第10話 作戦失敗?
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登場人物まとめ
・アルベルト・トワイライト:通称アルト 15歳 本作の主人公 王家の分家でスキル解放スキルを持つ。解放できるスキルの数は一日1回だが、これはストックできる。
しばらくスキルを解放しなかったら、まとめていくつものスキルを解放できる。
・クレア・サンセット:3年前にアルトが槍を与えた騎士女子。桃髪ポニテ。
・クラーラ・サンセット:クレアの妹でウザカワ女子。黒髪ツーサイドアップ。
・セシリア・ミッドナイト:16歳。大商人の娘でウエーブ金髪の姉ポジション。
・ジャック・モルゲン:眼鏡の弓兵。三馬鹿の頭脳担当。
・ロバート・ミッデイ:赤毛の斧盾兵。三馬鹿のズルさ担当。
・マイケル・アフタヌーン:癖毛の二刀流。三馬鹿の馬鹿担当。
・ポール・スバル:クズ王太子
・パーヴェル・スバル:クズ王
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「バンガス、いるか?」
城下都市にあるアンナの実家までバイコーンを飛ばしたアルベルトは、遠慮なく、工房に顔を出した。
「これは殿下。うちの娘はちゃんと仕事してますか?」
やや無愛想な態度で、一応へりくだった言葉を作るバンガス。彼は、アンナの父親で城下都市では一番の鍛冶師だ。
職人を何人も雇う大工房もお頭で、トワイライト領では、唯一火縄銃を作れる工房だ。
貴族や王族にこびない頑固気質のせいでトラブルが絶えないが、アルベルトは身分で差別しない彼の性格を気に入っていた。
「アンナは良く働いているよ。今じゃうちの工房の頭だ」
「……そうですかい」
バンガスは、身分で差別しない一方で、鍛冶は男の仕事と割り切っている。
娘が鍛冶仕事をすることには否定的で、アンナを雇っているアルベルトには、複雑な気持ちを抱いているようだった。
「実は、今日は火縄銃の部品の注文がしたくてね」
「部品?」
アルベルトは、胸ポケットに手を入れると、アンナから受け取ったパーツを見せた。
「こいつだ。ウチの馬鹿共が分解して整備するときよく失くすんでね。こいつだけ余分に欲しいんだ。とりあえず、500個ずつ。毎晩遣いを出すから、その日に出来た分を渡して欲しい」
これが、アルベルトの考えた作戦だ。
バンガスの工房に500丁の火縄銃を注文すれば、製造コストも製造期間も莫大にかかる。
だが、まだアンナたちが作れない、ごく一部の部品だけ作って貰えば、コストも時間も大幅に短縮できる。
幸い、城の工房には、アンナたちが今までに作った、発射機構以外は良くできた銃が大量にある。
バンガスが明日までに部品を作ってくれれば、明日の午前にそれを組み込んだ完成火縄銃を手に、ドラゴン狩りへ行ける。
だが、バンガスは難しい顔を作った。
「ふ~ん、なるほどねぇ。まぁそれはいいですが、作業は五日後になりますよ」
「え?」
作戦が成功したと思い込んだアルベルトは、肩透かしを食らった気分だった。
「先約があるんでね。そっちの仕事が先でさぁ」
「特急料金なら払うけど駄目かな?」
「金の問題じゃねえ。これは信頼の問題ですよ。金を積まれたからアンタの仕事は後回しにした。そんなこと言われた客が、うちに仕事を回してくれますか?」
そう言われると、アルベルトは何も言えなくなる。
彼のこういう性格を気に入ってはいるものの、今回は、その性格が裏目に出た。
アルベルトは、への字口で頭をかいた。
◆
その日の夕方。
夕食を食べ終えたアルベルトは、城の会議室で、クレア、クラーラ、ジャック、ロバート、マイケルの五人と、作戦会議を開いていた。
眼鏡の位置を直しながら、ジャックが情報をまとめた。
