第35話 城攻め


 アルベルトたちは、【火炎操生スキル】と火炎魔術による一斉掃射で、城門を焼却処分し終えた。


 城門が消し炭と化して、内側に倒れこむと、アルベルトたちは意気揚々と、駆けこんだ。


 マップスキルを持つレギオンの面々は、パーヴェルとポールのいる謁見の間をまっすぐ目指した。


 その後ろを、軽装歩兵と重装歩兵の騎士たちがついてくる。


 城内には、多くの守備隊が詰めていた。


 王都よりも、城に兵を多く割いているあたりから、パーヴェルとポールの身勝手さや保身的な性格がうかがえた。


「燃え尽きなさい!」


 クレアが、パルチザンに炎をまとわせながら、廊下や広間を陣取る兵を片っ端から焼き切る。


 その隣では、妹のクラーラが【雷撃操生スキル】で剣と盾から稲妻を溢れさせ、兵士たちは一瞬で炭化していく。


「それにしてもアルト、外国の冒険者を雇うなんて、よく思いつきましたよね♪」

「ははは、冒険者に国境は関係ないからな。依頼があれば山越え谷越え、国境を越えて遠くのダンジョンを踏破する冒険者ならではだ」


 調子よく笑うアルベルトの隣で、エドワードも感心する。


「まさに、冒険者をされていたアルベルト様ならではの発想です」


 かつてはアルベールの重臣を担っていたエドワードだが、今ではアルベルトの重臣となり、活躍してくれている。


「しかし、5000人もの冒険者を雇う資金は大丈夫なのですか?」

「関所と通行税と組合を撤廃したおかげでスバル本家どころかタウルス王国やヴィルゴー王国からの商人が流れ込んできて、商人の数が四倍に増えたからな。毎月の売上税だけで金貨の山ができるよ」

