第11話 冒険者王子はすでにリア充

 翌朝。

 アルベルトたちは100頭のバイコーンにそれぞれ馬車を引かせ、スバル本家の領地を目指していた。


 が、思わぬ足止めを喰らうことになった。


「ちょっと、通れないってどういうことよ!?」


 クレアにすごまれるも、関所の番兵は涼しい顔だ。


「すいませんねぇ、こっちの報告ではほら、アルベルト殿下を含めて40人の兵の通行を許可するってあるんですよ」


 番兵の見せる羊皮紙には、確かに【40】と記されていた。


「なによこれ、ゼロが一つ少ないじゃない! こっちは400人の通行を許可されているのよ。上に確認してちょうだい!」


 クレアが柳眉を逆立てて抗議すると、番兵たちは、互いに含み笑いを交わし合った。


「いいけど、上も忙しいからなぁ、確認にどれだけの時間がかかるか。なんせ、お役所の仕事だから」


 人を馬鹿にした態度に、クレアは激昂するも、アルベルトが機先を制した。


「クレア、ここは言う通りに従おう」

「でも」


 クレアの首に腕を回して、引き寄せて密談をする。


「40人しか戦わせない以上、ポールの狙いは分家の力を削ぐためじゃない、俺の命だ。なら、どんな手段でも使ってくるはずだ」


 トワイライト軍をハイドラゴンにぶつけて兵を消耗させる。


 それが狙いかと思ったが、少数で戦わせて全滅が本命だったらしい。


 雰囲気から察するに、番兵もそのことを知っているのだろう。


「あのゲス王子最低ね。なら、他のメンバーは山越えをさせましょう。ていうかあたしら500人でいつもスバル王国中を移動しているんだし。他のメンバーは冒険者としてモンスター退治しに行くってことにすれば関所も通れるんじゃない?」


「可能だろうけど、あとでポールはトワイライト分家を処罰するだろうな。虚偽の報告で関所を通ったってな。どんな口約束をしようと、書類上は40人の兵でハイドラゴンを討伐することになっている以上、それを破れば、ポールたち本家に付け入らせる材料を作ることになる」


