第30話 新婚生活が始まった

「ヒカル様。不束者ですが、今日からよろしくお願いします」


ベルナデッタは、頭を下げた。


「こちらこそよろしくお願いします」


俺も頭を下げた。

今日からベルが俺の嫁となり、そして一緒に一つ屋根の下で生活する。

ああ、俺、ほんとに結婚しちゃったんだな。

といっても、ふたりだけで生活するわけではない。

掃除や料理といった家事は、全て使用人がしてくれる。

だからふたりだけで過ごす時間は、たっぷりある。


「そういえば……」

「ヒカル様。どうしましたの?」

「……いや、結婚はしたけどさ。俺達ってさ、ふたりでデートらしいデートとかした事なかったよね」

「そうですわね」

「どこかに出かけるのもいいかもしれない」

「とても良い考えですわ」

「ベルはどこか行ってみたい場所とかある?」

「そうですね……。私、町の市場に一度行ってみたいのです。町中で色々買い物とかしてみたいですわ」

「そっかぁ。貴族が平民の市場には行かないし、ベルにとっては珍しいよね。じゃあ行ってみようか」

「はい!」


俺とベルは、市場に出かけた。

俺はよくレインさんの店の買い出しで行く事はあるけど、ベルにとっては初めての経験だ。


「ヒカル様。肉や魚は、このような形で売られているのですね。私、初めて見ました。あっ!あちらには、服が売っていますわ。アリスに似合いそうですわ」

「確かにね。こういう服を着た方が女の子らしく見えるのにね」

「でもヒカル様の服がしっくりくるって言って絶対にこんな服、着ようとしませんわね」

「そうだね」

「あはは」

「あははは」

「ヒカル様!あちらには、アクセサリーを売っていますわ」

「ほんとだね。覗いてみようか」

「はい!」


風呂敷を広げ、アクセサリーを売っている店を覗いた。


「ヒカル様。このブローチ、硝子で出来ていますわ」

「そうだね。宝石ではないね」

「私、宝石のアクセサリーしか見た事がないので、逆に珍しいですわ。凄いですわね」


ベルは、硝子で出来た緑色のブローチを眺めている。


「それ買う?」

「いいんですの?」

「まあ硝子だからね。凄く安いけど、ベルが気に入ったのなら」

「はい!欲しいです!」


緑色の硝子で出来たブローチを買って、町中をぶらぶらとしていると夕方になった。


「そうだ、ベル。良いところに連れて行ってあげるよ」

「良いところですか?」


町の丘を上がったところに、綺麗な夕日に照らされた町の景色が見えた。


「うわあ!とても綺麗ですわ!」

「ここ良いでしょ?俺のお気に入りスポットなんだ。よく店の買い物して、ここから見える夕日を見るのが好きなんだ」

「はい!とても良い場所ですわ!」


俺達は、結婚してからデートするという普通とは、順番が逆のことをした。

でもこんな形があっても良いのかもしれない。今日は楽しかった。

これから色々な事があるだろう。

どんなことがあっても、ベルを幸せにしてみせる。

俺はそう誓った。

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