第21話 冒険者大公が冒険者ギルドにクエストを出します
それから、スバル本家は、国内中に伝令を飛ばし、街や村々にお触れを出した。
トワイライト分家は謀反の罪により粛清。
当主、アーダルベルトは討ち取られた。
ドラゴン退治後、吟遊詩人たちを買収し、民を洗脳、先導したことが謀反の動かぬ証拠である。と。
パーヴェルたちは、完璧な情報戦略だと思い込んでいたが、これは失敗した。
何故なら、アルベルトには冒険者としての信頼がある。
三年間、国中を駆け回り、危険なモンスターを討伐し、領民に安全を与え、商人たちには豊富なモンスター素材の流通を与え、冒険者たちの取り分は侵さず、仕事をやり易いようにし続け、仕事が終われば街を練り歩いた。
普段は何の役にも立たず、ただ威張り散らし、税金をむしり取っていく王家とアルベルト、民がどっちを信頼するかは、火を見るより明らかだった。
むしろ、世論は父の敵討ちに燃える若き新大公、アルベルトを強く後押しした。
全ては、アーダルベルトの思惑通りとなったのだ。
戴冠式の翌日。午前。
アルベルトは、レギオンの主要メンバーで作戦会議を始めていた。
メンバーは、アルベルト、クレア、クラーラ、ジャック、ロバート、マイケル、それに鍛冶部門のアンナと木工部門のミント、アルベルトが大公になったことで、正式に御用商人(政府などに商品を卸す商人)として認められたセシリアの9人だ。
「じゃあ、例によって、僕が進行役を務めさせてもらうよ」
眼鏡の位置を直しながら、ジャックは長テーブルに就く面々の顔を見回した。
「敵、スバル本家の戦力はこっちの5倍だ。王国全土の8割はスバル本家が、残り2割がトワイライト分家が治めている」
「あれ? なら4倍じゃないの?」
クレアの問いに、ジャックは頷いた。
「全兵力を使えるなら、ね。昨日のカリーナ様を見ただろう? アルトは元から大人の家臣には疎まれていたし、大人たちが言うことを聞いてくれるとは思えないよ。本家につくかアルトにつくか、日和見、裏切り、内通者も考えられる。実際にこっちが動かせる兵力はずっと少なくなるだろうね」
今度は、ロバートが尋ねる。
「でもほら、本家って国境守るのに兵を使っているんじゃなかったか?」
「そ、だから五倍程度で済んでいるんだ。けど、だから危険でもあるんだよ。向こうはタウルス王国とヴィルゴー王国と全力で当たるために、一日でも早くこちら落としに来るだろうね。僕らには、悠長に戦の準備をしている暇がない。それに、国境も常に戦闘状態じゃない。やろうと思えば、いつだって僕らを潰すために兵を回せるんだ。そうなれば戦力は五倍どころじゃない」
クラーラが、顔色を窺うように、問い掛けた。
「まさか……弟のアルベールが裏切ったりしないよね?」
アルベルトの母、カリーナを含め、重臣たちが、アルベルトの弟、アルベールに偏っているのは、周知の事実だ。
「流石に、父親が殺されている以上、それはないかな。けど、重臣たちがどうなるか……動かず様子見をして、勝ちそうな方につきたい人もいるだろうね」
そこで、会議を見守っていたアルベルトが立ち上がった。
「とにかく、戦力の拡充だ。ミント、頼んだ新兵器は作れそうか?」
「問題ないよ。木工部総出で、一日70個作ってみせるね」
「アンナ、鍛冶部門は引き続き火縄銃の制作だ。焦らなくていい。その代わり誤作動を起こさない良いモノを確実に作ってくれ」
「任せな」
「リア姉、頼んだ物資は調達できそうか?」
「もちろん。明日から順次届けるね」
「よし、それと大々的に兵士志願者を募って三日で調練するぞ!」
「三日で、それは無理だぜ!」
「いや、あてはある」
マイケルが首を横に振ると、アルベルトは即答した。
「それから奴らを兵糧攻めならぬ物資攻めで前衛後衛の波状攻撃を仕掛ける。さらに冒険者ギルドに緊急クエストを発注だ。冒険者を集められるだけ集めるんだ。クエスト内容は四つだ!」
◆
その日から、アルベルト達は全力疾走のように動いた。
まず、冒険者ギルドに四つのクエストを出す。
冒険者は、その実力、クエスト達成能力に応じてFからA、そしてSの七段階のランクに分けられる。
冒険者は、それぞれのランクより一つ上のランク以下のクエストを受けられる。
そして、アルベルトがギルドに出したクエストは、以下の四つだった。
Fランククエスト 竹の切り出し。及び近くの村が襲われたときの戦闘任務。
Eランククエスト 戦場で弓兵部隊任務。
Dランククエスト 戦場で長槍部隊任務。
Cランククエスト 戦場での白兵戦。
Fランク冒険者たちは、猛然と、狂ったように竹林の竹を切り出しまくった。
なんと、新大公アルベルトが、竹を相場の倍値で買い取ると言い出したのだ。
しかも、その竹はアルベルト所有の竹林だ。
つまり、元手はタダだ。
ただし、提出するときは、枝葉を全て落として、普通の竹は6メートルの長さにカット、細い矢竹は30センチの長さで切り口を斜めにカットした状態で、と指定されたので、その通りにして、Fランク冒険者たちは竹を運び続けた。
代金は、この三年間でアルベルトたちが荒稼ぎした莫大な資金力があれば、余裕で賄えた。
そうして手に入れた竹を、【水流操生スキル】で水分を操り乾燥させて軽量させてから、矢竹ではない、普通の竹の先端に粘土を詰める。
竹の中は、最初から節で区切られた空洞だから簡単だ。
完成したのは、先端の空洞に粘土を詰めた長さ6メートルの竹の棒という、訳の分からないものだった。
だが、その棒きれを使い、アルベルトは集められたDランククエストと、兵に志願した平民たちの度肝を抜いた。
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