「アルベルト様は、戦だけでなく内政にも通じていらっしゃる」

「あったりまえでしょ! あたしのアルトは無敵なんだから!」


 自信たっぷりに、あたしの、とクレアが言うと、アルベルトはさらに調子に乗って叫んだ。


「無敵が通るぜ!」


 マチェットソードを握る右手で【火炎操生スキル】、無手の左手から【颶風操生スル】を発動させると、混ぜ合わせて廊下の前方に放つ。


 炎が風を喰らい、成長し、爆炎と化して、指向性の爆轟が解き放たれた。


 城中に轟音を響かせながら、紅蓮の濁流は凄まじい勢いで廊下を飲み込み、突き当りで枝分かれ、窓を割って外へあふれ出し、洪水のように城の一区画を食い尽くした。


 異臭が漂い、黒く炭化した廊下を駆け抜け、レギオンの500人は謁見の間にたどり着いた。


 その門は豪奢な造りで、攻城兵器が欲しくなるほどに堅牢な印象を受けた。


「クレア頼む」

「頼まれたわ!」


 気合い一閃。

 クレアがルビードラゴンの牙から作り出したパルチザンを振るうと、門はあっさりと細切れになり、内側に爆ぜた。


「お邪魔するわよ!」


 クレアを一番槍に、謁見の間に流れ込むと、数百人の騎士団が待ち構えていた。


 遥か奥の玉座には、パーヴェル国王とポール王太子が座していた。


 アルベルトが【マップスキル】と【鑑定スキル】を同時に使うと、騎士の数は500人。全員、子爵爵以上の家に生まれた、上級騎士だった。


 装備は一人一人違っていて、全て個人で用意したオーダーメイド製だ。


 【鑑定スキル】曰く、パーヴェル国王の護衛役らしい。


 だが、貴族たちの拍付けと世間体のために作られたお坊ちゃま騎士団で、見てくれは立派だが、実戦経験は無い、素人集団のようだ。


 それでも、妄執と化した身分差別による選民思想とプライドのせいか、騎士団の面々は得意満面で剣を構えた。


「ふっ、ついに、最終兵器たる我らの出番か」

「本家に逆らう逆賊め、我らが討ち取ってくれる!」

「ここまで来たのは褒めてやるが、あのような雑兵を何人殺したところで意味はない」

「我ら王家の剣は一人一人が一騎当千の猛者。貴様らが相手にするのは50万人相当の無双騎士団と心得よ!」

「我らが栄光の礎となるがいい!」


 騎士団の奥で、パーヴェルとポールは、一縷の望みを託すように叫んだ。


「行け! 汚らわしい平民共を血祭りにあげろ! 勝てば旧ギヨーム領とオーガス領を与えるぞ!」

「アルベルト! テメェがオレに勝とうなんざ一生早いんだよ! 王族学院での日々を忘れたか!? 分家のテメェごときが、本家のオレに勝てるわけがないんだ!」


 まるで、自分に言い聞かせるように、ポールは叫んで、パーヴェルも命令を下す。


 500人の騎士団は、一斉に殺意を漲らせ、前傾姿勢を取った。


 アルベルトは、冷静に一言。


「クレア」


 任されたクレアは、得意げにパルチザンを肩に担ぐと、一歩前に出て、極上の笑みを作った。


「随分とデカイ口叩くわね。でも、いいこと教えて上げるわ。タイマン勝負で負けたことないのよね、あたし」


 騎士団が爆笑した。


 タイマン(一対一)の意味がわかっているのか。

 この人数が目に入らないのか。


 誰もが、そう嘲った。


 しかし、クレアの表情は余裕を崩さない。


「バカはあんたらよ。あたしくらいにもなれば、100人まではタイマンなのよ」

「愚か者め、我らは500だ! それで、貴様らはこの部屋に何人入れる?」


 兵数は互いに500人同士だが、レギオンの多くは廊下にいる。


 謁見の間は広いが、1000人も入れが足の踏み場もなく戦うどころではない。


 最初から500人全員が布陣している騎士団と違い、アルベルトたちは入り口あたりで小さく布陣するしかない。


 常に少数対大勢の有利を取れる。


 それが、騎士団の自信を支えているのだろう。


 が、コンマ一秒後、赤い閃光が奔った。


 クレアが、肩に担いでいたパルチザンを、真横に薙いだのだ。


 その円運動上にいた騎士5人の首がはね跳び、だが切断面は焼け焦げ、血煙を上げるだけで出血はしなかった。


 一方で、穂先から噴き出した炎は、5人の背後の10人を焼き殺し、灰燼に帰した。


 一瞬の出来事に、騎士団も、パーヴェルも、ポールも、誰もが言葉を失った数秒後、謁見の間に悲鳴が溢れた。


 たまらず、騎士団は逃げ出した。


 謁見の間の背後の壁にある、おそらくは王が登場する用である小さな扉に殺到して、将棋倒しになって味方を踏みつけながら、自称無双騎士団は責務を放棄した。


 武士道ならぬ、騎士道は死ぬことと見つけたり、などという忠義者は、この場にいなかった。


 かつて、アルベルトの父、アーダルベルトが言っていたことだが、これが貴族の現実だ。


 誰もが表向きでは王に忠誠を誓うも、腹の中では自分のことしか考えていない。


 パーヴェルは青ざめた。


「待て、待つのだ! 逃げるな、王を差し置いてどういうつもりだ」


 ポールは怒鳴った。


「テメェら全員死刑にすんぞ! 死刑だぞ死刑! 死刑になりたくなかったら今すぐ戻れよ!」


 だが、それで戻る騎士は一人もいなかった。


 悲しいかな、その場に残ったのは、腰を抜かして逃げ遅れた十数人だけだった。


 死体の焼ける異臭を払うように、クレアは槍を鋭く振るうと、雄々しく構え、凛とした表情で告げた。


「残念ね。100人もいないみたいだけど?」

「「ッッッッ…………」」

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