヴィルの家紋の意味を調べて答えを見つけなさい」


グレンヴィル家の家紋の意味……?

それは、グレンヴィル家を作ったご先祖様がトカゲ好きだったからではないのか?


「グレンヴィル家の家紋……ですか……?」

困惑するケインは、アーノルドに尋ねてしまった。


「…………ここから先は、ケインと二人で話がしたい。お前達は部屋を出て行きなさい」


「し、失礼します」

「は、はい」


そう言って、使用人二人を部屋から追い出してしまった。

使用人達もアーノルドの迫力に威圧されて、素早く部屋から出て行ってしまった。


部屋から出て行った使用人達の足音が聞こえなくなり、アーノルドの口が開いた。


「…………もういいかの?」

「ええ、大丈夫です」


その声が聞こえた瞬間、一気に緊張して張りつめていた空気が消えた。


「ああー、疲れたわい。やっぱり貴族の頂点でいるって疲れるわい。ケイン、早くお爺ちゃんに楽させておくれよ。早くグレンヴィル家を継いでおくれ」


アーノルドは、物凄く強面の顔だし迫力がある。

しかしケインやベルの前では、全然怖くない。

むしろ優しい祖父だ。

これを知っているのは、アーノルドとケインとベルだけだ。

世界中を飛び回っている両親も知らない。

皆、アーノルドは怖い人であるという印象を持っている。


「お爺様。それでグレンヴィル家の家紋の意味って何なんですか?」

「ケインよ。それを苦労して自らの足で調べて頭で考えて答えを出す事こそが、グレンヴィル家を継げるかどうかの大事な試験なんじゃ」

「家紋の意味っていうのは、ご先祖様がトカゲ好きって事じゃないんですか?」

「お前にヒントをやろう。聖剣ライオス、ドラゴンの鱗。お前の結婚祝いに渡した代物じゃ。これがヒントじゃ」

「聖剣ライオスとドラゴンの鱗……。しかし、それは、ビンゴ大会で他の者の手に渡ってしまいました」

「己の力で頑張ってみなさい。お前には、考える頭と動く手足がある。さあ行きなさい。簡単な試験ではないぞ。迷いながら答えを出して1ヶ月後、またここに来て答えを聞かせてみなさい」

「わかりました‥‥…」


聖剣ライオスとドラゴンの鱗か。

グレンヴィル家の家紋と何の関係があるのか分からないが、まずは聖剣イフリートから調べてみるか。


聖剣ライオスは、ビンゴ大会で中年の貴族の男の手に渡ったのだったな。

まずは彼に連絡を取ってみるか。


「お前達。結婚式のビンゴ大会で、聖剣ライオスを手に入れた男の元に行くぞ。馬車を出せ」


馬車を出して3日間かけて、聖剣ライオスを持つ男の屋敷に向かった。

名前はカールという男だ。


「ケイン様。お久しぶりです。遠路はるばるお越し下さり、ありがとうございます。結婚式以来ですね」

「カール。久しいな。早速で悪いんだが、聖剣ライオスの持ち主は見つかったのか?」

「いいえ。色々と探し回っているのですが、全く見つかりません。やはり一筋縄ではいかない代物です」


手掛かりはなしか。

どうやらマリオまでは辿り着いていないようだな……。


「実はな、マリオという腕の良い職人の男がいてな。彼は、自分がイフリートの子孫だと言っている。想像していたよりも近いところに手掛かりになりそうな人物がいたんだ」

「それは本当ですか!?」

「ああ。聖剣ライオスを持って、僕と一緒にマリオの元に来て貰えないだろうか?」

「それは願ってもない事です。是非、ご一緒させて下さい」


聖剣ライオスの現在の所有者であるカールと一緒にマリオのいる工房へと向かった。


「あれ?ケイン様!?どうしたんですか?こんなところに。それとそちらの方は……」

「マリオ。以前、ライオスの子孫だと言っていたな。詳しい事を話してくれないか?彼は、聖剣ライオスの持ち主の貴族のカールだ。ライオスの子孫を探している」

「ええ、まあ……。あまり良い話ではないですけど、できれば他言しないで頂けるとありがたいんですが……」

「わかった。約束しよう」


マリオが語ったのは、ライオスという人物の事だった。

ライオスは、腕の良い職人だった。

色んな物を作ったり直したりして生計を立てていて、村の人達に喜んで貰っていた。

ライオスの性格は、一言で言うと明るい。

人を笑わせるのが好きな馬鹿な事ばかりする職人の男だった。

皆の人気者だった。


その日、ライオスは剣を作った。

装飾や切れ味、何を持ってしても自分の中での最高傑作と呼べる良い剣を作れた。

ライオスは、皆にこの剣を自慢したくなった。

しかし、良い剣ができたと普通に見せるだけでは、凄いと言われるだけで終わってしまう。これでは面白くない。

そう考えたライオスは、木材を集めるのを手伝って欲しいという口実で仲間数名を集めて、森へと向かった。その道中、大きなトカゲを見つけた。

剣を自慢するタイミングはここだと思ったライオスは、皆に向かって言った。


「皆、大変だ!!伝説のドラゴンがいる!!俺がこの剣であいつを倒す!!うぉおおおおおお!!!」


そう言ってトカゲの尻尾を斬ってみせた。


「あいつ、どうせまた尻尾生えてくるからいいだろう?それよりこの剣見てくれよ。俺の自信作の剣だ」


と言った。


「お前、剣見て欲しさにドラゴン退治かよー。ドラゴンじゃなくてちょっと大きなトカゲじゃないか。ほんとライオスは、馬鹿な奴だなあー」


それを見た仲間達は、大爆笑だった。

仲間達は、帰ってからその出来事を町中の人々に広めた。


「ライオスが伝説のドラゴンと戦った。それまあトカゲなんだけど。あいつ凄い雄叫びをあげながら、トカゲの尻尾だけ斬ったんだ。その理由が自分が作った剣を見て欲しかったからなんだ。あいつやっぱり馬鹿だよ」


