第6話 ジェンガを教えてしまいました
ある日、ケインの使いの人が店に来て、俺をケインの屋敷に招待したいから来てほしいと連絡があった。まあなんで呼ばれたのかは、大体察しがついている。最近、店に来るお客さん達の間では、この話題で持ちきりだからだ。
「ケイン様がマリー様を笑わせたらしいぞ。お屋敷中に聞こえるくらいの大爆笑だったそうだ」
「二人は幼馴染で12年間、マリー様の元に通って話し続けていたケイン様の思いが、ついにマリー様の元に届いたらしい」
「すてき!」
「きっかけは、福笑いという禁断の儀式で、おかめさんという神様は、この世で最も強力な神様らしい」
「ああ、必ず幸せにしてくれる神様らしいな」
「ただのうわさじゃないの?」
「それが真実なんだよ。12年間笑わなかったマリー様が屋敷中に聞こえる程の大爆笑だったんだ。間違いなく本物の神様さ。いろいろなところから最近マリー様がよく笑うという話を聞くぞ」
「いいなー。私も福笑い、やりたいなー。すてきな人と結ばれたい」
「福笑いってどうやるの?知らない?」
「分からない」
この話は、福笑いの奇跡として人々の間で広まった。
俺は店の中で聞こえてくる会話を聞きながら、店の外へ出た。
店の外には迎えの人が来ていて、そのまま馬車に乗ってケインの屋敷に行った。
ケインの屋敷は、想像以上に大きかった。トカゲのマークがついている。
で、でけぇ……。
本当に立派な貴族だったんだな……。
「ヒカル。よく来てくれた。上がってくれ」
「ああ、どうも。お邪魔します」
部屋に通されて、高そうなアンティークティーカップに入った紅茶とお菓子を出された。
うわ、これは……。
絶対割らないようにしなければ……。
「ヒカル。福笑いでマリーが笑ったんだ」
「そうですか。それは良かったですね」
もうすごい聞こえてくるから知ってるけどね。
「これでおまえは、おかめさんにならなくて済むよな?」
「……いや、一生、幸せでないといつおかめさんになるか分かりません。油断してはいけません」
「そ、そうなのか!?なら僕も幸せにならないと……おかめさんに……」
余りにも深刻そうな顔をするケインを見て、俺は笑ってしまった。
「ぷっ……くくくっ……」
「な、何がおかしい!」
「いえ、何でもないです。まだおかめさんになってないって事は、俺たちは今、幸せだって事ですよ」
「ま、まあ……それはそうだ。それよりもおまえに、まずは礼を言いたい。この度は本当に世話になった」
ケインは深々と頭を下げた。
なんだ。偉そうだけど礼儀正しいところもあるんじゃないか。
「いいですよ。俺は福笑いを教えただけなんで。頑張ったのはケインさんですよ」
「いや、おまえがいなければマリーを笑わせられなかった。本当にありがとう。それで約束の謝礼だが、金貨1万枚でどうだろう?」
金貨ってどれくらいの価値なんだろうか。
そういえば俺、金銭感覚がないようなものなんだよな。
レインさんの店では、銅貨しか聞いた事がないし。
多分銀貨とか金貨もあるんだろうなくらいの予想しかできない。そんなレベルだ。
まあ福笑いセットあげたくらいなら、たこ焼き10個入りでももらえりゃ十分だろう。
でも別にたこ焼きならレインさんに言えば、いつでも作ってくれるしな。
「いえ、別にいらないですよ」
「なんだと?金貨1万枚だぞ?」
「こんな立派な屋敷に招いてくれて、うまい紅茶とお菓子をもらえただけでも十分ですよ。貴重な経験ができました」
