第12話 冒険者王子VSドラゴン


「ポールの奴、頭おかしいんじゃないですかぁ?」


 クラーラも苦々しく声を濁した。


「それは今更だけど、ただの調査不足だろうな。あいつらだって命は惜しいはずだ。エルダードラゴンだなんて知っていたら、恥も外聞も捨ててトワイライト分家どころか国内中の貴族に命じて討伐軍を編制しただろうぜ」


 でも、今回は逆に運が良かったと、アルベルトは付け加えた。


「エルダードラゴン相手じゃ、たとえ喉でも火縄銃なんて効かなかった。火縄銃を使わない戦法を考えて結果オーライだ」


 アルベルトの精神強度に、仲間達は冷静さを取り戻した。


 しかし、ただ一人、ジャックだけが、眼鏡の位置を直しながら、緊張感のこもった声で尋ねてくる。


「でもアルト、ルビードラゴンの走行スピードはバイコーン以上だ。アルトが火縄銃を撃ちこんで追いかけてきたところをバイコーンで逃げる作戦だったけど、どうするんだい?」

「リレー式で追いつかれる前に次の走者が新たに火縄銃を撃って注意を惹きつける」

「なら、その役目はあたしがするわ」

「わたしもしますよ♪」


 エルダードラゴンに追いかけられる危険な役目に、クレアとクラーラは迷わず志願してくれた。


「ありがとう。でももう一人ぐらい欲しいな。よし、バイコーンに乗るのが上手いマイケルに頼もう」

「無理無理無理無理無理無理無理だってそれ!」


 全力で断る、意気地の欠片も無い仲間に、ジャックが半目になる。


「マイケル、女子のクレアと女子で年下のクラーラが志願しているんだよ……」

「はっ、残念だったなマイケル。俺の勇気は女子供の半分なんだぜ!」

「ドヤ顔でなにを……」


 ジャックは肩を落とした。


 すると、ロバートがするっと間に割って入った。


「マイケルがやらないならオレがやるよ」

「いいのか!?」


 マイケルの顔が輝いた。


「ああ。だってこんなおいしい話はないもんな」

「え? おいしい?」

「だってルビードラゴン狩りだぜ? 酒場のねーちゃんたちに話せばオレは英雄で抱いて欲しいっていう爆乳美女たちが列を作るだろうぜ。そしてオレは明日から呼ばれるんだ。【ドラゴンスレイヤー】ってな」


 コンマ一秒後、マイケルは、一流の教養人でも真似できない程、一部の隙も無い所作で膝を折り、アルベルトの前にかしずいた。


「殿下、その大役、どうかこのマイケル・アフタヌーンにお任せを」


 それは、かつてない程に凛々しい顔だった。


 その背後で、ロバートが邪悪な笑みを浮かべているとも知らないで。


 アルベルトは苦笑しながらも、頼もしい顔で握り拳を作った。


「ああ、任せたよ。じゃあみんな、相手は炎も冷気も雷も魔法攻撃も効かない万夫不当のエルダードラゴン。だけど、ただそれだけだ。作戦通りに行くぞ。総員配置につけ」


 頼れるリーダーの指示に、クレアたちは鋭い表情で頷いた。



   ◆



 5分後。

 マイケルは、凛々しい顔の下で18禁レベルのエロい妄想を広げながら、バイコーンにまたがり、火縄銃を構えた。


 銃口についている照星をルビードラゴンのまぶた、そのやや上に重ねて、引き金を引いた。


 すると、撃鉄に挟んだ火縄がストンと落ちた。


 火縄の燃える先端が火皿に落ちて、火皿の火薬に引火。導火線のように、銃身の中の火薬を誘爆させ、12グラムの火薬が一斉に炸裂し、重さ10グラムの鉛弾を音速で飛ばした。


 耳をつんざく銃声と白い煙、肩に押し当てた銃床から伝わる反動と衝撃、一瞬遅れて、火薬の匂いが鼻腔を刺激した。


 ルビードラゴンの瞼、そのやや上で、何かが弾けた。


 外しはしたが問題ない。元から、これでキメる予定ではない。


 ルビードラゴンがまぶたを開けて、真紅の眼光でマイケルを睨んだ。


 途端に、マイケルの脳髄からエッチな妄想が消し飛んだ。


 ルビードラゴンが吼える。


「■■■■■■■■■■■■■■!」

「無理ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 マイケルは手綱を握りしめながらバイコーンの腹を蹴って、その場から逃げ出した。


 ルビードラゴンが頭を、そして、前足を地面に突き立てて上半身を持ち上げた。


 ずん ずん ずん


 最初はゆっくりと、だが後ろ足で立ち上がった二足走行は、恐竜のようなフォームで、みるみる巨体を加速させていく。


 そうして、五秒もしないうちに、トップスピードに乗った。


 マイケルとの距離が、ぐんぐん縮まっていく。


 地面から土砂を背後に蹴立て、森の木々を一顧だにせず薙ぎ倒し、ルビードラゴンが牙を鳴らす音が、毎秒大きく鮮明になっていく。


「にゅぁあああああああああああああああああああああああ! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 神様もう一生女の子にモテなくていいから助けてぇええええ!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」