「敵はハイドラゴン。ダマスカス並の強度を持ちながら、さらに耐熱、耐冷、耐雷、耐魔法を兼ね備えたウロコのせいで、物理攻撃はもちろん、魔力を含んだ攻撃はあまり効かない。物理攻撃のがまだマシだけど、火縄銃は間に合わない。こんなところかな?」
赤毛で短髪のロバートが、太い腕を組んで尋ねた。
「バカデカイ矢を撃つバリスタとかは駄目なのか?」
「そんな大きなものを現地までどうやって運ぶんだい? それに、ドラゴンは機敏だ。当てるのは至難の業だろうね」
「じゃあ攻城兵器の投石器を使おうぜ!」
「ロバート、コブラツイスト」
ジャックが指を鳴らすと、ロバートがマイケルに関節技をかけはじめる。
「ぎゃあああああ! なんでだぁああああ!」
「バリスタが当たらない相手に投石器が当たったら奇跡だよ」
小声を漏らしてから、ジャックは続けた。
「他に遠距離でハイドラゴンにダメージを与えられそうなのは、魔術を使えるメンバーが数人がかりで発動させる儀式魔術かな。これも攻城攻撃だけど、大きな道具が無い分、バリスタや投石器よりはマシ……だけど」
声音の低さから、ジャック自身、あまり有効だとは思っていないようだ。
クレアが尋ねる。
「何よジャック、何か問題があるの?」
「メンバー全員の意識を合わせる都合上、準備中はその場から動けないんだよ。ハイドラゴンを、上手くおびき寄せる必要がある。それが上手くいったとしても、魔法耐性のあるウロコに致命的なダメージを与えられる保証はない。ただでさえ耐熱耐冷耐雷だしね」
「ならスキルでの攻撃はどうだ? 儀式魔術を真似て、おびき寄せたハイドラゴンに全員同時のスキル攻撃を叩き込むんだ」
アルベルトの提案に、ジャックが言葉を返した。
「スキルは魔法じゃないけど、ハイドラゴンに効く程のスキル、僕ら持っていたっけ?」
アルベルトのスキル解放スキルは、一日一つ、使用ストックが増える。
この三年間で、アルベルトは1000のスキルを解放することが可能だった。
だが、500人の仲間たち全員に戦闘スキルを解放し、鍛冶職などの後方支援要員のスキルも解放して、クレアやクラーラのような主要メンバーには二つ目三つ目のスキルを解放している。
そのため、ポールが持つ【水流操生】のように、攻撃魔法じみたスキルを解放させたのは、ごく最近だ。
「アルトには悪いけど、僕らが持つ【操生】系のスキルは、どれも未熟だ。ダマスカス鋼並の強度を持つウロコを貫けるとは思えないし、魔法じゃなくても、ドラゴンには炎も冷気も雷も効果が薄い」
「それにアルト、確か【囮スキル】って、格上すぎる相手には効かないのよね?」
クレアの指摘通り、ハイドラゴンに、囮スキルは効かないだろう。
「ああ。だから現実的じゃない。けど、今、俺らが持っている火縄銃は50丁だ。一応持ってはいくけど、数が足りない。火縄銃に頼らず倒す方法が必要だ。となれば、俺らの強み、スキルしかない」
「そうですかぁ? 50人の一斉射撃なら、一発ぐらい喉に当たりませんかぁ?」
小首をかしげるクラーラに、アルベルトは補足した。
「何発かは当たるだろうな。けど、火縄銃は連射ができない。それを数で埋めようと思ったら、100丁は欲しいところだ」
「はぁ、全然足りませんね。これじゃただうるさい筒ですよ」
クラーラの一言に、アルベルトは閃くものがあった。
「それだ。音を使おう」
クレアが眉根を寄せた。
「発砲音で追い立てるってこと? でも、牛馬や鳥なら火縄の音に驚くけど、流石にドラゴンは驚かないんじゃない?」
「むしろ怒りそうですよね」
「クラーラの言う通りだ。だから、音で惹きつけるんだよ。ドラゴンに火縄銃を撃って、追いかけてきたらバイコーンで所定の位置まで逃げるんだ」
「「「おぉ!」」」
三人の声が重なった。
会議室の隅で、マイケルはまだコブラツイストをされていた。
「あぁああああぎゃあああああ!」
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