「客人が来たら紅茶と菓子くらい用意するのが礼儀だろう。頼み事を聞いてもらい、何の礼もしないなんて貴族として恥ずかしいだろう。僕の気が収まらない」
「いや、ほんと。全然……お気になさらず」
「ふふ……。おまえは本当に変わったやつだな。なら僕は決して裏切らないおまえの親友になるというのはどうだ?」
「あー、友達ですか。じゃあそれでいいですよ。俺、歳の近い友達いないし」
「ヒカル。おまえ何歳だ?」
「16歳です」
「なんだ、僕と同い年じゃないか。もうおまえと僕は親友だ。敬語も辞めろ」
「あー……うん、わかった……」
「なあ、ヒカル。僕たちは親友になった。だが僕は、おまえの事をまだ少ししか知らない。おまえの事を教えてくれないか?生まれはどこだ?」
「んー、実はよく分からないんだよね。森の中で倒れてたのをマリオさんに助けてもらって、それから今日までマリオさんの家で世話になってたから」
「記憶喪失という事か?過去の事は何も覚えていないのか?」
「いや、まあ……。覚えてるけど多分信じられない話だと思うから、言っても意味がないというか……」
「だが本当の事なんだろう?」
「まあそうだけど……」
「なら僕に話してみろ。親友の事を疑わない」
自分が地球という惑星の日本の東京で生まれた事。
両親と妹の四人家族で暮らしていた事。
隕石が落ちてきて地球が滅んだ事。
死んだと思ったけど、次に目を開けたらマリオさんの家のベッドの上だった事。
なぜか言葉が分かり、書いてる文字も日本語じゃないのに理解できる事。
オセロ、トランプ、福笑いも全てが地球の遊びである事。
状況を正直に話した。
「まあ信じられない話だろ?忘れてくれ。診てくれた医者も言ってたけど、きっと記憶が混乱してるんだろ」
「オセロ、トランプ、福笑い。それにさっきペンで書いたニホンゴという奇妙な文字。分からない事は多すぎるが、おまえがうそをついてるようには思えない。常識が通用せず受け入れられないのは事実だが、おまえは非常識だから逆に納得した」
「何だよ、ひどい納得の仕方だな」
「親友だろう?信じるさ。しかしそうなると、おまえは、いろいろと厄介な存在になる」
「どうして?」
「地球という星で作り上げられた全く異なる成長を遂げて発展してきた文明の知恵や技術を、おまえは持っているわけだ」
「いやいや。俺は普通の高校生だし、人に誇れるすごい特技を持ってる訳でもない」
「だが、たこ焼きやゲームは知っている。当然、他にもあるだろ?」
「…………いや……まあ、でもそんなの誰でも……」
「滅んでしまった地球の文明を知っている唯一の男。それがヒカル。おまえだ」
「うーん、そこまで深く考えた事がなかったな。別に生きてきて当たり前に知った事だからな。こっちに来てからも、なんとなく流れで毎日を生きてたし」
「おまえの正体は人に喋らない方がいい。おまえを利用しようとする奴で溢れかえるだろう。これは僕とおまえだけの秘密だ」
「うーん、その方がいいのか……」
まあ多分、皆マリオさんみたいな反応になるんだろうなと思って言わなかった。
でもこいつには、なんか話してしまってたんだよな。
悪い奴じゃないような気がするんだよな。多分。
でもまあコイツの言う事も分かる気がするな。
要するに地球に宇宙人がやってきて、初めて見るゲームを教えてくれたって事だろ?