町中の人が大爆笑だった。ライオスは、村中の人から声をかけられた。


「イフリート、ドラゴンと戦ったんだって?お前、男だな。はははははは」

「勇敢に戦ったのね。それが剣ね。余程お気に入りなのね。いつも持ち歩いてるなんて。あはははは」


皆に笑ってもらえたし、剣に注目してもらえた。

気を良くしたライオスは、仲間たちと出かける度に何度も大きな同じトカゲに出会って、その度にトカゲの尻尾を斬りまくった。

最初はまたやってるよと笑っていた友達だったが、何度もやっているとウケなくなってきた。

そこでライオスは、また考えた。


「皆、今日、俺はドラゴンと決着をつける。一緒に来てくれ」


ついにトカゲを斬る事にしたのかと思った仲間たちは、ライオスと一緒に森へ行った。


「おい、ドラゴン。今まで尻尾を散々斬って悪かったな。もうお前の尻尾を斬るのはやめる。痛かったろ?……お前を俺のペットにする!俺が最後まで責任を持って飼う!これで俺は英雄だ。ドラゴン討伐だ」


仲間達は、ライオスがただの優しい馬鹿である事を知っていた。

ペットとしてトカゲを飼う事を決めたライオスの事は、村中に知られていった。

その話が村を出ていった者達や村に来た者達を通じて面白おかしく変化していき、ライオスはドラゴンを討伐して世界を救った英雄になった。いつの間にか、ドラゴンを倒した英雄ライオスの話が出来上がってしまった。


「……まあこれが英雄ライオスの真実なんです。つまりあれです。俺のご先祖様が馬鹿ばっかやったせいで、皆とんでもない勘違いをしてるんです。小さな男の子達の憧れの英雄ライオスは、実在しないんです。嘘なんですよ。だからアルトには、出来れば知られたくなくてですね……。自分は嘘つきの子孫なんだと思ってショックを受けないかと心配でして……。事実を知ってしまった時の為に、ライオスさんじゃなくて俺が作った聖剣ライオスを見て、立派な英雄になれよって事で、あの斬れない聖剣ライオスを作ったんです。だから俺は、アルトの親父として目標になるように、立派に生きたいと思ってるんです」


マリオは、手で頭を掻きながら恥ずかしそうに語った。


「なるほど。それで本物の聖剣ライオスとマリオさんの作ったライオスの剣があるんですね。マリオさん、私はこの本物の聖剣ライオスの持ち主をずっと探していました。あなたにお返ししようと思います。これは国宝です。何か困った事があれば、これを売れば資金を作る事ができます。お受け取り下さい」


聖剣ライオスの持ち主であるカールは、マリオに剣を手渡そうとした。


「いえいえ、そんなもの受け取れません。俺が持つべきではないです。何も真実を知らないまま、聖剣ライオスの話が好きな人にそっと譲ってあげてください。そうやって愛される方が、この剣にとっても本望でしょう」


しばらく貴族の男とマリオの聖剣ライオスの押し付け合いが始まっていたところに……


「おっ、いたいた。マリオさーん。レインさんから差し入れです。持って行ってあげてって言われたので、たこ焼き持ってきました。……って、あれ?ケイン?あっ!!聖剣ライオス!?ええ!?名前忘れちゃったけど、ビンゴで聖剣ライオスを当てた人ですよね!?ってことは、それ本物の聖剣ライオス!?」


そこにタイミングよくやってきたのが、坂城光だった。


「ヒカル……。お前、聖剣ライオスが欲しかったと言っていたな。ビンゴ大会でリーチ!って物凄い気迫だったな。彼もマリオも聖剣ライオスがいらないと言ってる。お前、貰ったらどうだ?欲しかったんだろう?」


「いやー、俺が欲しかったのは、マリオさんに返せると思ったからだよ。別にそこまで欲しかったわけじゃ……」


(そうやって皆してワシを押し付け合うのやめてくれんかのぉ……。ワシ、なんだか悲しいぞ……)


「は?」

「どうした、ヒカル」

「今、誰か押し付け合うのやめろとか言わなかった?」

「いいや」

「何も言ってないぞ」

「ええ、私も」


(そこの者。まさかワシの声が聞こえておるのか!?こっちじゃ、こっち。ワシじゃよ、聖剣ライオスじゃよ!!)


「えっ……。今、剣が喋った……?」

「ヒカル、お前何を言っているんだ?」

「今、聖剣ライオス、喋らなかった?」

「剣が喋るわけないだろう」


ケインは、訳が分からない事を言うなという感じで、全く相手にしない。


「マリオさん。ひとまずこの剣は、マリオさんにお返しします。私は所有権を放棄します」

「ああー、参ったなぁ……。ヒカル。お前さん、この剣欲しかったんだよな。これ受け取ってくれよ。俺も必要ないんだ」

「ええー……。いやぁ……俺は、別に……」


(黙って受け取るのじゃ。とにかく受け取るのじゃ。頼むから受け取ってくれ。頼む。後で色々説明するから、とにかく受け取ってくれ)


なんか嫌だー。なんか喋ってるし。

こんな気持ち悪い剣いらないんだけど。

まさか妖刀じゃないだろうな……。

ヒカルは、渋々受け取る事にした。


マリオさんに強引に聖剣ライオスを押し付けられた。


「ううん……。わ、わかりました……。じゃあ……受け取ります」


どうしよう……。

たこ焼きの差し入れ頼まれて持ってきただけなのに、国宝の剣、手に入れちゃったよ……。しかもなんか喋ってるし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る