 クレアは、何かいい方法はないかと考えながら、低く唸った。


 アルベルトも少なからずイラついてはいたが、彼女の姿が嬉しくて、落ち着きを取り戻した。


 自分のために一生懸命になってくれる子がいる。


 三年前の王族学院が地獄だっただけに、アルベルトはこうした些細な事でも、幸せを感じられた。


「心配しなくても、今回の作戦は40人でも可能だ。元から他のメンバーは、仕留めきれなかった時のためのダメ押し要員だしな」

「なら、仕留めきれなかったらどうするの?」

「俺が超頑張る」


 アルベルトが親指で自分の胸を指して言うと、クレアは瞳を固めて頬を染めた。


 不覚にも、カッコイイと思ってしまったらしい。


 それを見逃さず、クラーラがすすっと歩み寄ってくる。


「わぁ、アルトってばカッコイイ。じゃあアルトがハイドラゴン倒したらご褒美にパンツを見せてあげますね。お姉ちゃんが」

「なんであたしなのよ! 自分の見せなさいよ!」

「え? いいの? はい言質取りましたぁ。というわけでアルト、お城に帰ったらわたしがパンツを見せてあげますね。恥ずかしいけどアルトのために頑張りますよ」


 クラーラのあざとい笑みに、クレアはハッと気づいた。


「やっぱりだめぇ! あんたが見せるぐらいならあたしが見せ! ッッ~~!」


 言いかけて、クレアは首筋まで赤くした顔を汗で濡らしながら、その場にしゃがみこんだ。


 両手で顔を隠すクレアは、べらぼうに可愛くて、アルベルトは心の中でクラーラに感謝した。


 クラーラは、小躍りしながら笑っていた。


 そのやりとりを、年齢イコール彼女いない歴で年末年始は男性同僚と家飲みでくだをまいている30代後半番兵たちは、歯ぎしりをしながら眺めていた。


   ◆


 一時間後。


 報告のあった森の中で、アルベルト達は【マップスキル】を頼りに周囲を散策していた。


 そして、見事ドラゴンを見つけたのだが、彼らの顔は硬く、誰もが言葉を失っていた。


 クレアが、緊張した声を出す。


「ねぇアルベルト……ハイドラゴンて、あんなに、だっけ?」


 木々の背は低く、明るい太陽光に照らされた森の中、日光浴をするように眠るドラゴンは大きく、口先から尾の付け根まで、体長は10メートル近くあった。


 折りたたんでいる翼も、広げれば同じく10メートルはあるだろう。


 隆起した筋肉と、体表を覆う紅蓮のウロコはマグマのように輝き、遠目にもその威容と威光を知らしめていた。


 内側に秘める力の胎動は、まるで噴火寸前の活火山を前にしているような印象を受ける。


 俺らは強い、と自信に溢れるレギオンのメンバーが、冷や汗を流している。


 そして、アルベルトも、眉間にしわを集めて唸った。


「おい、【マップスキル】か【鑑定眼スキル】持っている奴に聞くけど、アレなんだ?」


 脳内に、周辺の生体反応付きマップを持つ【マップスキル】ホルダーたちは重たい声で言った。

『エルダードラゴン』


 続いて、目の前のモノの情報を読み取れる【鑑定眼スキル】ホルダーたちが渋い声で言った。

『ルビードラゴン。ランク、エルダードラゴン。ハイドラゴンの上位種で飛行能力が高い。また、後ろ足が発達しており、地上をバイコーン以上の速度で駆ける。そのウロコはダマスカス鋼よりも強靭で、耐熱耐冷耐雷耐魔法性能を持つが、重さは三分の一である……』


「ハイドラゴンじゃないじゃないの!」


 声を潜めながら、クレアは感情的に怒鳴った。




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 本日昼よりドラゴン狩りが始まります。


 同時投稿の【冒険者ギルドを追放された俺が闘技場に転職したら中学時代の同級生を全員見返した】でも偶然ですが主人公がドラゴン狩りをしています。興味があれば是非。


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 1800PV 90フォロワー ★40 ♥30達成です。

 本作を支援してくれた方にあらためて感謝を。

 本作に★をつけてくれた

mtaka2さん s-hさん msnzさん dekatannsuさん

 エピソードに♥をつけてくれた

s-hさん syuugoさん kenichi0329さん Kaheu27283さん zyuugoさん

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 スキル解説


 剣術スキルなど、技術に関するスキルは、最初から基本技術、動作が身に着く。

 技術を使っているだけで、誰かから教わらなくても新しい技術が身に着く。


 技術系にかかわらず、スキルは使うことで成長する場合がある。


 現在開示できるスキル

アルベルト・トワイライト(主人公)

【剣術スキル】【槍術スキル】【弓術スキル】【魔法スキル】【狙撃スキル】

【マップスキル】脳内に敵味方の位置を示した周囲のマップが浮かぶ。

【ストレージスキル】モノを異空間に収納しておける。アルベルトの場合は倉庫1000棟分入る。

【鑑定スキル】対象の情報がわかる。情報量はスキルの成長度合いによる。

【水流操生】水を生み出し操る。

【土流操生】土、岩を生み出し操る。


クレア・サンセット(ツンデレ)

【剣術スキル】【槍術スキル】

【ストレージスキル】


クラーラ・サンセット(ウザカワ)

【剣盾術スキル】【槍術スキル】

【ストレージスキル】

【テイマースキル】動物を仲間にできる。


セシリア・ミッドナイト(商人)

【鑑定スキル】実はアルベルトよりもレベルが高い。


ジャック・モルゲン(眼鏡)

【魔法スキル】【弓術スキル】


ロバート・ミッデイ(赤髪)

【斧術スキル】【盾術スキル】


マイケル・アフタヌーン(馬鹿)

【二刀流スキル】

天然スキル?【馬鹿】騙されやすいが、話が複雑な詐欺には逆に騙されない。


ポール・スバル

【水流操生】水を生み出し操る。


レギオンメンバー

【囮スキル】


アンナ

【鍛冶スキル】

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