そりゃ、すごいわ。やってみたい。
案外、俺の事を真面目に考えてくれたんだな。
椅子に深く座り直したケインは、ふぅと息を吐いて、考えてから口を開いた。
「万が一の時のために備えておいた方がいいかもしれないな」
「万が一?」
「今のおまえの身分は、ただの食堂の雇われ従業員にすぎない。平民だよ。おまえを利用しようとする奴が現れた時、どんな身分の奴がいて、どんな汚い手段に出るか分からない。おまえは人の欲望を満たす塊だ。おまえや平民のマリオ達の身に何かあった時、今の身分では出来る事が少なすぎる」
「身分……って……。そんなのどうしようもないじゃないか」
「ヒカル。おまえは貴族になれ」
「貴族?」
「貴族になれば出来る事の幅が大きく広がる。強い人脈もできるし、並大抵の奴では迂闊におまえに手を出せない」
「貴族なんてそう簡単になれるものなのか?こんなでかい屋敷持ってる奴らなんだろ?」
「方法はある。貴族の女と結婚しろ。貴族の家柄に入れ。地位を高めろ」
「えええええ!?ま、待てよ……。そもそも相手なんていないだろ」
「僕は貴族だ。親友を貴族の女に紹介するなんて簡単な話だ」
「俺、彼女なんてできた事がないぞ。無理だって。顔だって悪いし、モテないって」
「マリオ達の身に危険が迫った時、自分は無力で何もできない。それでいいのか?」
「それは……嫌だ。俺にとっての恩人で、ここでできた初めての大切な人たちだ」
「じゃあ決まりだ。後日また呼び出す」
「うーん……」
彼女とかできた事がないし。もう諦めてるからな。
俺は普通の人間で、何も魅力がない。
相手にしてくれる人なんていないって。
数日が経った日、ケインの使いの人が来て再びケインの屋敷に呼び出された。
「ヒカル、よく来たな。紹介する。僕の妹のベルナデッタだ」
「ヒカル様、初めまして。ベルナデッタ・グレンヴィルです」
ケインと同じ金髪の奇麗でふわりとした柔らかそう長い髪。かわいらしさがあり、品のある奇麗な服の効果もあるのだろうか、かわいらしさの中に美しさのようなものも感じる女の子が、丁寧なお辞儀をする姿がそこにあった。
貴族らしい上品な振る舞いだ。
しかもめちゃくちゃかわいい……。
「えっ……あ……」
俺は緊張して何も言えなかった。
いやいやいや、おかしいだろ。
無理だろ……。完璧なお嬢様だし……。
適当に終わらせて、恥をかく前にさっさと帰ろう。
「ははははは。なっ?ベル。僕が言ったとおりだろ?ヒカルは、前におまえをどこかで見た事があって、その時からずっとおまえに一目惚れしてたんだ。一目惚れした相手をいざ目の前にしたら、緊張して何も喋れない。おまえが合わないと思ったらヒカルを振ってくれてもいい。後は二人で話してくれ。部屋は自由に使ってくれていいから。僕は今から出かける」
ケインは部屋の入り口のところで振り返り、俺の方を見て「が・ん・ば・れ・よ」と口パクで合図を送って、出て行ってしまった。
ベルナデッタと二人きりになった。
「………………」
ど、ど、ど、どうしよう。
何を喋ったらいいのか全然分からない。
頭が真っ白になって何も言葉が出てこない。
ケインのやつ……。
あいつが一目惚れとか変な事を言うから、余計に意識しちゃうじゃないか。
確かにこのベルナデッタって子、めちゃくちゃかわいいけど……。
俺、今初めて会ったんだぞ……。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。
妹のリコ以外の女の子と二人っきりなんて初めてだ。無理。
何も話題を思いつかない。
ふうっ。と、ベルナデッタが少し息を吐いて、口を開いた。
「とりあえず座りません?」
「そ、そうですね……」
二人で向かい合って椅子に座る。
「マリー様の件では、お兄様が大変お世話になりました。私もお兄様がいつまでもマリー様の所へ通う姿を見て心配していましたの。お兄様は、いつまでマリー様を追いかけ続けるのかと思っていましたから」
「まあ……そうですよね……」
「ヒカルには借りがあるし、親友になったのだから何か礼をしたいとお兄様は言いましたわ。そうしたらあなたは、以前私を見かけた事があって、その時に一目惚れしたから私を紹介して欲しいとお兄様に必死に頼み込んだそうですね」
いや、そんな事一言も言ってねえよ!!
あいつ何を言ってんの?
