第20話  福笑いのグリモア 2

「それでね、そんな福笑いのグリモアをビンゴでもらった私の友達の女の人がいたでしょ?」

「ああ、いましたね。泣いて喜びながら幸せになって、次の人にグリモアを渡すんだって言ってました。すごく良い人そうに見えました」

「そう-!そうなんだよー!実際、本当にすごくいい子なの!結婚式の後、不思議な事に、ヒカルさんと同じように良い人そうに見えた彼女に、好感を持った独身の男の人たちがどんどんアプローチしてきたの。その中の一人の男の人とすぐ良い感じになって結婚しちゃったよ。早かったぁー。すごい効果だったんだー。本は触っただけで開いてないの。まあ彼女は大人しくて目立たない人だったから、ビンゴ大会で目立った事で男の人に知ってもらったのかなって」

「それは、すごいですね」

「そしたらその話を聞いた結婚式に出席してる独身の女友達が、次は私に!いや、私に!私が友達よね。私に頂戴!って特に仲の良い3人の女友達が福笑いのグリモアの奪い合いが始まったの。そしたら、お互い相手の事を悪く言うような言い合いになって大変になってさー」

「ああ……」

「でもビンゴ大会は開いてないから、抽選でって訳にも行かなかったから、グリモアの本を宙に投げて、最初に拾った人の物って事になったの」


グリモアの本がブーケトスに……。

やっぱりこういう展開に……。


続いてマリーさんは、さらに結婚式での事を語ってくれた。


「ねぇねぇ、ケイン。このままだと大変な事になるよー」

「ああ……。やはりおかめさんの力は強力だ。幸せを求める者を引き寄せすぎて争いになってしまっている。一体どうなるんだ!おかめさんは何がしたいんだ!僕には分からないよ!このままでは結婚式が大変な事になってしまう」

「あっ……」

「マリー、どうしたんだ?」

「ケインも奪い合いに参加しに行った方が良いよ」

「えっ?僕がまた福笑いのグリモアをもらうのかい?」

「ケイン……。おかめさんが呼んでるよ。私、声が聞こえてるよ。大変だよ!ケイン、顔が白くなってきてるよ!大変!!なんか体も女の子みたいになってきたよ!急いで!早く!!女の子になっちゃう!!」

「ええええっ!?顔が白くなって、女性みたいに!?僕の体はどうなっているんだ!?」

「しーっ。静かに!おかめさんの声がする!ケインよ。彼女たちの前に出て、福笑いのグリモアを僕にくださいと大きな声で言いなさい……だってさ!」

「ええ!?そ、そんな事をして大丈夫なのかい!?わ、わかった!!なんかよく分からないけど行ってくるよ」


ケインは訳が分からないまま、急いでブーケトスの奪い合いに行った。


「おい、あれケイン様じゃないか!?」

「なんでケイン様が!?」

「何だ!?なんだ!?」


「福笑いのグリモアを僕にください!!!!!!!」

ケインは大きな声で叫んだ。


皆が一斉にケインに注目する。


「えっ……。おかめさん!!僕は言われたとおりにしました!!な、何かおっしゃってください!!このままでは、僕は、彼女達のように顔が白く……女性らしくなってしまいます!!僕は、マリーが好きなんです!!女性になるのは困ります!!僕は男としてマリーを守りたいんです!!どうか……どうかそれだけは……お許しください……」


ケインは、ひざまずいて祈りを捧げた。

3人の女性達は、それを見てハッと何かに気づいて、仲良く同時にグリモアに手を触れた。


「ケイン様!?福笑いのグリモアからおかめさんの声が聞こえたのか!?さすがは、伝説の魔導書だ」

「ケイン様……。女性に一切恥をかかせる事もなく、自分を笑い者にして守ったのか。なんて男だ。器が違う……。さすがはグレンヴィル家の跡取りだ」

「ケイン様、本当に恰好良いわ」

「あれがケイン様だ。やっぱりケイン様は、すごい人だ」

「あれが真の男の姿だ!」


皆、ケインの恰好良さに感動した。

当の本人であるケインは、何が起こったのかさっぱり理解していなかった。

その後、すぐ女性達のけんかは収まり、自分は男としての評判が挙がっている。

あれ?どうして?

その場で跪いたままの状態で、ケインは、呆然としていた。


その後、福笑いのグリモアは、ブーケトスとして投げられる事はなかった。

彼女達のように顔が白く女性らしくなってしまうというケインの一言を聞いた3人の女性達は、このような場で争う自分の姿の醜さに気づいたのだった。

そして三人でお互いに話し合って仲良く順番を決めた。

彼女達は、後に福笑いのグリモアの本を開いてしまう事になる。


そこには、ケインのマリーさんへの一方的な12年間の愛の記録が書かれていた。

私たちは、女性らしく努力しなければ愛されないという事を痛感した。

この本は女性に読んでもらうべきだと三人ともが考えた。

男性が読むときには、軽い気持ちで読むのではなく、覚悟を持って読んでもらうべきだと考えた。そしてケインのマリーさんへの思いの形となった福笑いのグリモアの本を大切に扱わなければならない。そんなものを絶対に投げる事など許されない。

恥をかきながら自分たちを守ってくれたケインに対して、彼女達は、福笑いのグリモアは女性に渡す物で、安易に男性が中身を見ると、ケインのように体を操られ、おかめさんの洗礼を受ける事になると言い広めた。

3人の女性達は、こうして福笑いのグリモアを守り伝える3人の騎士となった。

これは、後に福笑いのグリモアを守る3人の女騎士の物語として後世に伝えられていく事になる。


「えっと……。つまりマリーさんがケインを脅してお願いしたって事ですか?」

「ううん。おかめさんの声が聞こえただけだよー♪でもあのケインの顔が面白くてさー。ぷっ……くくっ……あはははははは」


マリーさん……。

女の人って怖い……。


部屋のドアが開いた。

ケインが入ってきた。


「ヒカル。来ていたのか。マリーと二人で何を話してたんだい?……ああ!?そ、それは!!」

「福笑いのグリモアの原本だよー」

「マ、マリー!!ダメだ!!やめるんだ!!おい、ヒカル!それは危険な物だ!!男が見てはダメなんだ!!触るな!!見るな!!」

「…………そ、そうか。そんなに危ないなら……やめておくよ……。じゃ、じゃあ俺、帰りますね……。用事があるし……。マリーさん、せ、せっかく見せてくれようとしたのにすみません。あ、ありがとうございました」

「あー、残念だったなぁー。またねー、ヒカルさん!」


見たけど……。

もう見たけど……。

この福笑いのグリモアの背後にある恐ろしさと、ケインが馬鹿な事だけは、本当によく分かったよ……。

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