 ルビードラゴンは大きな口を開けて、マイケルに噛みかかった。


 刹那、銃声が響き、白銀の牙が弾丸を弾いた。


 ルビードラゴンの意識が移る。


「ほらほらドラちゃーん、こっちですよ~。こっちに甘くて可愛いショートケーキガールがいますよぉ。食べたらほっぺた落ちちゃいますよぉ♪」


 ルビードラゴンはマイケルをまたいで駆け抜けた。


 頭上を通り過ぎるルビードラゴンの腹、股間、尻、尻尾を見上げながら、マイケルは恐怖で絶叫した。

 



 マイケルからバトンを受け取ったクラーラは、首尾よく逃げ続け、追いつかれることなく、クレアの待っているポイントまでルビードラゴンを誘導した。


「あとは任せたよお姉ちゃん!」

「任せなさい!」


 ルビードラゴンの顔面を撃ってから、クレアはバイコーンを走らせた。


 そして、アルベルトの待つポイントまで誘導する。


「アルト!」

「おう!」


 アルベルトは、三年間鍛え上げた【狙撃スキル】で火縄銃の引き金を引いた。


 すると、弾丸は狙い過たず、ルビードラゴンの口の中に当たった。


「■■■■■■■■!」

「これでブレスは噴けないだろ?」


 ドラゴンと言えば、口から炎を噴くことで有名だ。


 ルビードラゴンもその例に漏れないのだが、喉が傷つけば、おいそれと火を噴くことはできないだろう。


 アルベルトは、スキル攻撃部隊の待つ場所まで、一気にバイコーンを走らせた。


 そこでは、炎も冷気も雷も魔法も効かないルビードラゴンに、会心の一撃を加えるために、ロバートを含めた、同じスキルを持った五人の少年少女が、大きな円を描くような立ち位置で待っていた。


「よし間に合った!」


 アルベルトは、バイコーンで五人の間を通り過ぎる直前、笑顔で馬から飛び降りて、地面を殴りつけた。


 ルビードラゴンとの距離は、一馬身ならぬ一竜身分。一秒もせずに追いつかれる状況で、アルベルトは叫んだ。


「【土流操生スキル】!」


 他、ロバートを含めた五名の少年少女たちも、地面に手をついてスキルを発動させた。


 六人がかりのスキルで、地殻のように堅牢な超硬岩石が、地面から斜め35度の角度で飛び出した。


「■■!」


 トップスピードに乗ったルビードラゴンのどてっ腹が、切り立った岩石の先端に激突した。


 推定体重10トン以上の巨躯と、その巨体をバイコーン以上の速度で走らせる脚力が生み出した運動エネルギーが、全て内臓を覆う腹筋に直撃する形になり、ルビードラゴンは悶絶した。


 ウロコがダマスカス鋼より硬くても、衝撃は殺せない。


 炎も冷気も雷も魔法も効かなくても、スキルで作り出した岩なら関係ない。


 そして、ドラゴンの巨体と筋力が、全てアルベルトたちに味方してくれる。


 これが、アルベルトの考えだした、ドラゴン狩りの方法だった。


「名付けて、【なんだかんだで物理最強作戦】だ!」


 これで駄目なら、精鋭400人での一斉攻撃で駄目押しをする予定だった。だが、ポールの策略で、控え選手は31人しかいない。


 【マップスキル】で周囲に控えている仲間の位置を確認しながら、アルベルトは息を呑んだ。


 これで倒れてくれと、天に祈るような気持ちで、アルベルトはルビードラゴン睨みつけた。


 同時に、ルビードラゴンが覚醒した。


「■■■■■■■■■■■■!」

「くそっ!」


 その時、ルビードラゴンの背後から、バイコーンに乗ったクレアとクラーラが追いついて来た。マイケルはいなかった。


 バイコーンで全力疾走してくる二人と、【マップスキル】に映る周辺状況から、アルベルトは電光石火で作戦を弾き出した。


「クラーラ! そのまま走って俺らの後ろのモンスターの群れの背後で火縄を鳴らしてこっちに追い立てろ! お前の速さに俺らの命運がかかっている!」

「了解!」


 命令に疑問も何も差し挟まず、言われるがまま、クラーラはすぐ横を駆け抜けていった。


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 第12話を呼んでくださりありがとうございます。

 2000PV達成です。

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 本当にありがとうございます。


 最後にコメント紹介です。


 王侯貴族のヘイトと反比例して、主人公達が活躍するのは読んでて気持ちいです(笑い)

 今後の展開も楽しみです!

 byぽんぽこりーぬ


 コメントありがとうございます。

 今後もそういう対比を描きつつ、下克上を描けたらと思います。

 では、本日17時更新予定の13話でまたお会いしましょう。

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