「えっ……いや……」
「お兄様としては、あなたに借りもあるし、あなたの事もとても気に入っています。自慢の親友だと私に説明してくれましたわ。私もお兄様が大変お世話になった人に対して、家族としてお礼を申し上げたかった事もあって、ヒカル様にお会いする事にしましたの」
「あ、いえいえ。それは……ご丁寧に……どうも……」
「ですが私も気になってお兄様に尋ねました。ヒカル様とは、どのような方なのですかと」
「はい」
「お兄様は答えました。ヒカルは、食堂の従業員として働いてる平民で、伝説の遊び人だよ。すごいやつだ。面白くて良いやつだから会ってみてくれと」
……ひどい。
食堂の従業員で平民なのは合ってるけど、伝説の遊び人って何……。
「…………」
「私は驚いて言葉が出ませんでしたわ」
俺も驚いて言葉が出ないよ。
「…………」
「お兄様の親友の方だと言うのですから、どこの貴族の殿方なのかと思っていましたの。平民であった事にも驚きましたが、伝説の遊び人だなんて……。あなたは、どれだけの女性をもてあそんで泣かせてきた最低な男性なのかしら」
「ああ……いや……」
「他の女性はもてあそぶ事ができても、私は騙されませんわ。どうせ私に近づいたのも貴族としての地位が欲しくて結婚したいとかなのかしら?それとも貴族の女をもてあそんでみたいだけなのかしら?お兄様は、あなたに騙されていますわ。もう金輪際、お兄様と会わないでください。縁を切ってください」
「あー……えっと……ちょ、ちょっといいですか?」
「言い訳ですか?どうぞ」
「俺からケインにベルナデッタさんを紹介してくれと頼んだ訳ではないんです。実は今、ベルナデッタさんに初めてお会いしました。ケインに妹がいる事も今初めて知ったんです」
「どういう事ですの?」
「えーと……まあ……。ケインが貴族の女の子を紹介してやるから会ってみろと言ったんです。まさかケインの妹を紹介されるとは思ってませんでした」
見る見る顔が真っ赤になっていくベルナデッタ。
「じゃ、じゃ、じゃあ……!!でもあなたが伝説の遊び人っていうのは、どう説明しますの!?」
「うーん……。そうですねぇ……。まあ詳しく話せばちょっと長くなるんですけど……」
オセロとトランプの遊び方を教えた事がきっかけで店が一気に繁盛し、その評判を聞いたケインが訪ねてきて福笑いにつながった経緯を説明した。
「つまり……あなたは、あなたが考えた……げえむ?の遊び方を教えただけ。そうおっしゃるのですか?」
「はい」
「それで伝説の遊び人……。わ、私は……とんでもない誤解を……恥ずかしい……。本当にごめんなさい!!」
さらに顔が真っ赤になるベルナデッタ。
「あ、いや……。悪いのはケインですよ。誤解するような言い方をして。ベルナデッタさんは何も悪くないです。謝らないでください。ほんと気にしてないですから。誤解がとけて良かったです」
「すみません……。ちょっと体が火照ってしまって……」
「だ、大丈夫ですか?休んでください。ベッドに移動しましょう。俺の肩に捕まってください」
俺は、ふらつくベルナデッタさんをベッドに移動させた。
「ちょっと水をもらってきますね」
俺は部屋の外に出て、使用人に声をかけて水をもらってベルナデッタさんに渡した。
「ありがとうございます……。お客様にこんな失態を晒してしまうだなんて……」
「いいえ、体調が悪い時は、ゆっくり休んでください。結構長居しちゃったし俺、帰りますね。お大事に」
俺はそのまま帰ってきた。
後日、ベルナデッタさんから俺宛に手紙が届いた。
先日は、お会いしたにも関わらず、さまざまな失態を晒してしまって大変申し訳ありませんでした。体は何ともなく、無事に回復いたしました。ヒカル様の介抱のおかげです。ありがとうございました。お話している途中でしたのに、とても残念に思っています。ぜひまたお会いできないでしょうか?今度は、ヒカル様の考えた、げえむというものを教えていただきたいのです。私、暇を持て余して退屈していますの。何かドキドキするようなげえむがあれば、教えてくださると嬉しいです。
ドキドキするようなゲームか……。
そうだなー。ジェンガとかなら作りやすいかな。
あれはいつだってドキドキするだろう。
「おまえさん、手紙をもらったのかい?ラブレターか?なんてな、ははは」
手紙を読んでいる俺の姿をマリオさんが見つけて声をかけてきた。
「ああ、マリオさん。ベルナデッタさんからまた会いたいって来ました」
「ベ、ベルナデッタ様の方から会いたいだって!?」
「退屈だからドキドキするようなゲームをしてみたいそうです。だからジェンガでも作ろうかなと思って」
「ジェンガ?それは、どうやって作るんだ?」
「木をこれくらいの長さに切って、同じ物を54個作るだけです」
「随分簡単だな。作っといてやるよ」
「助かります。ありがとうございます」
マリオさんが作ってくれた木にいろいろな色を塗ってカラフルにしてジェンガを作った。
そして再び、ケインの屋敷に行った。
「ヒカル様、お越しくださってありがとうございます。先日は申し訳ありませんでした」
「いえ、元気になられたようでよかったです。ベルナデッタさんからの手紙で、ゲームしたいって書いてたので用意してきました」
「ありがとうございます。楽しみです」
椅子に座っていたら、使用人が紅茶とお菓子を運んできた。
紅茶とお菓子を食べた後、机の上にジェンガを出した。
「これは……何ですの?」
「ジェンガといいます」
「随分カラフルなんですね。これをどうするのですか?」
「まずは準備しますね。こうやって全部積んでいきます」
「ええ」
「交互にブロックを抜いて一番上に置きます。それで崩した方が負けです」
「なるほど。分かりやすいルールですわ」
「じゃあ先攻後攻どちらがいいですか?」
「先攻でいきますわ。……抜けましたわ。これを上に置くのですね?」
「はい」
「置けました」
「次は俺の番ですね。……よし」
「私の番ですね。……抜けましたわ」
「俺ですね。……これかな」
「私ですね。……うっ。今のはちょっと危なかったですわ」
「俺ですね。はい」
「ええ!?早いですわね。……これ。あっ、やっぱりこっちを……。はい」
「お、やりますね。はい」
「また!?……手が震えますわ……あっ……なんとかなりましたわ」
「きつくなってきたな。……よし。ふぅ……。」
「まだ耐えるのですか!?……きゃああああああ!!!!」
ガシャン!!
積み上がったジェンガは、一気に崩れた。
「ベルナデッタさんの負けです。これがジェンガです。どうですか?」
「とても面白いですわ!!悔しい!!もう一度やりませんか?」
「いいですよ。今度は先攻後攻どっちがいいですか?」
「次は後攻でいきますわ」
それから俺は、ベルナデッタさんとジェンガで盛り上がった。
「ねぇ、ヒカル様。もっと盛り上げるために私と賭けをしませんか?」
「ああ、罰ゲーム付きって事ですね。面白そうですね。いいですよ」
「勝ったら相手に一つだけ、何でも命令できる。どうですか?」
「いいですよ」
その勝負はめちゃくちゃ盛り上がった。
そして勝ったのは、俺だった。
「よしっ!あー、緊張した!俺の勝ちですね」
ベルナデッタの顔が急に真っ赤になった。
「や、約束ですからね……。何でも命令してくだされば……」
「うーん、考えてなかったなー。何にしよう……。ちょっとパッと思いつかないので保留にしておいて、すごく盛り上がったし、もう1回やりませんか?」
「う、受けて立ちますわ」
次の勝負、勝ったのはベルナデッタだった。
「うわああああ。負けたー」
「や、やりましたわ」
「ベルナデッタさんは、俺に何を命令したいんですか?」
「保留にしておいてくださいますか?お互い、1つずつ相手の命令を聞ける権利を持ってるという事で」
「ええー、あんまり意味がないじゃないですか。じゃあ俺、決めました」
「な、な、なんですの……!?」
なぜかまた顔が赤くなるベルナデッタ。
「今度ぜひ、うちの店にたこ焼きを食べに来てください。美味しいですよ」
「わ、わかりました……。命令なら……仕方ないです……。すみません、また体が火照ってきて……」
「ええ!?大変だ!!早くベッドへ行きましょう!俺の肩を持って」
また使用人に水をもらってきて、ベルナデッタさんに飲ませた。
「はしゃぎ過ぎたのかな……。ゆっくり休んでくださいね。お大事に」
体が弱い人なのかな……?
俺はケインの屋敷を後にした。
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